聖なる夜に私は叫ぶ

しずもり

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クリスマスイブ 19時半 暗い夜道で

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いや、別に同性愛を否定する気は全くないんだ。

だって、今まで真希の恋路を応援してきていたんだからさ。


『でも凄いね。真希まさきの彼氏って、ノンケだったんでしょ?
それを振り向かせるなんてさ』

『うん。ボク、そういうの得意なんだよね。じゃなくて!って呼ばないでよ。って呼んでっていったじゃん』

『えぇ~?どっちも変わらなくない?』

『全然違うよ!ボクは女の子に見えるわけじゃないけど、そこらにいる女の子よりも可愛いでしょう?
なのに" まさき "って呼ばれたらゴツくない?男臭くない?』

『いや、全然』

『先輩は大雑把な人間だもんねぇ~。気にならないか。別に" ちゃん付け "で呼ばれたいわけじゃないよ?
ただ、ボクのビジュ的に" まさき "と呼ばれるのが似合わないなぁ~って、思うだけ。だから" まき "でも" まきクン "でも良いけど、" まさき "は絶対ヤダ!』

『うーん。謎のこだわり。まあいいか。じゃあ私は" まき " って呼ぶよ』

『わあ、さすが佳奈先輩!ボク、先輩のそういう大雑把なとこ好き~』

『それ、褒めてないよね?』


そんな話をしたのは、真希が本命彼氏と付き合い始めた報告を受けた頃だったな。

得意、得意かぁ~。

たしかにそうなのかもね。だって聖だってノンケだったはずだもの。私と付き合っていた間にも、聖はマチアプに登録して浮気未遂を何度かしら事があった。本当は未遂ではなくて、がっつりと浮気していたかもしれないけど、相手は全員女の子だった。

それに同性愛者のことだって、ちょっと見下した発言をしていたのを聞いた事がある。私の愛読書にBL作品があると知った時とかにね。

まあ、今はどうでもいい。

さあ、この二人をどうしてやろうか?

「ちょっと早いけど、ホテルに行こうぜ。フレンチディナー付きだからさ」


聖たちは二人の世界に三十分ほど浸って、イチャイチャしながらイルミネーションを堪能している。その背後で、ケーキの箱を片手に佇む黒ずくめのわたし

その異様な光景にそろそろ周囲がざわつき始めた頃。
何も気付いていない聖が、真希を促して駅前の広場の東側へと歩き始めた。

ああ、そうだ。そうだった。

今夜、予約していたホテルはこの駅の周辺で、だからケーキも駅近くの店にしたんだった。

フレンチディナー付きの有名ホテルを予約して(私が)、人気店のケーキも予約して(これも私が、だけど)。
見栄っ張りで、流行りモノ好きで、格好ばかりつけたがる聖のリクエストではあったけれど、宿泊先で、ホールのケーキを本当に二人で食べきるつもりだったんだろうか?
15センチサイズだから、食べ切れない事もないけれども。


「えぇ!?ちょっと、聖クン!こんな暗い道を歩くの?ボク、怖いよ~」


ケーキの事に気を取られていると、真希の声が聞こえてきた。怖いと言いながらも、その声色には恐怖の響きがない。

 そりゃそうだ。真希は女子顔負けの可愛い顔をしているけれど、ホラー・スプラッタ映画大好きっ子だ。

そして『は?幽霊?存在してようがどうでもよくない?だって実体のないヤツが、生きている人間様に何が出来るっていうの?』なんてことを平気で墓地の前で言いきっちゃう子だからね。


「真希、怖かったら俺にもっとくっついてろよ。何が出てきても俺が守ってやるからさ」

きもっ!

何が俺が守ってやる、だよ。

聖、ホラー、全然駄目じゃん。
暗闇だって苦手じゃん。

馬鹿じゃないの?
ホテルに早く行きたいからって、抜け道としてしか使わないこんな暗い道を選んで歩くなんて自殺行為じゃない?

「そ、そういえば佳奈の奴、今頃何やってんだろうな」

「え~。急にどうしたのぉ?三年も付き合ったからやっぱり未練がある?」

「違っ。この暗い道を歩いてたら、ほら!きっと今頃は真っ暗な部屋の中で泣いてんじゃないかな、って。アイツからしたら突然振られたわけだしさ」


「あ~。先輩、全っ然気付いてなかったもんね。あんなに分かりやすく聖クン、先輩の事避けてたのにね」

「そうそう!佳奈は馬鹿だからな~。毎日、何も考えないで生きてんだろうな」


 暗い夜道を歩く恐怖を私の話を出すことで紛らわそうとしないで欲しい。そして人の悪口で恐怖を吹き飛ばそうとしてんじゃねー!

「ひっど~い!聖クン、三年も付き合ったのに元カノの事をそんな言い方するなんてぇ」

 非難しているようでいて、真希の声はとても楽しそうだ。真希のことだから、聖が暗い夜道を実は怖がっているのも気付いているだろうし、私の事を馬鹿にした言葉を聞くのも楽しんでいるんだろうなぁ。


「三年も、って最初の一年はもの珍しさと財布、二年目は丁度良い家政婦と財布。三年目は財布と空気だからな」

「ちょっと、聖クン。それ三年間、ほぼ財布なだけぇ~」


そろそろ、私、怒ってもいいかな。
暗い夜道をこいつら以外に歩く人もいないから丁度良いしさ。

私はその場で立ち止まり、二人と距離が空くのを待つ。薄暗い街灯の灯りの下に二人が差し掛かった瞬間、ケーキをそっと地面に置いてーー。


「きぃ~よぉぉしぃ~~」

思った以上に低い声が私の口から出て、左右の建物に挟まれた細い道にこだまのように響いた。

「ヒィッ!」

「え?」


突然、背後から聞こえてきた声に、分かりやすいぐらいに驚いてピョンと跳ねる聖。振り向いた瞬間に聖めがけて右手を横に真っ直ぐ伸ばして走り出す。

そしてもう一度、怒りを込めて叫ぶ。



「きぃよぉしぃぃ~こぉのぉやろぉおお~!!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ここまでお読みいただきありがとうございます。


叫んでる!?
叫んじゃってます?








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