聖なる夜に私は叫ぶ

しずもり

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クリスマスイブ 19時半 元恋人の赤い鼻

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 黒ずくめの私は、この暗い夜道にバッチリと溶け込んで、でも顔を隠す為にしていたマスクは白色で。
きっとマスクだけがゆらゆらと揺らいで、猛スピードで聖へと近付いてくるのだ。怖がりの聖はさぞ恐怖を感じているだろう。


「うわぁあああ!!」


 聖が真希の手を振り払い、恐怖で後ずさる。もの凄い勢いで近づいて来る私は、暗闇の中から次第に街灯の灯りに輪郭を現していたのだろう。

全身黒ずくめで、目はサングラスで見えず、白いマスクをした私はどうやら人ならざるものに見えたらしい。

恐怖に怯えた聖の足がもつれたのか。それとも腰を抜かしそうになったのか。
ぐらりと体勢を崩して体が地面に沈み込もうとしている。

「さぁせるぅかぁあああ!」

聖に対する怒りは、一発、二発殴ったところで消えはしない。
だけど一発は入れたい。暴行罪を取られたくはない。

ラリアットは駄目だ。
聖の背後には頭を守るマットもクッションもない。あるのは硬い地面だけだ。


走るスピードを緩め、伸ばしていた腕を曲げ、手を前へ出す。そして手のひらを大きく広げ・・・。


「で、出っ、ぶっ!!!」


聖の目の前まで近付いた時、今にもへたり込みそうな聖の顔が丁度私の肩の辺りまで下がった。

 そのまま聖の顔をガッと鷲掴みにする。所謂、プロレス技のアイアンクローだ。少々、張り手したような感じで顔を掴んでしまったけど、概ね成功だ。私、手も大きいってよく言われてたんだよね。


「い"でっ!い"でででで・・・ちょ、なっ、な・・・」

 勢いよく掴んだ聖の顔をそのままギリギリと指先で握力を使って締め上げる。目を塞がれた状態の聖は、何が起こっているのか分からず、抵抗するのも忘れてにされるがままになっている。


「あ!佳奈先輩」


私たちの様子を横からじっと見ていた真希は、どうやら聖の顔を鷲掴みしている黒ずくめの女が私だと気付いたらしい。


「何、何?もしかして聖クンのストーカーになったの?」

「んなわけあるか~い!!」

真希のあり得ない言葉に思わず、右手でツッコミを入れてしまい、鷲掴みにしていた聖の顔を離してしまった。


「へ?佳奈?何でここに?」


鼻を赤くした聖が間抜けな顔で聞いてくる。


「・・・ケーキ、予約してあったから」

ムスっとしながら、地面に置いたケーキを指指す。ケーキの箱は白色ベースだったので、暗闇の中でもうしわけ程度にぼぉっと存在感を示していた。

「先輩、ウケる~。そんな恰好でケーキを受け取りに来たんだぁ。それでボクたちの姿を見ちゃったんだ」

「どういうこと?」

「ん~?」


「どうして真希が聖と付き合ってるんだ、って聞いてるの!
アンタ、いつ、本命彼氏と別れたの?
何で聖と付き合ってんのよ?
来年には同棲したいって言ってたじゃん!」

「え?・・・本命、彼氏?・・・真希、それって俺の事、だよね?」

 そうだった。真希に本命彼氏がいる話は聖にはしていなかったんだった。ちょっとセンシティブな話だからね。真希も社内の私以外の人間には言っていなかったようだったから、私から聖に言うこともなかった。

もしかしたら聖は、真希にを知っていても、真希の恋愛対象が男性だということを知らなかったのかもしれないな。真希が聖に手を出すまでは。


「何でボクが彼氏と別れるのさ。は聖クンの用事にだよ?箱根もそう。ボクが彼氏と会えない時に、偶々聖クンと遊んだだけだし」

「はっ!?真希は二股かけてたのかっ?だって俺が初めての相手だって、初めて本当に好きになった相手だって・・・だから俺は!」

はあ?
27歳にもなって、そんな言葉で騙される男っている?
それで喜んで、三年付き合ってた彼女を捨てた、と。いや、私の事は財布扱いだったんだっけ。

そんな事をいう男と付き合っていたんだから、26歳の私も人のことを言えないか。



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ここまでお読みいただきありがとうございます。
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