聖なる夜に私は叫ぶ

しずもり

文字の大きさ
10 / 15

クリスマスイブ 20時 対決 4

しおりを挟む
 結局、本人は上手く隠せていると思っていても、そう上手いこといくわけないって話だよ。
最初は慎重に行動し、証拠を残さないようにしていても『絶対にバレるわけがない』という過信から、ボロが出ていくものなんだろう。

浮気に全く気付いていなかった私は・・・まあ、真希と聖が関係を持つようになったのは半年前かららしいので、いずれは気がついた、はず。たぶん。


 週末に出張が重なる事が多い恭ちゃんは、真希に対してずっと申し訳ないと思っていたそうだ。

 半年前、相手側のミスで商談が急遽キャンセルになったので、恭ちゃんは真希の為にホテルをキャンセルして帰ることにした。

 翌朝の昼には到着する夜行バスで戻って来る。こっそり帰って真希を喜ばそうと考えた恭ちゃんは、さりげなく真希の予定を聞いたらしい。会いに行って真希が不在がいなかったら無駄足になってしまうからだ。

バスは順調に昼に到着し、恭ちゃんは一人暮らしの真希の家を出張先で購入した土産を持って訪れた。けれど真希は不在だった。

家にいるとは言っていても、真希だって二、三十分ぐらいの外出ぐらいするだろう。そう思った恭ちゃんは真希のアパートの前にある公園のベンチで待っていたらしい。二時間ほど。

 そこまで待って戻って来ないのなら、真希は急に予定が入ったのだろう。連絡も無しに来たのは自分の方だから、と恭ちゃんは納得して自宅へ帰ったらしい。


真希のことを疑うつもりもなかった恭ちゃんが何故、浮気を疑うことになったのかといえば、その夜に掛かってきた真希からの電話だった。

『恭クンが居なくて寂しかっただよ?でもね、恭クンはお仕事を頑張っているんだもんね。だからボク、今日はずっと家で恭クンの為にお料理の練習してたんだぁ。明日は会えるよね?今日のボクの練習の成果を見せるからね」

 恭ちゃんは真希のその言葉で、初めて真希の浮気を疑ったらしい。
 アパートのドアは何度かノックした。ずっと家にいたのなら気付かないはずはない。だって真希は豪邸に住んでいるわけじゃない。ごく普通の1DKの一人用アパートだ。

 仮に真希が食材を買いに出掛けていたとしても、二時間も公園から真希の帰宅を待っていた恭ちゃんが気付かないはずがない。何より二時間も外出していたのならというような言い方をするだろうか。

 それでもまだほんの少し疑っただけ。もしかしたら真希が誇張して言っただけで、外出していた事を隠しているわけではない。そう考えて真希にそれ以上は尋ねる事もせず、けれど小さな疑惑の芽から目を逸らすのは何かが引っかかって。

それから恭ちゃんは真希と会わない休日やドタキャンすることになってしまった時に、真希のの会話の中にある矛盾を探すようになったらしい。

因みに恭ちゃんが二時間待ちぼうけだった日の外出は、聖との箱根旅行だったらしい。数日後に真希から箱根饅頭を貰っていたらしい。


くぅっ!!

この時に私が聖の浮気に気付けていたら!

 この時の私は、恭ちゃんから真希の話を聞いた時に真希を庇ってしまったのだ。
真希が一目惚れから一年もアピールして付き合う事になった相手が、まさか恭ちゃんだとは思わなかった。

 真希の素行は日頃から聞いていた事もあって真希が嘘を吐いていただろうこと。そしてその嘘が浮気を隠す為の嘘だということにも、確証はなくとも何となくはそうなのだろう、と気付いていたのに。

けれど二人が付き合う事になるまでの真希の頑張りを聞かされていた私は従兄弟恭ちゃんよりも、仲良くしている職場の後輩真希を取ってしまったのだ。

 だって真希が本当に恭ちゃんのことが好きだと思っていたから。
恭ちゃんに中々会えなくて、寂しくて当てつけのように男友達と遊んでいるだけだろう、と。
だから私が何度も忠告すれば、真希も遊ぶのを止めるんじゃないか、って。

そうすれば、『浮気はしてないと思うし、何かあったら連絡するよ』なんて、私も恭ちゃんに嘘を吐いてしまった。
もしかしたら恭ちゃんに嘘を吐いた後ろめたさから、真希にしつこく注意してたのかもしれない。

「恭ちゃん、ごめんね。私も嘘を吐いてた。真希が恭ちゃん以外の男友達と遊んでるのを知ってた。だけど真希が好きなのは恭ちゃんだったから、遊ぶのを止めるように言い続ければ問題ないって思い込もうとしてた。

だからバチが当たったみたい。真希は私の彼氏と浮気してた。今日も私の彼氏とホテルに行こうとしてたよ」

 私が真希の目の前で電話をしてきた事から、恭ちゃんは予想をしていたのかもしれないけど、真希の浮気相手が私の彼氏だったと聞いて、恭ちゃんの驚く気配がスマホ越しからでも伝わってきた。

「ちょっ!恭クン、嘘だから!佳奈先輩が勝手にそう思い込んでいるだけだよっ。ボク、浮気なんか絶対してないから!彼氏と上手くいってない佳奈先輩の逆恨みで、八つ当たりで。ボクは悪くない!全部、誤解だから!」

私に言葉に慌てた真希が、私の手からスマホを奪い取って叫ぶ。

「・・・真希。明日の夜にはそっちに戻るから。そうしたらちゃんと話をしよう」

「ボク、別れ話なんか嫌だからね!絶対、絶対別れないからね!」

「佳奈、巻き込んで悪かった。今度、改めて連絡する」

プツッ。プープープー。

スマホのスピーカーから通話を終了した音が薄暗い夜道に大きく響いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ここまでお読みいただきありがとうございます。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ここまでお読みいただきありがとうございます。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

捨てたものに用なんかないでしょう?

風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。 戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。 愛人はリミアリアの姉のフラワ。 フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。 「俺にはフラワがいる。お前などいらん」 フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。 捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。

セラフィーネの選択

棗らみ
恋愛
「彼女を壊してくれてありがとう」 王太子は願った、彼女との安寧を。男は願った己の半身である彼女を。そして彼女は選択したー

公爵家の養女

透明
恋愛
リーナ・フォン・ヴァンディリア 彼女はヴァンディリア公爵家の養女である。 見目麗しいその姿を見て、人々は〝公爵家に咲く一輪の白薔薇〟と評した。 彼女は良くも悪くも常に社交界の中心にいた。 そんな彼女ももう時期、結婚をする。 数多の名家の若い男が彼女に思いを寄せている中、選ばれたのはとある伯爵家の息子だった。 美しき公爵家の白薔薇も、いよいよ人の者になる。 国中ではその話題で持ちきり、彼女に思いを寄せていた男たちは皆、胸を痛める中「リーナ・フォン・ヴァンディリア公女が、盗賊に襲われ逝去された」と伝令が響き渡る。 リーナの死は、貴族たちの関係を大いに揺るがし、一日にして国中を混乱と悲しみに包み込んだ。 そんな事も知らず何故か森で殺された彼女は、自身の寝室のベッドの上で目を覚ましたのだった。 愛に憎悪、帝国の闇 回帰した直後のリーナは、それらが自身の運命に絡んでくると言うことは、この時はまだ、夢にも思っていなかったのだった―― ※第一章、十九話まで毎日朝8時10分頃投稿いたします。 その後、毎週月、水朝の8時、金夜の22時投稿します。 小説家になろう様でも掲載しております。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

とある伯爵の憂鬱

如月圭
恋愛
マリアはスチュワート伯爵家の一人娘で、今年、十八才の王立高等学校三年生である。マリアの婚約者は、近衛騎士団の副団長のジル=コーナー伯爵で金髪碧眼の美丈夫で二十五才の大人だった。そんなジルは、国王の第二王女のアイリーン王女殿下に気に入られて、王女の護衛騎士の任務をしてた。そのせいで、婚約者のマリアにそのしわ寄せが来て……。

愛のバランス

凛子
恋愛
愛情は注ぎっぱなしだと無くなっちゃうんだよ。

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

処理中です...