【 本編 完結 】結婚式当日に召喚された花嫁は、余興で呼ばれた聖女、でした!?

しずもり

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王太子の婚約者になった日

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ヤダヤダヤダッ!!


を見られちゃった!恥ずかしいっ!無理っ!


私のがバレた事より何より恥ずかしい~!

本当、マジで無理ぃっ。


今、私の目の前には笑顔のアレクシス殿下が座っている。

約束の時間よりも少し遅れてやって来たアレクシス殿下は、笑顔のまま紗夜の正面に座ると、侍女が紅茶を淹れ終わると同時に、自身の護衛や侍従を含めて下がるように命じた。


王宮内の庭園とはいえ、護衛も付けずに二人きりにするのは、と護衛の者は躊躇した。
しかし、アレクシス殿下の滅多に見られない笑顔の圧に怯えて負けて声の届かない場所まで下がるだけなら、と二人から離れていった。

ちょっ、待って、侍女さん、護衛さんたち!下がるなら殿下も連れていって?

殿下もお忙しいでしょうから執務に戻った方がいいんじゃないかなぁ。


だから、この場は私一人にして下さいぃぃ。


私がそう思っても、アレクシス殿下は微笑みを浮かべたままテーブルを離れる気配はない。

それはそうだ。
婚約者候補との交流を図る為のお茶会に来ているのだ。来て早々に話すことなく帰るわけがない。


でも、、、彼は確実にを見ている。


紗夜がをしていた、と気付いてはいないかもしれない。


だが、しかし。

気付いていないなら余計に、いきなり指パッチンをしていた紗夜を不審に思うだろう。
侍女や護衛たちは微かな音には気付いたかもしれないが、私が指を鳴らしていた姿は紗夜の体が死角になって気付かなかったはずなのに。


あの恥ずかしい姿をアレクシス殿下に見られていただなんてっ!!





紗夜が元の世界に戻っても非日常は続いた。非日常が続くとそれはもう日常だ。

ひっきりなしに紗夜の元へとやって来る霊を浄化する日々も当たり前になった頃、ふと思ってしまったのだ。


あれっ?

この祈りのポーズってちょっとダサくない?



本当に何でそんな事を思ってしまったのか?


厨二病か、それとも若気の至りなのか……。


きっと知らずに調子に乗ってしまっていたのだ、私は。


その日から私は浄化のポーズを考えた。
ひたすら考えて完成したのが、親指と中指で指を鳴らす動作、つまり指パッチンだったのだ。


その頃、流行っていた漫画のキャラの指を鳴らす姿がかっこ良い、と思っていた。ちょっと試してみたら指パッチンでも浄化出来てしまった。


そう!出来てしまったのだ……。


その時の私の年齢を考えてみて欲しい。中三にはなっていたけれど、まだ十五歳の子どもだ。十五歳の思考力なんてそんなもんだ。



・・・・・皆、そうであって欲しい!


その日から紗夜の浄化スタイルは指パッチンになった。

それも誰にも見られていないと知りつつも得意げに指を鳴らしていた、恥ずかしい事に。


紗夜が左手でも右手でも指を鳴らせるようになり、乱れ打ちのように鳴らせるようになったのはいつ頃だったろうか?


確か、お酒が飲める歳になっていた頃の事だった。昭和、平成と時代ごとの流行などを特集した番組を見ていた時だ。


あれはお笑い芸人なのかタレントなのか、まぁどっちでもいい。
とにかく、指パッチンを芸にしている人が出ていたのだ。


その姿を見た瞬間、頭が真っ白になった。
次に自分が黒いタキシードを着て赤い蝶ネクタイを身に付けて、指パッチンをしている姿が脳裏に浮かんでしまった。


違うっ!私のイメージでは軍服なのっ!


しかし一度、頭に浮かんでしまったものは記憶からは消せない。


祈りのポーズに戻そうかとも思ったが今更で、なんだか気恥ずかしい。

ならばいっそカッコ良く指を鳴らすポーズを極めればいいのだ。


何故かそう思い込んでしまった私は、鏡の前で特訓に特訓を重ねて作り上げた浄化スタイルに合格点を出して満足した時にふと気が付いた。


あれ?私、念じるだけで浄化できた……よね?


別に祈りのポーズも指パッチンも要らなかった……。


浄化スタイルなんて、別にどうでも良かったじゃん!


そう思った時には指パッチンが体に染み付いていた。心なしか、指を鳴らした時の方が浄化の力も強い気がする。


なら、もういいじゃん。どうせ人に見られないようにやってんだから。


考え過ぎて自分自身がアホ過ぎて、私はもうどうでもよくなってしまった。

周囲に人が居る時でもさり気なく気付かれない様に、自然体で指パッチンする技まで身につけたのだ。
あとは自分が感じる羞恥心に蓋をすればいいだけの事。



開き直った私はそれからも指パッチンで浄化を続けて今に至る。
……至ったところで、とうとう指パッチンをしている姿を人に見られてしまった。


その事がただただ恥ずかしい。

本当に恥ずかしすぎて、私の頭からは自分がサーヤと呼ばれていた聖女だと気付かれる可能性がすっぽり抜けていた。


だって、聖女サーヤは指パッチンなんてしていなかったから。


「やはり貴女は聖女サーヤだったんだな」


アレクシス殿下の思いがけない言葉で私の脳は思考停止フリーズした。


オワタ。


異世界生活、オワリマシタ。


指パッチンという恥ずかしい姿を見られた上に、使命を放棄して元の世界へと逃げ帰ったと言われている聖女サーヤだという事もバレてしまった。


穴があったら入りたいどころか、生き埋めにされてしまうかもしれない。


私は絶望しながら俯いていた顔をアレクシス殿下の方に向けた。


するとそこには何故か瞳を蕩けさせて甘い笑みで紗夜を見つめるアレクシス殿下の姿があった。


「サーヤ、、、いや、今はクリスだったね。仮初めの候補者などではなく、本当の僕の婚約者となって欲しい」


「はっ!?」


「クリス、愛している。どうか私と結婚してください」


気づけばアレクシス殿下は紗夜の目の前まで来て跪いて手を差し出していた。


そう、丁度手を置きやすい高さと位置に。


恥ずかしい姿を見られた羞恥から私の思考は停止し、そしてトドメとばかりに混乱状態に陥った。


思考停止からの再起動後にいきなりのプロポーズだ。

しかも聖女サーヤである事も知られていての愛の言葉まで。

混乱状態は解除されないままに、私は思わず目の前に差し出されたその手に、自分の手を置いてしまった。


犬がお手をする様に。


「ありがとうっ、クリス!一生、君の側から離れないよ」


乗せた手をギュッと握られて、あっという間に私の体はアレクシスの腕の中にスッポリと包み込まれていた。


そこは『一生君を守るよ』とか『二人はずっと一緒だ』とかじゃないのか、などという突っ込みも混乱状態の紗夜には出来ない。そもそも気づく余裕も今の紗夜にはなかった。


後に誰かが、熱い抱擁というよりは捕獲された感が否めなかった、と言ったとか言わなかったとか、、、。


兎に角、こうして婚約者候補になってわずか数日で、紗夜はアレクシスの正式な婚約者となったのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


ここまでお読み下さりありがとうございます。

「いいね」やエールでの応援もいつもありがとうございます。
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