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【 番外編 】ざまぁ、な話。その後の話。
元婚約者のその後 3
しおりを挟む(元婚約者 視点)
教会で永遠の愛を誓い合う筈だった紗夜が忽然と姿を消した。
それから僕は何もかもが上手くいかなくなった。
突然、紗夜の足下から強い光が現れて、その光が消えた時には紗夜の姿は何処にもなくて、何故だか僕は全裸になっていた。
それは教会に居た人たち全員が目撃した事実だ。皆、突然の強い光に目を閉じてしまっていたが、扉が開く音を聞いた人も誰かの足音を聞いた人もいなかった。
それなのに紗夜は居なくなった。僕のタキシードと一緒に。
チャペル内は騒然として直ぐに花嫁を探したけれど見つからず式は中止になった。
一日経っても紗夜からの連絡も無く、紗夜の家族は捜索願いを出した。
動画は式に参加していた誰かが撮影していたものがネットに投稿されたようだった。この衝撃的な動画は直ぐに万再生される程に話題になり、どこかのテレビ局でも取り上げられたらしい。
勿論、その動画には顔と下半身にモザイクが掛けられた僕の姿も映っていたので、僕は全国区で恥を晒した訳だけれど、それよりも紗夜の安否の方が気にかかった。
動画は最初はビックリ映像的な扱いだったのに、紗夜の家族が捜索願いを出した事が知られると他のテレビ局も事件性が高いと判断したのか、ニュース番組でも放送された。
式に参加していた友人以外にも花嫁が突然消えてしまった花婿の僕を心配する人たちから、スマホにたくさん連絡があったところまではよかったんだ。
誘拐、神隠し、花嫁の意思で失踪。
動画のインパクトが大きかった所為か、ニュースやネットで色々と議論されるほど話題になった紗夜の失踪は、遂には異世界召喚なんて馬鹿げた説が出始めた程だった。
僕への同情的な流れが変化したのは一週間後。新たな動画が注目を浴びた事で一転して、皆の僕を見る目が変わってしまった。
" 花嫁の不可解な失踪 "、という事件が起きる一週間前までは、再生回数が三桁にも満たない動画だった。
とあるファミレスでの女性二人の会話を、顔にモザイクを掛けて、巫山戯たタイトルをつけて呟いていただけの、一般人が雑に投稿した下らない動画の筈だった。
" 寝取り女 VS 寝取られ女 "
コメントだってそんなについていなかったその動画の投稿主はニュースを見て気付いてしまった。
寝取られ女が紗夜だという事に、そしてニュースでコメントしていた友人の声が誰なのか、という事に。
投稿主は正義感からだったのか、それとも再生回数狙いだったのか?
投稿主は紗夜の顔にあったモザイクを外し、もう一方の女性の顔のモザイクはそのままで、けれど画面の下枠にインタビューを受けている友人の画像を小さく載せて動画を再アップしたのだ。
" 花嫁の失踪原因?花嫁は消されたのか!?"
この投稿主はご丁寧にも警察とテレビ局にも動画を提出していた。
婚約者を寝とった事を告げているはるかと顔面蒼白になっている紗夜の動画を。
僕はその事を友人たちからの厳しい言葉とともに送られてきたURLをクリックして知った。
モザイクが掛かっていてもはるかだとすぐに分かる特徴のある甲高い声。その声が『ごめんねぇ。。』と口では謝る素振りをしながらも続く言葉は聞くに耐えない僕とはるかのホテルでの情事の一部始終。
ピー音で消されてはいるものの話の前後で内容を容易に推理出来る下品極まりない言葉の羅列に、はるかがどれだけ話を盛ったのかと腹が立つ。
" 僕はそんなプレイなんてしていないぞ!"
それからはネットで拡散されまくり、警察には任意で事情を聞かれ、僕が住む新婚夫婦の新居となる筈だったマンションにもテレビ局が押しかけて酷い目に遭った。あれからスマホの電源は切ったままだ。
確かに僕は浮気をした。だけど紗夜は許してくれたんだ!
だってあの日、教会に紗夜が居たのは浮気されたけれど僕と結婚するという事だろう?
なのに結婚式と新婚旅行の為に取った有給休暇が終わる頃に、残っている有給休暇もまとめて取るように、という連絡が上司からきた。遠回しに退職するようにも勧められた気もする。
今はネットで何でも注文出来て生活に困らないからずっと家に引きこもっていても生きていける。
だけどずっと家に引き篭もっていると気分が滅入る。電球が切れたりテレビにノイズが走ったり日常のよくある些細な事でも嫌な気分になっていく。
気付くと誰か人の気配がして期待して振り返っても紗夜は居ない。
新婚夫婦の新居となる筈だったこの部屋の合鍵を持っているのは紗夜だけだ。
はるかがあんな風に僕との事を紗夜に言わなければ、本当は紗夜の荷物だってこの家にあった筈だったのに。
あんな女に騙されて紗夜を不安にさせたから、引っ越しは新婚旅行から帰ってきてから行う事になってしまっていた。だから未だここには紗夜の荷物は何も無い。
でもきっと紗夜はこの家にやって来る筈だ。だって此処は紗夜が戻るべき場所だから。
それからは只々紗夜をこの部屋で待って、映りの悪いテレビを見ながら食べて寝て、紗夜の携帯番号以外を着信拒否にして、時折、スマホの電源を入れて紗夜からの連絡が無いか確認する。
愛しい紗夜。
僕は突然居なくなった君の事を怒ってなんかいない。責めるつもりなんてないんだ。
だからもう隠れる必要なんてないんだ。
さぁ、遠慮しないでそこから出ておいで?
ここは僕たちの愛の巣だ。誰にも邪魔させなんかしない。
ずっと僕が傍にいてあげる。だから紗夜も僕の傍にいて?
" 本当に?"
不意にか細い女性の声が聞こえた気がしてテレビから視線を外して声の主を探す。
「紗夜!やっぱり僕たちの家に戻って来たんだね!
不安にさせてごめんよ。あんな女に騙された僕が悪かった。あの女には『二度と僕たちには近づくな!』とハッキリと伝えたよ。
だから安心して?」
部屋の隅に人影を見つけて僕は自分が笑顔になった事に気付く。
あぁ、やっぱり紗夜が居ないと僕は駄目なんだ。
" 私は、ずっと傍に居ていいの?"
小さな声だけれど、僕の頭の中には紗夜の声がハッキリと聞こえた。
「勿論、僕らは夫婦になるんじゃないか。明日、一緒に婚姻届を出しに行こう。そして新婚旅行にも行こうよ。」
薄暗い部屋で紗夜の顔はよく見えないけれど、彼女はもきっと笑顔になっている筈だ。もしかしたら嬉し泣きをしながら微笑んでいるかもしれない。
紗夜が戻って来てくれて本当に良かった。これで僕の生活は元通りになる。
予定していた新婚旅行はキャンセルになってしまったけど、紗夜と一緒に行けるなら何処だって構わない。
「紗夜、新婚旅行のやり直しは紗夜の好きな場所に行こう!
大丈夫。紗夜となら何処だって楽しく過ごせる筈だよ。
新婚生活だってきっと凄く楽しくて幸せな毎日になる。
さぁ、紗夜。そろそろ僕に顔を見せて?
愛しているよ、紗夜。」
いきなり居なくなった事を気にしているのか、僕に背を向けて蹲ったままの紗夜の後ろ姿に優しく優しく声を掛ける。
" ありがとう。ずっとあなたの傍に居させてね。"
やっと、僕の日常は元に戻る。紗夜とともに。
(紗夜 視点)
千切っては投げ、千切っては投げ。
そんな言葉が浮かんでくるぐらいの光景だったよねぇ、、、。
元婚約者の事をほんの少し思い出した後、初めて出会った日の光景が頭の中に浮かんできた。
元婚約者には全くもって未練など無い。だけどこれからもふと思い出してしまう人でもあると思う。
気持ちが残ってるとか良い思い出として、ではなくて、何というかとても凄い人だった。
元婚約者と出会ったのは、内定を貰っていた会社の入社説明会の会場だった。
" 運命の出会い "とは違う、もの凄いインパクトのある出会い方だったと思う。
入社説明会が行われるその会場は、一部では出ると言われている所謂、心霊スポット的な場所だった。
私は自分に結界を張る事が出来るので、あまり気にはしなかったのだけど、会場に入ると前方の席の方がザワザワとしている事にすぐに気がついた。
この場所は祟りだとか悪い霊が集まっている感じではなかったので、人が大勢集まっているから賑やかになっているのか、と思いながら後方の席へと座った。
そして座ってから気がついた。
私の位置からは後頭部しか見えないけれど、ある男性へと霊が次々と集まって来ている事に。
決して悪意のある悪い霊ではない。けれど次々に男性の傍に寄ってくる霊の多さに驚いた。
そしてもしかしたら私みたいな人なのかも知れないと気になった。
男性は霊感が強くて、霊たちが成仏したくて集まってきているのでないか、と。
でも違った。
あれだけの霊に集まられても動じず、相手にもしない男性は強い霊能力者なのかも、と思い始めた頃、突然、男性の傍に居た霊が吹っ飛んだのだ!
はぁっ!?
突然の出来事に驚いて目が釘付けになっていると、その後も次々と男性の周囲の霊が四方八方に吹っ飛んでいく。
マジで強い霊能者?
異世界から戻って来てから今まで自分と同じかそれ以上の力を持った人に出会った事は無かった。
あの人は私以上に凄い力を持った人なのかも?
そう思い始めた頃、男性を取り囲んでいた霊たちが減り、男性の後ろ姿がハッキリと見えた。
そして彼の傍にお婆さんの霊がいる事に気が付いたと同時に、そのお婆さんこそが男性に寄って来る霊を片っ端から投げ飛ばしているのを目撃してしまった。
全ての霊を投げ飛ばしたお婆さんの霊は、肩をゼーゼーと揺らすような仕草をしたと思ったら不意に消えた。
あの男性の守護霊さんだったのかな。
中々凄いものを見てしまった。
正直、入社説明会どころでは無かったけれど、悪い感じも無かったし珍しいモノを見たとそう思いながら会場を出たところで背後で『うぅっ。』と苦しそうな男性の声がして振り返った。
そこに蹲っていたのが元婚約者だったのだ。
因みに彼が会場に居た例の男性だと直ぐに気がついた。だってまた霊に近寄られていたから。
彼に手を貸しながら彼の背中に乗っかっているモノを軽く祓ったら、何故かいきなり『付き合ってくれ。』と言われてしまったのには驚いた。
丁重にお断りをしたつもりだったけど結局、入社後も縁があり絆されて付き合い始めたのは半年後ぐらいだったかなぁ。
彼は兎に角、霊に好かれやすい人だった。
そしてひどく鈍感な人だった。
何故だかよくない霊を引き寄せる事はなかったけれど、だからと言って害が無い訳では無い。
彼がポツポツと話す幼少期の話は、本人は全く気づいていないけれど霊絡みとしか思えない話が多かった。
その事に気付いていないのは身内の誰かによくないモノを寄せつけない人が居たのかな、と思っていたら、それがどうやら入社説明会の時のお婆さんだった。
彼の父方の祖母は彼が大学生になる前に亡くなったらしい。
お婆ちゃん子だった彼から聞いたお祖母さんの話も中々強烈だったけれど、きっと亡くなってからずっと彼の傍で彼を護り続けていたんだろうな、と当時は祖母の孫に対する愛情に胸を打たれたものだ。
勿論、私と一緒に居るようになってからは近寄って来る霊には私がキチンとお引き取りして貰っていた。
お祖母さんも普段は姿を消しているようで私の前に姿を現す事もなく、現れても話しかけてくる事も無かった。
私と彼が付き合う事になった日、彼の後ろに立っていたお祖母さんは私に向かって小さくお辞儀をした。
目尻に大きな笑い皺を作りながら嬉しそうな笑顔を浮かべていた小柄な可愛らしいお祖母さんだった。
" 千切っては投げ "の姿からは想像出来ない程に。
その次にお祖母さんの姿を見たのは結婚式前夜だった。
気付いたら私の部屋の隅に居て、顔を上げる事なく土下座のような姿で深く頭を下げ続けそのままスーッと消えていった。
結婚式当日、式場で彼を見た時に前日にお祖母さんが私の前に姿を現した意味に気が付いた。
今まで姿は見えなかったけれど、お祖母さんの気配は常に感じていた。けれど今はその気配も全く無い。
お祖母さんは元婚約者を見限ったのだ。
きっと彼の浮気と反省の色が見えない姿にお祖母さんさんも呆れ果ててしまったのだろう。
そう思って、私の心は更に揺れたんだ。
身内さえ見放したのに、私は彼をフォローし続けるの?
その答えをハッキリ出す前に私はまたこっちの世界に戻って来てしまったのだけれど、彼は今どうしているのだろう。
以前の様にたくさんの霊に寄って来られても何にも気付かずに暮らしているのだろうか?
それとも彼のお祖母さんがまた彼を護っているのだろうか?
まぁ、もう私には関係ないし周りに迷惑をかけて無いならどうでも良い事かな。
私は小さく首を振ってから祈りを捧げる為にザラ神殿へと足を向けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここまでお読み下さりありがとうございます。
元婚約者、気持ちの悪い思考は紗夜が居なくなった事で更に気持ち悪くなってしまいました。
結局、霊に対して鈍感なだけでなく、謎の気持ちの悪いポジティブ思考で世間の非難を受け流し、紗夜だと思っているモノとの新婚生活突入。
これは" 微ざまぁ "になっているのかどうか、、、。
次話は紗夜の元親友はるかの話になります。
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