【 完結 】虐げられた公爵令嬢は好きに生きたい 〜え?乙女ゲーム?そんなの知りません。〜

しずもり

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ソフィー 1

「 ー  また会う日まで元気でね、ソフィー。」


そう言って晴れやかな笑顔でアメリアは部屋から出て行った。


出来る事なら私も一緒にこのお屋敷から出て行きたかった。


この日の為に長年準備をしてきたリア姉さんと違って、私は何の準備もしていない。それでも屋敷を出るだけなら荷物をまとめてすぐに出て行く事は出来る。けれども屋敷を出た後に私はリア姉さんの足手まといにしかならない。


だからリア姉さんとは一緒に行けない。


私はリア姉さんが出て行った扉を涙を流しながらずっと見つめていた。


リア、、、リア姉さん。


私の事をの様に可愛がってくれた。嫌がらせをしてくる使用人たちからいつも守ってくれた。そんな事をすれば余計にリア姉さんが虐められるとわかっていたのに。


私の大好きで大事な、、、、



『ソフィーにはつい何でも喋ってしまうわね。どうしてかしら?』

そう言って笑いながらリア姉さんは色んな話をしてくれた。いつか公爵家を出ていく事、家を出る為に準備をしている事。

それからリア姉さんは不思議な話を聞かせてくれたり歌ってくれた。貴族の教育も学校にも行っていなかったのに私に読み書きと算術を教えてくれたのもリア姉さんだった。


なのに……私はリア姉さんにを何一つ話せないままだった。



『いい?使用人だったアンタをがガルバ伯爵様の後妻に、と推薦してあげたのよ?私に感謝しなさい。

それとアンタの名前はアメリアだからね?忘れないで名乗りなさいよ。

きっと伯爵様はアンタを可愛がってくれるわ。そうしたら王都の学園にも通わせてくれるかもしれないわ。その時は。』



私の耳元でそう言ってガルバ伯爵家の馬車に乗せたのは、もう一人の異母姉のだ。


となったリア姉さんの代わりに私が『ディバイン公爵家の娘』としてガルバ伯爵様に嫁ぐ事になったらしい。

言い出したのはソフィア様だったけれど、今頃、ディバイン公爵はを公爵家から放り出せた事に胸を撫で下ろしている事だろう。




ディバイン公爵家で使用人をしていた母さんは準男爵家の四女だった。貧乏な準男爵の四女では政略結婚も望めず、伝手を頼って何とかディバイン公爵家の使用人として住み込みで働く事が出来たのだそうだ。


ディバイン公爵家に嫁いできたマーガレット様の食事を運んだり部屋の掃除を任されていた母は、年齢が近かった事もあり、マーガレット様に目を掛けて頂いていたらしい。


そんな母の身の上に不幸が起こったのは、リア姉さんが産まれて半年が過ぎた頃だった。いつもの様にマーガレット様に食事を運んでいた時にディバイン公爵が部屋にやって来たのだそうだ。


ディバイン公爵がマーガレット様の部屋に来る事は殆ど無かったけれど、その一度の偶然で母はディバイン公爵の目に留まってしまった。母は貴族子女、夫人の様な華やかな美しさは持っていなかったけれど清楚な印象を受ける美しさを持つ人だった。


ディバイン公爵には長年の恋人が居たけれど、恋人が体調不良だったのだろう。公爵はひと月もすれば母に見向きもしなくなったけれど、子どもが出来るには十分な時間だったと思う。


母は公爵を愛していたわけではない。けれど合意無く行われた行為でも子は出来る。誰にも言えず助けを求める事も出来ないまま、母もまた調


にいち早く気付いたのはマーガレット様だった。事情を聞かれて申し訳なさと子を孕んだ恐怖にオロオロと泣く母をマーガレット様は励まし、子を産んでも公爵家で働ける様に助力してくれた。


公爵家の者たちに、ましてやたった数回、自分本位に手を付けた使用人の事など気にかける事のない公爵にも知られずに、マーガレット様のお陰で私は無事にこの世に生まれてくる事が出来た。


私と母の姿はよく似ていた様で、数年前に屋敷の中でディバイン公爵と顔を合わせた時に、公爵が驚きの表情を浮かべていたので、どうやら母の顔は覚えていたらしい。
それでを知ったか調べたのかは分からない。
けれどその頃から給金が僅かに増えていたのは口止め料なのだろうと理解した。


表向きは子が出来た途端に恋人に捨てられた事になっていた母は、家にも戻れず使用人仲間にも嘲笑されながらも公爵家で働き続けた。


マーガレット様が亡くなられ、後妻のキャロライン様とその娘ソフィア様が屋敷に住み始めると、嫡女である筈のリア姉さんは使用人の部屋に追いやられたのだと言う。まだ三歳であったのに。


母は私とリア姉さんを合わせる事なく、他の使用人たちに隠れてリア姉さんの世話や仕事の手伝いをしていたらしい。
 母の中ではリア姉さんはディバイン公爵家の令嬢アメリア様であり、母を助けてくれた恩人の娘だった。だから使の私とは区別したかったのだと思う。


それにその気は無くともマーガレット様を裏切った証の私をアメリア様に近づけたくなかったのかも知れない。マーガレット様がその事を気にしていなかったとしても。


だからリア姉さんは母が亡くなり、私が使用人として働き始めるまで私の存在を知らなかったらしい。母はが立つ事を恐れて私を部屋から滅多に出さない様にしていたので気付かずに居たのだとか。


それにしてもディバイン公爵は考えなしの愚かな男だと思う。

 嫡女である筈のリア姉さんは三歳の頃から使用人以下の扱いを受け、実父には居ない者として扱われている。私と違って国にもディバイン公爵家の第一子として届出をされている筈なのに、だ。


マーガレット様が公爵家に嫁いだ事もリア姉さんを出産した事も誰も知らない訳じゃない。なのに社交界どころか学校にも通わせていないなんて不審に思う者だって居ただろう。


公爵家の面々はソフィア様しか子は居ないかの様に振る舞っていたのに、傾きかけた公爵家の為にリア姉さんをガルバ伯爵様の後妻にと差し出すなんて、この事が社交界の噂にならないと本気で思っていたのだろうか?


と思われるの件が憲兵から公爵家に連絡が入る頃には市井ではが飛び交っていた筈だ。


勿論、リア姉さんは無事だと私は確信している。

 だって最後に会ったリア姉さんの髪は既に短く少年の様な姿をしていたのだもの。きっとリア姉さんは上手く逃げ切っただろう。もしかしたらもうこの国には居ないのかも知れない。


リア姉さんは態と侍女たちが着ている襟元に家紋の入ったスカートを選んだのだ。
それはリア姉さんが既にこの世には居ないかも知れない事をディバイン公爵たちに思わせる事と、もしかしたらリア姉さんなりのささやかな意趣返しだったのかも。


公爵家の面々を恨んで居ないのか、憎んでいないのか、と何度か聞いた事がある。リア姉さんの答えはいつも『別に。』だった。


リア姉さんにとってはディバイン公爵もキャロライン様やソフィア様さえどうでもよい存在だったのだ。

『恨む時間も憎む時間も勿体無い。そんな暇があるなら家を出て行くための準備時間に充てる。』


そう言って笑っているリア姉さんは本心からそう思っているのが私にも分かった。

だから私もそう思う事にした。母の苦しみと苦労を想うと少し心が揺らぐけれど、私もいつかこの屋敷を出て好きに生きていきたいと強くそう思った。


けれど、ガルバ伯爵様の後妻となるなら好きに生きる事は難しいかな。リア姉さんの身代わりだと思うと誇らしい気持ちがほんの少しあるけれど。


でもリア姉さんが私もディバイン公爵家に意趣返しをしても良いかも知れない。それによって私の身がどうなるかは分からないけれど、きっと後悔はしないと思うの。



馬車は半日かけてガルバ伯爵領に着いた。伯爵の屋敷に着いて馬車から降りると出迎えた侍女らしき人と家令らしき男性が私を見てギョッとした顔をしていた。


「・・・・こちらへ。」


すぐに無表情に戻った男性は屋敷に入ると私を応接室らしき部屋に案内し一緒に部屋に入った侍女らしき人に何か耳打ちをしていた。そして二人で部屋を出て行った。


では無いのがバレちゃったかな?」


ガルバ伯爵様はきっと『公爵家の娘』とは文字通りディバイン公爵の娘だと受け取っていただろう。

いくらこの数日間、令嬢に見える様に何度も湯浴みと肌や髪の手入れをされたとは言え所詮付け焼き刃だ。
 それに何年も栄養不十分な食事をしていた私はドレスが似合わない貧相な体をしているだろう。

本当の娘だったとしても、どう見たって公爵令嬢になんか見える訳がない。


そんな事を考えていたら侍女らしき人が水色のドレスを持って戻って来た。

「すぐにこのドレスにお着替え下さい。」

「えっ?今、此処で、ですか?」


戸惑いつつも急かされて立ち上がった時、大きな足音が響いてきたかと思うと勢いよく部屋の扉が開いた。


「貴様っ!何故、!どういうつもりだっ!殺されたくなければさっさと今すぐ脱げ!!」

「きゃあっ。だ、誰……。嫌っ!やめてっ、下さい。」


部屋に入ってきた初老の男性は私を物凄い形相で睨み付け、ツカツカと私の方に向かって手を伸ばしてきた。


その恐ろしい形相と態度に侍女の背に隠れようとしたけれど、腕を掴まれて体が傾き膝をついてしまった。


「おやめ下さいっ、旦那様!今すぐこの者を着替えさせますから、どうか、どうか落ち着いて下さいませ。」


初老の男性を追いかけてきたのだろう先程の男性が旦那様と呼んだという事はこの方がガルバ伯爵様?


でも、何故、こんなに怒っているの?どうして『ドレスを脱げ!』なんて言うの?


覚悟を決めて此処に来たとは言え、会って早々にこんな態度を取られて恐ろしくて身体が震え自然と涙が溢れそうになる。


「父さんっ!何をやっているんだ!君は早くこの部屋から出るんだっ!」


また誰かがやって来てガルバ伯爵様を羽交い締めにして止めに入ってくれた。


「アンナっ、取り敢えず。支度が済んだらもう一度、この部屋に彼女を連れて来てくれるか?」


「分かりました。さぁ、お嬢様、こちらへ。」


何がなんだか分からない私はアンナと呼ばれた女性に手を引かれて逃げる様に部屋を出た。



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長くなりそうなので話を分ける事にしました。




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