美化係の聖女様

しずもり

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ラナダの町

黒いモヤはどこから?

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「ねぇ、アオ。この黒いモヤは一体、何処から流れてくるんだろうね」

 朝晩の日課になりつつあるアオの散歩。
散歩の度に『綺麗になぁ~れ』を唱えているので、最初に見たラナダの町も少しは黒いモヤは減ったと思う。

うん。少なくとも体が重くなって?地面を転がる黒いモヤはいなくなった。


だ・け・ど!

それでも黒いモヤは健在?というか、フヨフヨと空気中を漂っているんだよねぇ。

心なしか、ラナダ町も殺伐とした雰囲気が薄れたような気がするし、町全体が少し明るくなったような気もする。

それでも何でこんなに大量に、しかも何度も生活魔法クリーンを使っても、時間が経つと黒いモヤが復活しているって、どういうこと!?

やっぱり元を断たなきゃ駄目!なんだろうなぁ~。

私に話しかけられたアオは立ち止まって、クルリと顔だけ私の方に向けてきた。

「アオに分かる訳ないかぁ~」

『わからない』と、首を傾げているようにも見えるアオに、無意識にボソッと口にしていたみたい。

「わふっ!わんわんわんわんっ!」

突然、アオがピョンと跳ねたと思ったら、ある方角に向かって吠え出した。

「ウルセェぞ!!」

途端に何処からか、怒鳴り声が聞こえてきて、『あぁ、ラナダの町だなぁ』なんて、思う筈もなく。
それでも初日よりはマシかな?なんて苦笑しながらアオを抱き上げた。

「アオ、ちょっと落ち着こうか~」

アオはまだ仔犬のせいか?どうも落ち着きがなく、興奮しやすいような気がする。

私に抱き上げられた事で、少し前の事を忘れてしまったのか?尻尾をパタパタと嬉しそうに振って、鼻先をグイグイと私の首に擦りつけてくる。

馬鹿な子ほど可愛・・・。

「アオ、落ち着いた?何に興奮したのか知らないけど、いきなり大きな声で吠えるのは止めようね。びっくりしちゃう人だっているからさ」

あれくらいで?とも思わなくもないけれど、実際にアオの鳴き声は結構甲高いし大きい。
気になるかならないかは、人それぞれだとは思うけれど、迷惑だと感じる人がいるのも事実だからね。

「わんっ」

理解してくれたのかは不明だけれど、さっきよりは小さな声で返事が返ってきた。


「・・・。ウチの子、可愛い」

私も大概親バカ?

ギュッとアオをハグしてから、そっとアオを地面に下ろす。

「わんっ」

アオは私と顔を見上げると、トテテテッと歩き出した。散歩コースとしてはそろそろ引き返す場所まで来ていたけれど、アオが歩き出した方は左の方。さっきアオが吠えていた方角だ。


少し歩いたと思ったら立ち止まり、振り向いて尻尾を振りながら『わんっ』と一声吠える。そしてまた前を向いて歩き出した。

「ん?ついて来いって事?」

そう呟けば、今度は立ち止まらずに尻尾をフリフリさせたのでどうやら正解みたい。

 アオが歩いていく方向には空き地が広がっていて、その先には森がある。
空き地までは300~400メートルぐらいあって、辿り着いてみると森はさらに100メートルぐらい先の辺りからで、森の手前には私の膝あたりぐらいまでの高さのセイタカアワダチソウみたいな草が生い茂っていた。


 ラナダの町は、中央の広場を中心にして外へと家などの建物が広がって行っているけれど、空き地がある方角だけは何故か?ぽっかりと何もない空間が広がっていた。

そこだけ何も無いから円にはならなくて、ただ空き地の方へと道のようなものが続いているだけ。後は何も無い。

何も無いのに、なんで空き地に向かって道が出来ているんだろう?


 そうして空き地まで歩いてきて気がついた。空き地の先に見えていた森が思った以上に暗い。太陽の光が当たらないとかそんなんじゃなく、暗くて重い。そんな感じの重苦しさが漂っている森だった。


ああいうのを薄気味悪いっていうんじゃないかなぁ。


そう思った瞬間、森を見ていた私に、風が向かってくるように吹いた。

風が止み、咄嗟に目を瞑った私が目を開けると、そこにはー。



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ここまでお読み下さりありがとうございます。

「いいね」及びエールでの応援もありがとうございます。
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