捨てられ令嬢は屋台を使って町おこしをする。

しずもり

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ハドソン領 花街道(仮)編 ワトル村

急病人 4

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「まず初めに、体調が悪くなったのは馬車に乗ってからどのぐらい経ってからなのか?
体の不調はどういった症状だったのかを教えていただけませんか?
奥様だけではなく、スコティッシュ子爵様から見た奥様の様子も何かあれば教えて下さい」

 家に居る時と違って、旅行中などは多少体調が悪くなったぐらいでは我慢しがちだと思う。それに顔色なんかは本人じゃ分かりようがないからね。

「その前に私から今回の旅の日程を先に伝えておこう。アツギの街を出発したのは二日前になる。一日目は一度休憩を入れて八時間ほどで宿屋に入った。二日目も一度休憩を挟んで夕方にハドソン領の領都に着いた。
そして今日は昼過ぎに領都を出発して、イベリスの町まで休憩を入れずに向かっていたところだった。

私がクリスティーヌの体の不調に気付いたのは、たぶんこのワトル村に着く一時間前ぐらいだったと思う。
その少し前から口数も少なくなっていたから、もう少し前から体調が良くなかったような気がするが」

 子爵が一時間前に気付いて、それより前からかも?となると出発時点でもあまり体調が良くなかったのかな?
それに気になるのは二日間の日程かなぁ。馬車で八時間の行程で一度の休憩という事は、単純に考えると四時間に一度の休憩という事だ。

ちょっと休憩が少な過ぎない?
それに今日だって休憩を入れずにイベリスまで行こうとしていたのなら、前日までの同じような状況という事になる。

「奥様はもしかして出発前から体調が良くなかったのですか?」

「な、何っ!?」

「え、ええ。でも体調が良くないという程ではなかったのよ?二日連続で馬車に乗っていたので、少し腰が痛いと思っていたぐらいで」

動揺する子爵の様子を気にしてか?子爵夫人は目を伏せながら遠慮がちに答えた。


「クリスティーヌ!体調が悪かったのなら遠慮せずに私に言ってくれれば良かったんだよ。急ぎの為に少々、無理をした日程だったのだ。

君の為にアターミに行くのに、君が体調を崩しては元も子もない。それに今は君一人の体ではないのだから」


慌てた子爵が確かめるように子爵夫人の肩やお腹に手を当てているけれど、妊娠している事を隠すつもりはないのかな。

気になる言葉も出てきたけれど、まずは先に話を進めた方が良さそうだ。

「それで馬車に乗っている間に腰の痛みが酷くなったという事ですか?腰の痛み以外は?」

「馬車に乗って一時間ほどしたぐらいかしら。腰の痛みよりも段々と頭痛と何となく足に痛みを感じるようになってきたの。でもそこまで酷いものではなかったから、イベリスの町までは耐えられると思っていたのよ」

 領都を出発して一時間と言う事は、アイビー村に着く頃には体に異変を感じていたという事か。
やっぱり出発前から前兆はあったんだろうなぁ。昼過ぎ頃まで領都でゆっくりしたとしても連日の馬車での長距離移動は辛いよね。

「その後、ワトル村に馬車を停めないといけないほど体調が悪くなったということですよね?」

「そうね。それから少しして、ロブやアメリに顔色が悪いと心配され始めた頃には、私も何だか胸の痛みと息苦しい感じるようになっていて・・・。
この村に着いて立ち上がる時には眩暈がして歩くのも困難な状態だったわ」


子爵夫人の話をここまで聞いて、やっぱり直ぐに思い浮かぶ病名は一つ。


エコノミー症候群、だ。

正しくは静脈血栓塞栓症、というらしい。肺血栓塞栓症とも呼ばれるらしいけど。

 飛行機に乗ったり、車や狭い場所で長時間同じ姿勢をしていると発症しやすいといわれる病気だ。

災害などで自家用車で寝泊まりしていると発症する可能性があるから注意が必要、とニュースでよく耳にしていたのを覚えている。

 身近でなった人を聞いた事はなかったけれど、本当に誰にでも起こり得る病気なので、保健の授業でも習ったし、長時間座り続けるような時などは休憩時間に体を動かすようにと言われた。

「あの、領都を出発する前のお食事と、馬車に乗っている間にしっかりと水分補給はされたのでしょうか?」

「えっ?食事と水分補給・・・ですか?
アツギを出発してから殆ど動かずに馬車に乗っていたのであまり食欲がなくて。

それに・・・休憩も一度だったでしょう?今日も四時間半ぐらいは掛かると聞いていたので、あまり水分は摂らない方が良いかと思って控えていたの」


 旅行の時ってそうだよね~。トイレ休憩が頻繁にある訳ではない場合、特に女性はトイレに行かなくて済むように水分を控える傾向にあるんじゃないかな。
席を外しにくい三時間越えの映画を見る時なんかもそういう傾向にある気がする。

それにいくら夫婦とはいえ、貴族女性が『トイレ、トイレ!』とか、言い出しにくいだろう。

今だって子爵夫人は恥ずかしそうな表情をしているので、間違いなくトイレ事情を想定して水分を控えていたのだと思う。子爵の方はちょっとピンときていないっぽいけど。


「今、奥様から聞いた話の内容が、実は私が心当たりがあると言った病気の症状と原因に幾つか当てはまるんです」

「ほ、本当かっ?・・・いや、だが素人判断で病気の診断をするのは危険だ」


「いえ、私はその病気だと断定している訳ではありません。ただ、その病気の可能性があるので、その対処方法を試してみたらどうか、と言いたいのです。そして明日からの対策としても」

「しかし薬を売る訳ではないと君は言っただろう?どうやって対処をするというのだ?」

「はい。薬は持っていませんし、持っていたとしても素人判断で飲ませる訳にはいかないのは私も承知しています。ただ、症状の緩和を目的として幾つかの対処方法を試してみて頂きたいのです。とても簡単ですので今直ぐにでも出来る事ばかりです。

と、その前にその病気の原因の説明をしますね。その病気はエコ・・・『肺血栓塞栓症』と言います。

食事や水分を十分に取らない状態で、狭い空間に同じ姿勢で長時間座っていると発症する病気です。そしてこの病気にかかりやすい人もいます。例えば妊娠中の女性、とか」

「「っ!!」」


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ここまでお読みいただきありがとうございます。

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