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あの日、スキル無しと判定されました
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この国では六歳になると、教会で洗礼の儀とともにスキルの判定が行われます。魔力量も一緒に判定がなされますが、魔力量は努力次第で増える事もあるのでそれ程重視されてはいません。
けれどスキルは違います。スキルは貴族、平民関係なく女神ルナリス様から授かる贈り物と言われています。
大抵固有スキルを一つ、貴族ならば二つ授かる事があり、スキルを持たない者は居ないと言われておりました。
ですから高位貴族出身である私がスキル無し、というのは普通ではあり得ませんし恥ずべき事だ、と言われてしまうのも仕方の無い事ではありました。
それでも表向きスキル無し、と判定されたのにはある事情があったのです。
そう、表向きという事は、私も本当は他の人たちと同じくスキル持ちだったのです。
ただ、ちょっと特殊すぎるスキルな為に公表出来ませんし、おいそれと使用する事が出来ないスキルでもあるのですよねぇ。
スキル判定には透明な石板に手を乗せる事で、石板に魔法の属性と固有スキルが浮かぶ仕組みになっております。
女神様から授かるのだから、女神様が直接現れたり声掛けするのか?と思えば、それは違います。
一人一人に属性に関連した固有スキルを判断して授けるのは、女神様お一人では流石に対応出来ないのでしょう。
だからこそ透明な石板が活躍するのです。この石板は大昔、女神ルナリス様より賜った物なのだそうです。
この石板が女神ルナリス様の意思を伝えるとかなんとか。そして石板に手を乗せる事は女神様の力に触れる事であり、触れる事で固有スキルを授かる、という仕組みになっているのだと聞きました。
幼い私がこの石板に手を乗せた時、今まで見た事もない光が石板から出た、と立ち会った神官は言っていたそうです。
運が良かったのか、その日、洗礼の儀を受けに来たのは私一人だけでした。しかも私は高位貴族の子女であり、下位の貴族や平民が多く利用する教会ではなく、王族も利用する神殿に来ていたのです。
有り体に申しますと、高位貴族以上でなければ利用出来ない神殿でのスキル判定は、教会で流れ作業のように行われるものよりも格式の高い儀式となります。
寄付金額によっては大神官様がスキル判定に立ち合ってくれるのだそうです。見栄を張りたい高位貴族の中には、誰が判定に立ち合ってくれたのかも重要なのだとか。
我が家はそういう意図で利用した訳では無かったのですが、結果的には神殿で判定を受けたのは正解でした。
まぁ、意図せず秘匿性の高い神殿でスキル判定を受けた私に授けられたスキルは、前例のない特殊なスキルでした。それも飛び切りの特殊スキルだったのです。
石板に浮かんだ文字を見て驚きのあまり神官は腰を抜かしたのです。
そして何事かと部屋の後ろの壁際で見守っていた両親も、私の元へとやって来て石板を覗き、絶句しておりました。
絶句した両親を見て我に返ったのか、神官は生まれたての子鹿のような足つきでプルプルと立ち上がりました。そして何事かと見守っていた別の神官に、震える手で紙に何かを書き記し手渡すと、大神殿に居るはずの大神官様を今すぐ呼んで来て欲しい、と指示を出したのです。
それが私のスキル判定に関わった周囲の大人たちの反応でした。
この間、私は常とは違う大人たちの様子に怯えるだけでした。
洗礼の儀に来た事も、スキル判定を受けるのだという事も両親から聞いておりました。行きの馬車ではどんなスキルを授かるのか、と両親と楽しく話もしていたのです。
それなのに石板に私が手を乗せた途端に石板が眩しいぐらいに光ったのです。光は一瞬でしたが、眩しい光のせいで、私の目はチカチカして石板の文字を読む事が出来ませんでした。
石板を挟んで私の目の前にいる神官様が代わりに読んで教えてくれるのかと思ったら、何故だか、目を丸くして後ずさり、尻餅をついた姿は何となく怯えている様にも見えました。
一体、私の身に何が起こったのでしょう?
神官様のその姿に不安になり、部屋の後ろの方で待っていた両親が私の名を呼び、小走りに駆け寄ってきてくれた時にどれほど安心した事か。ですがその両親も石板を見て二人して固まってしまったのです。
何が起こっているのか全く分からない私は、石板を覗き込む事も怖くて出来ません。そうして涙が溢れそうになった時、複数の大きな足音とともに扉が激しく音を立てて開きました。
見るからに上等な白い生地に、所々金糸と銀糸で刺繍が施された豪華な神官服を身に纏った男性は、石板の側で立っていた神官にも、絶句している私の両親にさえ目もくれず、石板へと真っ直ぐに向かい覗き込みました。
「おぉぉぉ~っ。女神ルナリス様っ!!」
その男性はそう叫ぶと、儀式の間の前方中央に祀ってある女神ルナリス様の立像に祈りを捧げる様に跪いたのです。
そうしてひとしきり、何やら祈りの言葉らしきものを唱え、それが終わると徐に後ろを振り返りました。
そこには大神官行動に声も出せずに怯えている私が居たのですが、男性は何も言わずに立ち膝のまま躙り寄るとギュッと私を抱きしめたのです。それはそれは力強く。
訳の分からないまま不安で怯える幼女に、大神官とはいえ、私からすれば、挙動不審な初老の男性がいきなりマリエッタ抱きしめてきたのです。しかも息が出来ないほどに。
私は悲鳴を上げました。神殿に響き渡るほどの大声で。
私もまだ6歳の幼児でしたからね。その行為は私にとってはトラウマ案件だったと今でも思っておりますの。事実、暫くの間、私は父方母方の祖父たちにさえ怯え、両祖父たちが嘆き続けたほどでしたから。
小耳に挟んだ話ですけれど、両祖父たちは長い間、大神官様に会うと恨み言を言っていたそうですわ。
そうして私にとっては強烈な出来事の後に、皆が落ち着きを取り戻した頃、話し合いの場が持たれたそうです。
そして話し合って出た結論が、表向きはスキル無し判定を受けた事にする、だったのです。
女神様から授かるスキルは秘匿する必要の無いものが殆どです。騎士などは身体強化や武術に関するスキルを自慢する者も多勢いると聞いております。
人に言うのが恥ずかしい、と思うスキルを授かった者などが秘匿したがる程度なのだとか。
ですが、稀に希少スキルを授かった者が、そのスキルの内容により、命の危険や誘拐などのリスクを考えて秘匿せざるを得ない状況になるのだそうです。
ですから、私の場合も前例と同じ様に希少スキルだから秘匿している、という事で良かった筈でした。
しかし、そう出来ない事情が私の特殊スキルにはあったのです。
通常、魔法の属性に関連したスキルを授かる事が多いのですが、平民は魔力量が少ない者も多いです。
魔力の少ない者は適正属性であっても使える魔法は少なくなります。殆ど使えないと言っても過言ではなく、初級魔法が僅かに使える程度であったりするそうです。
その点、私の場合は魔力量は他の貴族と比べてもかなり多い上、属性も特殊スキル故に希少な属性でした。
しかし、全てが特殊スキルに全振りされていた為に、大神官様の見立てでは特殊スキル以外の魔法を使う事は出来ないだろう、との事でした。
確かにその後、成長した私が辛うじて使えた魔法は生活魔法だけだったのですから、大神官様のお見立ては正しいものでした。
それに私の特殊スキルは軽々しく使えるものでもありません。場合によっては、一生使う事の無い可能性もあるぐらいの特殊なものでした。
そういう事情を鑑みた結果が、スキル無しであり、その様に思わせる必要があったということでした。
けれど、『スキル無し』と判定を受けた事さえ、秘匿にすれば良いのではないか?
そう思われる人もいるでしょう。
平民ならばそれでも良かった。
しかし、私が貴族令嬢である為にそうする事も出来なかったのです。
貴族子息子女は十五歳になると必ず、王都の王立学園か騎士訓練学校のどちらかへの学校に入学し卒業しなければならない。
これは国の法律で決められている事です。そしてそのどちらの学校でも、魔法に関する座学と実技の授業があるのです。
通常であれば、希少スキルを秘匿している者でも、属性魔法は使える為に実技の授業があっても困る事はありません。
しかし私は属性魔法も一切使う事が出来ません。
私が唯一、使う事の出来る特殊スキルを秘匿する為には『スキル無し』で通すしかなかったのです。
魔力量が少なく属性魔法を殆ど使いこなせなくても、女神からなにかしらのスキルをオーガスタの国民ならば授かるのが一般的であるにも関わらず、という状況の中で。
だってこの国で女神ルナリス様からスキルを授からない者など居ないのだから。
『女神様からスキルを授かるのは当たり前』というのが国民全体の共通認識である中で、『スキル無し』と判定されたと公表するのは、両親にしても苦渋の選択だったでしょう。
けれど、例え公表せずとも学園に入学すれば、私が生活魔法しか使えない事は知れ渡ってしまう。
魔法の実技の授業を受けられない私が、授業で特例を使い免除してもらうには『スキル無し』と公表するしかなかったのです。
私も覚悟の上での公表ではありましたが、こうして私は表向きには『スキル無し』と人々に認知され、この国の民としてはあり得ない事と見下される様になったのでした。
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
「いいね」やエールでの応援もいつもありがとうございます。
けれどスキルは違います。スキルは貴族、平民関係なく女神ルナリス様から授かる贈り物と言われています。
大抵固有スキルを一つ、貴族ならば二つ授かる事があり、スキルを持たない者は居ないと言われておりました。
ですから高位貴族出身である私がスキル無し、というのは普通ではあり得ませんし恥ずべき事だ、と言われてしまうのも仕方の無い事ではありました。
それでも表向きスキル無し、と判定されたのにはある事情があったのです。
そう、表向きという事は、私も本当は他の人たちと同じくスキル持ちだったのです。
ただ、ちょっと特殊すぎるスキルな為に公表出来ませんし、おいそれと使用する事が出来ないスキルでもあるのですよねぇ。
スキル判定には透明な石板に手を乗せる事で、石板に魔法の属性と固有スキルが浮かぶ仕組みになっております。
女神様から授かるのだから、女神様が直接現れたり声掛けするのか?と思えば、それは違います。
一人一人に属性に関連した固有スキルを判断して授けるのは、女神様お一人では流石に対応出来ないのでしょう。
だからこそ透明な石板が活躍するのです。この石板は大昔、女神ルナリス様より賜った物なのだそうです。
この石板が女神ルナリス様の意思を伝えるとかなんとか。そして石板に手を乗せる事は女神様の力に触れる事であり、触れる事で固有スキルを授かる、という仕組みになっているのだと聞きました。
幼い私がこの石板に手を乗せた時、今まで見た事もない光が石板から出た、と立ち会った神官は言っていたそうです。
運が良かったのか、その日、洗礼の儀を受けに来たのは私一人だけでした。しかも私は高位貴族の子女であり、下位の貴族や平民が多く利用する教会ではなく、王族も利用する神殿に来ていたのです。
有り体に申しますと、高位貴族以上でなければ利用出来ない神殿でのスキル判定は、教会で流れ作業のように行われるものよりも格式の高い儀式となります。
寄付金額によっては大神官様がスキル判定に立ち合ってくれるのだそうです。見栄を張りたい高位貴族の中には、誰が判定に立ち合ってくれたのかも重要なのだとか。
我が家はそういう意図で利用した訳では無かったのですが、結果的には神殿で判定を受けたのは正解でした。
まぁ、意図せず秘匿性の高い神殿でスキル判定を受けた私に授けられたスキルは、前例のない特殊なスキルでした。それも飛び切りの特殊スキルだったのです。
石板に浮かんだ文字を見て驚きのあまり神官は腰を抜かしたのです。
そして何事かと部屋の後ろの壁際で見守っていた両親も、私の元へとやって来て石板を覗き、絶句しておりました。
絶句した両親を見て我に返ったのか、神官は生まれたての子鹿のような足つきでプルプルと立ち上がりました。そして何事かと見守っていた別の神官に、震える手で紙に何かを書き記し手渡すと、大神殿に居るはずの大神官様を今すぐ呼んで来て欲しい、と指示を出したのです。
それが私のスキル判定に関わった周囲の大人たちの反応でした。
この間、私は常とは違う大人たちの様子に怯えるだけでした。
洗礼の儀に来た事も、スキル判定を受けるのだという事も両親から聞いておりました。行きの馬車ではどんなスキルを授かるのか、と両親と楽しく話もしていたのです。
それなのに石板に私が手を乗せた途端に石板が眩しいぐらいに光ったのです。光は一瞬でしたが、眩しい光のせいで、私の目はチカチカして石板の文字を読む事が出来ませんでした。
石板を挟んで私の目の前にいる神官様が代わりに読んで教えてくれるのかと思ったら、何故だか、目を丸くして後ずさり、尻餅をついた姿は何となく怯えている様にも見えました。
一体、私の身に何が起こったのでしょう?
神官様のその姿に不安になり、部屋の後ろの方で待っていた両親が私の名を呼び、小走りに駆け寄ってきてくれた時にどれほど安心した事か。ですがその両親も石板を見て二人して固まってしまったのです。
何が起こっているのか全く分からない私は、石板を覗き込む事も怖くて出来ません。そうして涙が溢れそうになった時、複数の大きな足音とともに扉が激しく音を立てて開きました。
見るからに上等な白い生地に、所々金糸と銀糸で刺繍が施された豪華な神官服を身に纏った男性は、石板の側で立っていた神官にも、絶句している私の両親にさえ目もくれず、石板へと真っ直ぐに向かい覗き込みました。
「おぉぉぉ~っ。女神ルナリス様っ!!」
その男性はそう叫ぶと、儀式の間の前方中央に祀ってある女神ルナリス様の立像に祈りを捧げる様に跪いたのです。
そうしてひとしきり、何やら祈りの言葉らしきものを唱え、それが終わると徐に後ろを振り返りました。
そこには大神官行動に声も出せずに怯えている私が居たのですが、男性は何も言わずに立ち膝のまま躙り寄るとギュッと私を抱きしめたのです。それはそれは力強く。
訳の分からないまま不安で怯える幼女に、大神官とはいえ、私からすれば、挙動不審な初老の男性がいきなりマリエッタ抱きしめてきたのです。しかも息が出来ないほどに。
私は悲鳴を上げました。神殿に響き渡るほどの大声で。
私もまだ6歳の幼児でしたからね。その行為は私にとってはトラウマ案件だったと今でも思っておりますの。事実、暫くの間、私は父方母方の祖父たちにさえ怯え、両祖父たちが嘆き続けたほどでしたから。
小耳に挟んだ話ですけれど、両祖父たちは長い間、大神官様に会うと恨み言を言っていたそうですわ。
そうして私にとっては強烈な出来事の後に、皆が落ち着きを取り戻した頃、話し合いの場が持たれたそうです。
そして話し合って出た結論が、表向きはスキル無し判定を受けた事にする、だったのです。
女神様から授かるスキルは秘匿する必要の無いものが殆どです。騎士などは身体強化や武術に関するスキルを自慢する者も多勢いると聞いております。
人に言うのが恥ずかしい、と思うスキルを授かった者などが秘匿したがる程度なのだとか。
ですが、稀に希少スキルを授かった者が、そのスキルの内容により、命の危険や誘拐などのリスクを考えて秘匿せざるを得ない状況になるのだそうです。
ですから、私の場合も前例と同じ様に希少スキルだから秘匿している、という事で良かった筈でした。
しかし、そう出来ない事情が私の特殊スキルにはあったのです。
通常、魔法の属性に関連したスキルを授かる事が多いのですが、平民は魔力量が少ない者も多いです。
魔力の少ない者は適正属性であっても使える魔法は少なくなります。殆ど使えないと言っても過言ではなく、初級魔法が僅かに使える程度であったりするそうです。
その点、私の場合は魔力量は他の貴族と比べてもかなり多い上、属性も特殊スキル故に希少な属性でした。
しかし、全てが特殊スキルに全振りされていた為に、大神官様の見立てでは特殊スキル以外の魔法を使う事は出来ないだろう、との事でした。
確かにその後、成長した私が辛うじて使えた魔法は生活魔法だけだったのですから、大神官様のお見立ては正しいものでした。
それに私の特殊スキルは軽々しく使えるものでもありません。場合によっては、一生使う事の無い可能性もあるぐらいの特殊なものでした。
そういう事情を鑑みた結果が、スキル無しであり、その様に思わせる必要があったということでした。
けれど、『スキル無し』と判定を受けた事さえ、秘匿にすれば良いのではないか?
そう思われる人もいるでしょう。
平民ならばそれでも良かった。
しかし、私が貴族令嬢である為にそうする事も出来なかったのです。
貴族子息子女は十五歳になると必ず、王都の王立学園か騎士訓練学校のどちらかへの学校に入学し卒業しなければならない。
これは国の法律で決められている事です。そしてそのどちらの学校でも、魔法に関する座学と実技の授業があるのです。
通常であれば、希少スキルを秘匿している者でも、属性魔法は使える為に実技の授業があっても困る事はありません。
しかし私は属性魔法も一切使う事が出来ません。
私が唯一、使う事の出来る特殊スキルを秘匿する為には『スキル無し』で通すしかなかったのです。
魔力量が少なく属性魔法を殆ど使いこなせなくても、女神からなにかしらのスキルをオーガスタの国民ならば授かるのが一般的であるにも関わらず、という状況の中で。
だってこの国で女神ルナリス様からスキルを授からない者など居ないのだから。
『女神様からスキルを授かるのは当たり前』というのが国民全体の共通認識である中で、『スキル無し』と判定されたと公表するのは、両親にしても苦渋の選択だったでしょう。
けれど、例え公表せずとも学園に入学すれば、私が生活魔法しか使えない事は知れ渡ってしまう。
魔法の実技の授業を受けられない私が、授業で特例を使い免除してもらうには『スキル無し』と公表するしかなかったのです。
私も覚悟の上での公表ではありましたが、こうして私は表向きには『スキル無し』と人々に認知され、この国の民としてはあり得ない事と見下される様になったのでした。
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短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。
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