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あの時、婚約者は恋に落ちました
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マリエッタは表向き『スキル無し』でいこう、と大人たちは苦渋の決断をしたが、希少スキル、特殊スキルは国への報告の義務があった。貴重なスキル持ちの国外流出を防ぐのを目的としたものだ。
だが、マリエッタのスキルを知っている者は少ない方が良い。そう判断した大神官は国王陛下にのみ内々に報告をした。
その結果、翌日にはルーデンブルグ公爵家に第一王子とマリエッタの婚約を結ぶ、という打診という名の王命を下す手紙が届いたのだった。
打診という名の王命、というのは少しばかりおかしくはないか、とは思う。でも本当にそうだったらしい。
打診だったけれど、『もう決めたからね、これは絶対だからね。』みたいな言葉が書かれた手紙だったそうだ。
これは誰にも相談せずに国王陛下の独断で行われたものだが、打診という形を取りつつも玉璽も押されている正式な王命であったという事なのだ。
こうしてマリエッタは第一王子レオンハルトの婚約者となった。
六歳で婚約を結ぶ事になったマリエッタとレオンハルトの顔合わせは意外な事に良好だった。
勿論、ルーデンブルグ公爵家側ではこの婚約は多いに不服だった。それはそうだろう。
スキル判定の翌日に王家側からの有無を言わせぬ王命で第一王子との婚約が決定したのだ。
マリエッタの気持ちどころか、ルーデンブルグ公爵夫妻の気持ちさえ無視した一方的な話だったのだから。
しかし親の憤りや不満などはマリエッタには分からなかった。お互いに婚約者だ、と紹介された顔合わせではニコニコと笑顔でお茶を飲み、レオンハルトは張り切って王家自慢の薔薇の庭園を仲良く手を繋いで案内をしていた。
その様子をコッソリと見ていた両家の親たちは胸を撫で下ろした。
マリエッタの父は些か不本意ではあったが、マリエッタが嫌がらないのであれば、嫁ぎ先が王家というのは最高の縁である、と思う事にした。
その気持ちが間違いであった、と強く思った出来事が、二人が八歳の時の出来事だったのだ。
王子教育の中で平民の暮らしに興味を持ったらしいレオンハルトがお忍びで遊びに行きたい、と言い出した。
「なぁ、マリエッタ。お前もしせいのくらしとやらにきょうみがあるだろう?」
教師や侍従などに既に反対をされて不満顔のレオンハルトが婚約者同士の交流の為のお茶の席で言った。
「市井の暮らし、ですか?確かに興味はありますが、、、。」
この頃には既に二人の教育の成果に開きが出始めていた。
それ故にマリエッタには王子妃教育で『常に将来の伴侶となる婚約者のレオンハルト王子を立てるように。』と、厳しく言いつけられていた。
それは優秀なマリエッタをレオンハルト以上に目立たせてはいけない、という教育係の思惑が強く含まれていたからだろう。
「そうだよなっ!きょうみあるよな。よしっ、おしのびだっ!おしのびでしせいのくらしを見に行こう!」
マリエッタの言葉を勝手に過大解釈し、レオンハルトが国王陛下に直接強請った事により、こうして二人はお忍びで下街へと出かける事が決まったのだ。
この時、通常の護衛の人数に加えて、過保護な国王陛下と王家のする事に不安を拭いきれないルーデンブルグ公爵家側からの見守り隊が派遣されていた。
だからマリエッタだけではなく、実は大勢の者がレオンハルト殿下が恋に落ちる瞬間を目撃していた。
当然、初恋相手も目撃されている訳である。名前を知らずともその容姿を確認しているのだ。
マリエッタの両親と国王陛下に至っては、どこの誰かも把握している事を知っているのはマリエッタだけではあるが。
あの日、待ち合わせ場所に簡素な馬車でやって来たマリエッタは友人を一人連れて来た。
レオンハルトはマリエッタに続いて馬車から降りてきた女の子に釘付けになった。
歩く度にフワリと揺れるピンクの髪もキラキラと瞳を輝かせて周囲を見回す好奇心に満ちた青い瞳も全てが愛らしく光り輝いて彼の目には映った。
「マ、マリエッタ。この者は、、、?」
「レオンハルト殿下、この者は遠い国に住む私の友人のルーナと申します。
我が家に滞在しているのですが、殿下と同じ様に市井に大変興味がある、との事でした。急な事ではありますが、同伴しても構わないでしょうか?」
マリエッタの言葉が耳に入っていたのかどうか、レオンハルトは頬を染めて終始ルーナを見つめていた。
そう!この時、レオンハルトはマリエッタの言葉を何一つ聞いてはいなかったのだ。
聞いてさえいれば、彼の初恋の相手が誰だったのかは明白であり、ルナティアを初恋の人と誤解する事もなかった筈だった。
その日、レオンハルトはルーナと手を繋ぎ、楽しげに王都の広場周辺の店や下町で屋台を見て回り、広場から少し離れた高台で王都の景色を眺めお忍びを満喫した。
忍びきれていない見目の良いレオンハルトとルーナが先頭を切って歩き、そのすぐ後ろを下町娘風の恰好をしたマリエッタが続く。
更にその後ろを通常の倍の人数の護衛と町人の姿をした公爵家見守り隊がゾロゾロと歩いていく。
それは不思議な稚児行列の様だったと暫くの間、城下で噂になっていたと聞いている。
そして翌日、レオンハルトに急に呼び出され、親子で登城した時に『お前を愛さない宣言』をされたのだった、とマリエッタは目の前の二人を眺めながら思い出していた。
だが、マリエッタのスキルを知っている者は少ない方が良い。そう判断した大神官は国王陛下にのみ内々に報告をした。
その結果、翌日にはルーデンブルグ公爵家に第一王子とマリエッタの婚約を結ぶ、という打診という名の王命を下す手紙が届いたのだった。
打診という名の王命、というのは少しばかりおかしくはないか、とは思う。でも本当にそうだったらしい。
打診だったけれど、『もう決めたからね、これは絶対だからね。』みたいな言葉が書かれた手紙だったそうだ。
これは誰にも相談せずに国王陛下の独断で行われたものだが、打診という形を取りつつも玉璽も押されている正式な王命であったという事なのだ。
こうしてマリエッタは第一王子レオンハルトの婚約者となった。
六歳で婚約を結ぶ事になったマリエッタとレオンハルトの顔合わせは意外な事に良好だった。
勿論、ルーデンブルグ公爵家側ではこの婚約は多いに不服だった。それはそうだろう。
スキル判定の翌日に王家側からの有無を言わせぬ王命で第一王子との婚約が決定したのだ。
マリエッタの気持ちどころか、ルーデンブルグ公爵夫妻の気持ちさえ無視した一方的な話だったのだから。
しかし親の憤りや不満などはマリエッタには分からなかった。お互いに婚約者だ、と紹介された顔合わせではニコニコと笑顔でお茶を飲み、レオンハルトは張り切って王家自慢の薔薇の庭園を仲良く手を繋いで案内をしていた。
その様子をコッソリと見ていた両家の親たちは胸を撫で下ろした。
マリエッタの父は些か不本意ではあったが、マリエッタが嫌がらないのであれば、嫁ぎ先が王家というのは最高の縁である、と思う事にした。
その気持ちが間違いであった、と強く思った出来事が、二人が八歳の時の出来事だったのだ。
王子教育の中で平民の暮らしに興味を持ったらしいレオンハルトがお忍びで遊びに行きたい、と言い出した。
「なぁ、マリエッタ。お前もしせいのくらしとやらにきょうみがあるだろう?」
教師や侍従などに既に反対をされて不満顔のレオンハルトが婚約者同士の交流の為のお茶の席で言った。
「市井の暮らし、ですか?確かに興味はありますが、、、。」
この頃には既に二人の教育の成果に開きが出始めていた。
それ故にマリエッタには王子妃教育で『常に将来の伴侶となる婚約者のレオンハルト王子を立てるように。』と、厳しく言いつけられていた。
それは優秀なマリエッタをレオンハルト以上に目立たせてはいけない、という教育係の思惑が強く含まれていたからだろう。
「そうだよなっ!きょうみあるよな。よしっ、おしのびだっ!おしのびでしせいのくらしを見に行こう!」
マリエッタの言葉を勝手に過大解釈し、レオンハルトが国王陛下に直接強請った事により、こうして二人はお忍びで下街へと出かける事が決まったのだ。
この時、通常の護衛の人数に加えて、過保護な国王陛下と王家のする事に不安を拭いきれないルーデンブルグ公爵家側からの見守り隊が派遣されていた。
だからマリエッタだけではなく、実は大勢の者がレオンハルト殿下が恋に落ちる瞬間を目撃していた。
当然、初恋相手も目撃されている訳である。名前を知らずともその容姿を確認しているのだ。
マリエッタの両親と国王陛下に至っては、どこの誰かも把握している事を知っているのはマリエッタだけではあるが。
あの日、待ち合わせ場所に簡素な馬車でやって来たマリエッタは友人を一人連れて来た。
レオンハルトはマリエッタに続いて馬車から降りてきた女の子に釘付けになった。
歩く度にフワリと揺れるピンクの髪もキラキラと瞳を輝かせて周囲を見回す好奇心に満ちた青い瞳も全てが愛らしく光り輝いて彼の目には映った。
「マ、マリエッタ。この者は、、、?」
「レオンハルト殿下、この者は遠い国に住む私の友人のルーナと申します。
我が家に滞在しているのですが、殿下と同じ様に市井に大変興味がある、との事でした。急な事ではありますが、同伴しても構わないでしょうか?」
マリエッタの言葉が耳に入っていたのかどうか、レオンハルトは頬を染めて終始ルーナを見つめていた。
そう!この時、レオンハルトはマリエッタの言葉を何一つ聞いてはいなかったのだ。
聞いてさえいれば、彼の初恋の相手が誰だったのかは明白であり、ルナティアを初恋の人と誤解する事もなかった筈だった。
その日、レオンハルトはルーナと手を繋ぎ、楽しげに王都の広場周辺の店や下町で屋台を見て回り、広場から少し離れた高台で王都の景色を眺めお忍びを満喫した。
忍びきれていない見目の良いレオンハルトとルーナが先頭を切って歩き、そのすぐ後ろを下町娘風の恰好をしたマリエッタが続く。
更にその後ろを通常の倍の人数の護衛と町人の姿をした公爵家見守り隊がゾロゾロと歩いていく。
それは不思議な稚児行列の様だったと暫くの間、城下で噂になっていたと聞いている。
そして翌日、レオンハルトに急に呼び出され、親子で登城した時に『お前を愛さない宣言』をされたのだった、とマリエッタは目の前の二人を眺めながら思い出していた。
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