【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!

しずもり

文字の大きさ
9 / 12

彼女は何でも知っている

しおりを挟む

 目の前のルナリス様こそが初恋の人だと確信した殿下は、右腕に張り付いていたルナティア嬢をベリっと引き剥がし頬を赤く染めて前へと一歩、ルナリス様に歩み寄る。


「どうもこうも、これが私の特殊スキル『女神降臨』ですわ。

私は女神ルナリス様をこの地へとお呼びする事が出来るんですの。

ですが、無闇矢鱈に女神様をお呼び立てする訳にもいきませんので、あの十年前のお忍びの時以来ですわね」


そうなのだ。あの時だってスキルを使うつもりなどなかったのだ。


 けれど毎晩のように眠る前にルナリス様と会話をしていた私は、楽しみにしていた訳ではないけれど、ウッカリとお忍びで街に行く事を話してしまったのだ。


そうしたら『一緒に行きたい!』と駄々をこねた、女神様が。
昼も夜もひっきりなしに話しかけてくる程に。


 会話は神託の様に直接私の頭の中に女神様の声が聞こえて来る。
子どもの頃は私は普通に声を出して会話をしていたので、両親たちにも女神様と会話している事がアッサリとバレてしまった。


バレたというより私にはそれが特別な事だ、という認識もなければ相手が女神ルナリス様だと気づいてもいなかったのだけれど。


 だって、ある日突然『やっほ~、マリちゃん!私、ルーナだよ』という声が頭の中から聞こえてきたのだ。それが女神様だと気付く訳が無いよね。


で、まぁ、両親にバレて万が一の事を考えて、私はお父様と誓約を交わす事になった。

『マリエッタが結婚するまでは、ルーデンベルグ公爵の許可無く特殊スキルの事を他人に話してはならない』、と。


子どもって弾みで秘密を話してしまう事があるからね。
私はこの誓約を結ぶ前にお父様の誓約魔法についてキッチリと説明されたんだよね。

・・・・怖かった。その日の夜は一人では眠れなくて、久しぶりにお母様と寝たわ。


そして根負けして、というより両親が女神様の望みを断るなんて畏れ多い事だ、という事になり遠い国に住む友人設定でお忍び街歩きに参加する事になったのだった。


「何故、私にその事を教えてくれなかった!教えてくれていたらこんな女に騙される事もなかったのに!」


えぇ~、ここで私に自分の目が節穴だった責任を押し付けてきます?


しかもさっきまで『私の女神ルナティア!』とか言っていた癖に。


「いや、それレオンの責任でしょ。レオンが勝手に間違えただけじゃん!」


・・・・ルナリス様のこの口調は私と頻繁に会話していた所為、ではないハズ。
だからお父様っ!私に冷たい視線を向けないでっ。


「えっ!なっ!も、もしかしてルーナは今までの事、全部知って、、、」


ルナリス様の言葉に一瞬目線を私に向けた後、青い顔をして殿下は言ったけれど、言葉遣い以前に、初恋の人がルナリス様だと知っても思わずルーナと呼んでしまう殿下もどうかと思うわよね。

王族の方々の顔色も面白いぐらいに青くなったり赤くなったりしているもの。


「そんなの当たり前よ~。だって私、女神だよ?

善行も悪事も私にかかれば丸見えよ?」


その言葉に今度は会場中が大きく動揺したのを見て、お父様がニヤついているわね。
腹黒くはあるけれど、悪事に手を染める事の無かったお父様はこの状況を楽しむつもりのようだわ。


 この場に居る貴族たちの中には、第一王子の婚約者の私を『スキル無しの無能才女』などと蔑む態度を隠そうともせず聞こえよがしに言っていた者も数多く居る。
お父様たちが私の為にどれほど耐えていたのか、私は知る由も無いけれど、この表情を見るに相当だったようね。


殿下から縋る手を振り払われて床にペタリと座り込んでいるルナティア嬢を気にかける人はもうどこにも居ない。

何しろ第一王子が勘違いしていたとはいえ、自分自身も初恋の人本人だと嘘を吐いていたのだ。しかもそのつもりは無かった事だとしても、本当の初恋の人は女神ルナリス様でありその尊き人のフリをしていたのだから。


気付けば殿下の後ろに立ち、私を散々睨み付けていた取り巻きたちは今や殿下たちと距離を取ろうと後退りし始めている。
今更逃げようとしたところで時既に遅し、だと思うけれどね。


「おま、、、マリエッタ。今まで誤解していて申し訳なかった。

君は私とルーナのキューピッドだったのだな」


いや、違う。私はキューピッドなんてモノになった覚えも無ければ、そういうつもりで紹介した訳でもない。
それに頑なまでにルナリス様をルーナ呼びしているけれど、まさかルナリス様が女神様だと言う事に気付いていない、、、訳はない、、、よね?


私が不安になりかけた時、コロコロと鈴の音が鳴るように可愛らしい笑い声が聞こえてきた。


「相変わらずレオンたら思い込みが激しくて可笑しいわぁ~。

マリちゃんは本当に愛らしくて私の天使だけれど、レオンはもう少しよく考えてから行動した方がいいわよ?」


ルナリス様が普段、私との会話でよく言っていた言葉だ。


『レオンは悪い子じゃ無いんだけれどねぇ、、、』


子どもの頃の殿下はそうだったのかも知れない。けれどルナリス様に出会って以降の殿下の態度に、時折ふと口をついて出てきた愚痴を聞いていたルナリス様はそう言っていた。


「ルーナ、いえ、ルナリス様。私は貴女と出会った八歳の頃よりずっとお慕いしておりました。

どうかこの私と結婚して下さい」


ルナリス様の前で跪き、頬を紅潮させて手を差し出したレオンハルト殿下に今日何度目かの驚きが会場全体に広がった瞬間だった。


いくらずっと想い続けていたとはいえ、いきなり女神様に求婚するのは流石に唐突すぎるでしょ。



ーーーーーーーーーーーーーーー


ここまでお読み下さりありがとうございます。

「いいね」やエールでの応援もいつもありがとうございます。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します

ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」  豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。  周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。  私は、この状況をただ静かに見つめていた。 「……そうですか」  あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。  婚約破棄、大いに結構。  慰謝料でも請求してやりますか。  私には隠された力がある。  これからは自由に生きるとしよう。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

【完結】数十分後に婚約破棄&冤罪を食らうっぽいので、野次馬と手を組んでみた

月白ヤトヒコ
ファンタジー
「レシウス伯爵令嬢ディアンヌ! 今ここで、貴様との婚約を破棄するっ!?」  高らかに宣言する声が、辺りに響き渡った。  この婚約破棄は数十分前に知ったこと。  きっと、『衆人環視の前で婚約破棄する俺、かっこいい!』とでも思っているんでしょうね。キモっ! 「婚約破棄、了承致しました。つきましては、理由をお伺いしても?」  だからわたくしは、すぐそこで知り合った野次馬と手を組むことにした。 「ふっ、知れたこと! 貴様は、わたしの愛するこの可憐な」 「よっ、まさかの自分からの不貞の告白!」 「憎いねこの色男!」  ドヤ顔して、なんぞ花畑なことを言い掛けた言葉が、飛んで来た核心的な野次に遮られる。 「婚約者を蔑ろにして育てた不誠実な真実の愛!」 「女泣かせたぁこのことだね!」 「そして、婚約者がいる男に擦り寄るか弱い女!」 「か弱いだぁ? 図太ぇ神経した厚顔女の間違いじゃぁねぇのかい!」  さあ、存分に野次ってもらうから覚悟して頂きますわ。 設定はふわっと。 『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』と、ちょっと繋りあり。『腐ったお姉様~』を読んでなくても大丈夫です。

金喰い虫ですって!? 婚約破棄&追放された用済み聖女は、実は妖精の愛し子でした ~田舎に帰って妖精さんたちと幸せに暮らします~

アトハ
ファンタジー
「貴様はもう用済みだ。『聖女』などという迷信に踊らされて大損だった。どこへでも行くが良い」  突然の宣告で、国外追放。国のため、必死で毎日祈りを捧げたのに、その仕打ちはあんまりでではありませんか!  魔法技術が進んだ今、妖精への祈りという不確かな力を行使する聖女は国にとっての『金喰い虫』とのことですが。 「これから大災厄が来るのにね~」 「ばかな国だね~。自ら聖女様を手放そうなんて~」  妖精の声が聞こえる私は、知っています。  この国には、間もなく前代未聞の災厄が訪れるということを。  もう国のことなんて知りません。  追放したのはそっちです!  故郷に戻ってゆっくりさせてもらいますからね! ※ 他の小説サイト様にも投稿しています

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~

白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」 マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。 そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。 だが、この世には例外というものがある。 ストロング家の次女であるアールマティだ。 実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。 そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】 戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。 「仰せのままに」 父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。 「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」 脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。 アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃 ストロング領は大飢饉となっていた。 農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。 主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。 短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

奈落を封印する聖女ですが、可愛い妹が追放されたので、国を見捨てる事にしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 ファンケン公爵家の長女クラリスは本来家を継ぐ立場だった。だが奈落の底に住む魔族を封印する奈落の聖女に選ばれてしまった。聖なる役目を果たすため、クラリスは聖女となり、次女のエレノアが後継者となった。それから五年、両親が相次いで亡くなり、エレノアは女性ながら公爵となり莫大な資産を引き継いだ。その財産に目をつけたのが、日頃から素行の悪い王太子アキーレヌだった。愛人のキアナと結託し、罠を仕掛けた。まず国王を動かし、エレノアを王太子の婚約者とした。その上で強引に婚前交渉を迫り、エレノアが王太子を叩くように仕向け、不敬罪でお家断絶・私財没収・国外追放刑とした。それを奈落を封じる神殿で聞いたクラリスは激怒して、国を見捨てエレノアと一緒に隣国に行くことにしたのだった。

処理中です...