悪役令嬢にそんなチートな能力を与えてはいけません!

入海月子

文字の大きさ
10 / 22

天変地異

しおりを挟む
「あぁ、ここにいたんだ。探したよ」

 私がうなだれていると、ジュリアン様が私を見つけて、抱きしめた。

「さっきの地震、大丈夫だった? 怖くなかった?」

 優しい瞳が私を見つめる。
 いつもと変わらない愛情あふれる眼差しに、目が潤んでしまう。
 セシルに心を奪われたんじゃなかったの?

「怖かったんだね。かわいそうに。もう大丈夫だよ?」

 頭をなでて、抱きしめて、頬を寄せる。本当になにも変わっていないジュリアン様に私はしがみついて、涙をこぼした。
 怖くて泣いているのだと誤解してくれているのを幸いに。
 ジュリアン様が唇で涙の跡を辿った。
 びっくりして、涙が止まる。

「ふふ、泣いている君も、驚いている君もかわいい。でも、僕を見て笑っている君が一番かわいいな」

 頬に口づけながら、そんなことを言われて、私は真っ赤になった。

「ルビー、好きだよ」

 ふいにジュリアン様が言った。
 今一番聞きたかった言葉。なんでわかったの?
 せっかく止まった涙がまたあふれてくる。
 私はジュリアン様の胸に顔をうずめて、「私もです」とつぶやいた。
 うれしいけど、罪悪感が募った。


 ***


 それからしばらく経った放課後、クラスメート達と文化祭の準備のことを話していた。セシルと一緒に実行委員になったのだ。学校生活三年目にして初めて、みんなでワイワイなにかをするという楽しみを味わっている。
 すると、セシル以外のクラスメートがザザッと退いた。

「僕のかわいいルビーをそろそろ返してくれる?」

 涼やかな声とともに、後ろから腰を引き寄せられる。
 ジュリアン様だ。
 背中が引き締まった身体にひっついて、頬が熱を持った。
 ふと見ると、セシルも真っ赤になっている。

「今日は王宮に来てくれる約束でしょ?」

 ジュリアン様が耳許でささやく。
 ぞくっとして、首をすくめる。
 ちょっと拗ねているようなお声だ。
 最近、こうしてクラスメートとおしゃべりしたり、セシルと週末にお買い物に出かけたりしていることが増えて、焼きもちを焼いているらしい。と本人が言っていた。

「はい、もちろん、お供します」

 この間はセシルが好きになったのかもと不安になったけど、ジュリアン様は変わらず私を見ていてくれる。むしろ、前よりスキンシップが増えたような……? セシルに対する距離間は変わらない。
 安堵するとともに、別の不安が増した。

 グラッ、グラグラッ

「きゃっ」
「地震?」
「また? 最近多くない?」

 クラスメートが騒いだ。
 ジュリアン様が守るように私を抱きしめてくれる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」

仙桜可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。 「で、政略結婚って言われましてもお父様……」 優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。 適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。 それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。 のんびりに見えて豪胆な令嬢と 体力系にしか自信がないワンコ令息 24.4.87 本編完結 以降不定期で番外編予定

私に毒しか吐かない婚約者が素直になる魔法薬を飲んだんですけど、何も変わりませんよね?そうですよね!?

春瀬湖子
恋愛
ロヴィーシャ伯爵家には私ことクリスタしか子供がおらず、その為未来の婿としてユースティナ侯爵家の次男・テオドールが婚約者として来てくれたのだが、顔を合わせればツンツンツンツン毒ばかり。 そんな彼に辟易しつつも、我が家の事情で婚約者になって貰った為に破棄なんて出来るはずもなく⋯ 売り言葉に買い言葉で喧嘩ばかりの現状を危惧した私は、『一滴垂らせば素直になれる』という魔法薬を手に入れたのだが、何故かテオドールが瓶ごと一気飲みしてしまって!? 素直になれないツンデレ令息×拗らせ令嬢のラブコメです。 ※他サイト様にも投稿しております

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

【完結】余命半年の元聖女ですが、最期くらい騎士団長に恋をしてもいいですか?

金森しのぶ
恋愛
神の声を聞く奇跡を失い、命の灯が消えかけた元・聖女エルフィア。 余命半年の宣告を受け、静かに神殿を去った彼女が望んだのは、誰にも知られず、人のために最後の時間を使うこと――。 しかし運命は、彼女を再び戦場へと導く。 かつて命を賭して彼女を守った騎士団長、レオン・アルヴァースとの再会。 偽名で身を隠しながら、彼のそばで治療師見習いとして働く日々。 笑顔と優しさ、そして少しずつ重なる想い。 だけど彼女には、もう未来がない。 「これは、人生で最初で最後の恋でした。――でもそれは、永遠になりました。」 静かな余生を願った元聖女と、彼女を愛した騎士団長が紡ぐ、切なくて、温かくて、泣ける恋物語。 余命×再会×片恋から始まる、ほっこりじんわり異世界ラブストーリー。

氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました

まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」 あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。 ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。 それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。 するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。 好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。 二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

処理中です...