悪役令嬢にそんなチートな能力を与えてはいけません!

入海月子

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セシルの好きな人

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「でも、僕は操られてなどいないよ? 王家の人間は魔力が強くて、暗示にかからない。だからかな? 君のかわいいお願いはみんな覚えている。『嫌いにならないで』『ぎゅうして』『好きになって』……全部頼まれるまでもなく、僕がしたいことだったからそうした」

 私は真っ赤になった。
 逆に全部覚えられているなんて恥ずかしくてたまらない。幼い私はなんてこと言っちゃってたのかしら……。

「ルビー……ルビアナ、好きだよ。愛してる。確か『愛してるって言って』というお願いはなかったよね?」

 いたずらっぽく微笑んで、ジュリアン様は最高の言葉をくれる。
 すんなりとそれが胸に入ってきて心に沁み渡る。
 瞼が熱い。
 ジュリアン様の本気が伝わったから。
 本当にジュリアン様が私を愛しているのがわかって、歓喜が身体中を駆け巡る。

「私も愛しています、ジュリアン様」

 そう言うと、優しいキスが降ってきた。
 顔中に口づけられる。キスの雨にうっとりしかけた私ははっとする。

「あ、でも、ダメなんです!」

 すっかり甘い雰囲気になり、また押し倒されそうになって、このままではいけないことを思い出した。

「……まだなにかあるの?」

 ジュリアン様はため息をついた。今日は本当に余裕がない。

「はい、重要な話があるんです。私がセシルのもとに行ってと言った理由です」
「それは聞かなきゃダメだね……」

 残念そうにキスを止めて、代わりにジュリアン様は私の頬をなでる。

「実は……」

 私は、転生したこと、ここが前世のゲームの世界にそっくりなこと、そして、ゲームのストーリーを語った。
 ジュリアン様は真剣に聞いてくれた。ストーリーを聞くうちに、だんだん表情が険しくなっていく。
 この国が危機的状況にあることをご理解いただけたんだわ。 

「君が悪役令嬢で、僕が君を断罪したなんて、たとえ別世界のことでも許しがたいな」

 ジュリアン様の瞳がまた爛々と輝き、真夏の光になってきた。
 ダメよ。ジュリアン様は春の陽だまりでいてください。っていうか、気になるのはそっち?
 私がなだめるようにジュリアン様の手を握ると、光が和らいで甘い瞳が戻ってきた。

「……だから、セシルがジュリアン様と恋人にならないと、この国が滅びてしまうかもしれないんです」

 そんなことを言ったら、また怒るかなと思っていたら、意外にもジュリアン様はおかしそうに笑った。

「セシルが好きなのは僕じゃないよ? 本人に聞いたの?」
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