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再会
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翌日、私は十五分前にスペイン料理店へ着く。
なにを着ていこうかさんざん迷って、きれいめのワンピースを着てきた。肩下の髪の毛はゆるく巻いてある。
(お礼だから、身だしなみを整えておかないとね!)
いつもよりおしゃれをしているように感じた私は心の中で弁解した。
商業ビルの中にあるこのレストランは内装も素敵で気に入っている。
いろんな模様のタイルがパッチワークのように敷きつめられた店内は明るくモダンで、本場の趣きがあるのだ。もちろん雰囲気だけでなく料理もおいしい。
予約席に案内され、座って待っていると、約束の時刻の五分前に彼は現れた。
「あ、守谷さん、こんにちは」
立ち上がって挨拶したら、彼は整った顔をニッと崩す。
とたんに親しみやすい表情になり、私の心臓がトクンと跳ねた。
「こんにちは、大橋さん。素敵な店だな」
守谷さんは店内をぐるりと見回して言った。
職業柄、内装が気になるようだ。
「そうなんです。私も気に入ってて。このタイルはわざわざスペインから取り寄せているそうですよ」
「へぇ、味があっていいね」
向かいの席に座りながら、彼は感心したようにうなずいている。
プロに認めてもらえた気がして、うれしくなった。
私も改めて席につき、頭を下げた。
「今日はお忙しい中、来ていただいて、ありがとうございます」
「いや、今週はたいして忙しくないから。それより、まずは注文しないか?」
「そうですね」
守谷さんは私からおすすめメニューを聞き出しながら、さっと注文してくれる。
こなれた感じが素敵だ。
飲み物が出てきて、ソフトドリンクだったけど、乾杯をした。
「研修生合格に乾杯!」
守谷さんがそう言ってくれて、私たちはグラスを合わせた。
「昨日は本当にありがとうございました。送っていただけなかったら、研修生になれなかったかも……あれ、なんで研修生だってご存じなんですか?」
メールで面接がうまくいったと報告していたものの、研修の話はしていないはずだ。
私の疑問に彼はにやりと笑って、説明してくれた。
「スペインに行く前に日本で研修があるだろう? 日本の建築技術を学ぶための」
「はい。よくご存じで」
「実は、その中の内装デザインの講師をすることになってるから、昨日研修生の面接があるって知ってたんだ。まさかその場で採用通知があるとは思わなかったけど」
「そうだったんですね」
まさか講師役だったなんて、世間は狭いと驚いた。
(ってことは、守谷さんとはまた顔を合わせる機会があるってことね)
そう考えて、ひそかにうれしくなってしまった。
そんなことを話しているうちに、頼んでいたイベリコベーコンのシーザーサラダとタパスが来た。
タパスはトマトのブルスケッタとオリーブ漬け、牡蠣のアヒージョだ。
守谷さんが綺麗に取り分けてくれる。
そして、彼は大きな口でブルスケッタにかぶりついた。
「うまいな」
私はシーザーサラダを口に入れたところで、モグモグしながらうなずいた。
カリカリベーコンの塩みが効いていて、こちらもとてもおいしい。
でも、このお店の売りはパエリアだ。
魚介たっぷりのパエリアが来ると、今度は私が取り分けた。
「これはすごい。今まで食べた中で一番うまいパエリアかもしれない」
一口食べた守谷さんがうなるように言った。
私はうれしくなって、得意げに告げる。
「そうでしょう? まさにスペイン本場の味ですよね!」
「大橋さんはスペインに行ったことあるの?」
「はい。何度か。私、スペイン建築が好きで好きで、それを学ぶために建築学科に入ったといっても過言ではなくて。だから、今回の研修生に選ばれたのが本当にうれしいんです。改めてありがとうございます!」
スペインのことに話を向けられるとテンションが上がる。
「それはよかった。俺もうれしいよ。スペインのデザインは独特だから、面白いものが学べそうだな」
「はい! すごく楽しみです」
それから、スペインの建築の話題になり、守谷さんが聞き上手なこともあって、私は熱く語ってしまった。
微笑ましそうに見つめられ、我に返った私は顔を赤らめた。
対する守谷さんは知識も豊富で、私の話にうなずくだけでなく、デザイナーとしての知見や経験を交えて話してくれたので、とても興味深く楽しい時間だった。
なにを着ていこうかさんざん迷って、きれいめのワンピースを着てきた。肩下の髪の毛はゆるく巻いてある。
(お礼だから、身だしなみを整えておかないとね!)
いつもよりおしゃれをしているように感じた私は心の中で弁解した。
商業ビルの中にあるこのレストランは内装も素敵で気に入っている。
いろんな模様のタイルがパッチワークのように敷きつめられた店内は明るくモダンで、本場の趣きがあるのだ。もちろん雰囲気だけでなく料理もおいしい。
予約席に案内され、座って待っていると、約束の時刻の五分前に彼は現れた。
「あ、守谷さん、こんにちは」
立ち上がって挨拶したら、彼は整った顔をニッと崩す。
とたんに親しみやすい表情になり、私の心臓がトクンと跳ねた。
「こんにちは、大橋さん。素敵な店だな」
守谷さんは店内をぐるりと見回して言った。
職業柄、内装が気になるようだ。
「そうなんです。私も気に入ってて。このタイルはわざわざスペインから取り寄せているそうですよ」
「へぇ、味があっていいね」
向かいの席に座りながら、彼は感心したようにうなずいている。
プロに認めてもらえた気がして、うれしくなった。
私も改めて席につき、頭を下げた。
「今日はお忙しい中、来ていただいて、ありがとうございます」
「いや、今週はたいして忙しくないから。それより、まずは注文しないか?」
「そうですね」
守谷さんは私からおすすめメニューを聞き出しながら、さっと注文してくれる。
こなれた感じが素敵だ。
飲み物が出てきて、ソフトドリンクだったけど、乾杯をした。
「研修生合格に乾杯!」
守谷さんがそう言ってくれて、私たちはグラスを合わせた。
「昨日は本当にありがとうございました。送っていただけなかったら、研修生になれなかったかも……あれ、なんで研修生だってご存じなんですか?」
メールで面接がうまくいったと報告していたものの、研修の話はしていないはずだ。
私の疑問に彼はにやりと笑って、説明してくれた。
「スペインに行く前に日本で研修があるだろう? 日本の建築技術を学ぶための」
「はい。よくご存じで」
「実は、その中の内装デザインの講師をすることになってるから、昨日研修生の面接があるって知ってたんだ。まさかその場で採用通知があるとは思わなかったけど」
「そうだったんですね」
まさか講師役だったなんて、世間は狭いと驚いた。
(ってことは、守谷さんとはまた顔を合わせる機会があるってことね)
そう考えて、ひそかにうれしくなってしまった。
そんなことを話しているうちに、頼んでいたイベリコベーコンのシーザーサラダとタパスが来た。
タパスはトマトのブルスケッタとオリーブ漬け、牡蠣のアヒージョだ。
守谷さんが綺麗に取り分けてくれる。
そして、彼は大きな口でブルスケッタにかぶりついた。
「うまいな」
私はシーザーサラダを口に入れたところで、モグモグしながらうなずいた。
カリカリベーコンの塩みが効いていて、こちらもとてもおいしい。
でも、このお店の売りはパエリアだ。
魚介たっぷりのパエリアが来ると、今度は私が取り分けた。
「これはすごい。今まで食べた中で一番うまいパエリアかもしれない」
一口食べた守谷さんがうなるように言った。
私はうれしくなって、得意げに告げる。
「そうでしょう? まさにスペイン本場の味ですよね!」
「大橋さんはスペインに行ったことあるの?」
「はい。何度か。私、スペイン建築が好きで好きで、それを学ぶために建築学科に入ったといっても過言ではなくて。だから、今回の研修生に選ばれたのが本当にうれしいんです。改めてありがとうございます!」
スペインのことに話を向けられるとテンションが上がる。
「それはよかった。俺もうれしいよ。スペインのデザインは独特だから、面白いものが学べそうだな」
「はい! すごく楽しみです」
それから、スペインの建築の話題になり、守谷さんが聞き上手なこともあって、私は熱く語ってしまった。
微笑ましそうに見つめられ、我に返った私は顔を赤らめた。
対する守谷さんは知識も豊富で、私の話にうなずくだけでなく、デザイナーとしての知見や経験を交えて話してくれたので、とても興味深く楽しい時間だった。
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