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せっかちな彼①
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「あのさ、いきなりだけど、付き合ってくれないか?」
「え、どこに?」
今度はどこに連れていってくれるのだろうと胸が高まった。でも、守谷さんは困ったように頬を掻く。
「そうじゃなくて、交際のほうの付き合うだ」
「こうさい? え、あの、交際!?」
びっくりして聞き返したら、守谷さんは大真面目にうなずいた。
一瞬ときめいたけれど、すぐ私は硬い表情になる。
彼女がいる癖になにを言い出すのかと不快になったのだ。
いくら魅力的でも不誠実な人は嫌いだ。
惹かれていたからこそ、そんなことを言われて、がっかりした。
私の態度を見て、守谷さんは弁解するように言った。
「ごめん。いきなりすぎたよな。でも、昨日から君のことが頭を離れなくて、今日一日一緒にいて、思ったんだ。これっきりにしたくないって。それに、君は七月からスペインにいくだろう? だから、早く捕まえとかないとって焦った」
恋人がいる人でなければ、そんなことを言われたらうれしくて舞い上がっていただろう。
だけど、守谷さんは二股をかけようとしているのだ。
(どうせ研修に行くから、あと腐れなく遊べると思ったのかな?)
むっとして、尖った声で私は答えた。
「……私には割り切った関係はムリです」
「割り切った? 研修のことを言ってるのか? 一週間集中講義をするだけだ。公私の区別はつけられるよ」
守谷さんがとんちんかんな答えをしてくるから、私は首を横に振った。
「違います。私は他に相手がいる人とは付き合えません」
「相手?」
「美奈子さんがいるでしょう?」
きょとんとしている守谷さんに憤慨する。たまたま名前まで知ってしまった人に申し訳ないと思って。
それなのに、彼は急に笑い始めた。
「ハハハハ、なるほど、美奈子か」
なにがおかしいのかとふてくされて見ていると、守谷さんは私のあごに手をかけ、顔を覗き込んできた。
「俺に恋人がいると思って、そんな顔をしているのか? だったら、少しは望みがあるってことだな」
「ちがっ――」
おもしろそうに瞳をきらめかせた彼の顔が近すぎて、カッと頬が熱くなる。
距離を取ろうと、彼の手首を掴んで身を引いたとき、守谷さんは言った。
「美奈子は恋人じゃないよ。妹だ」
「いもうと……?」
呆けた私はまじまじと目の前の人の顔を凝視する。
そして、次の瞬間、カーッと頬をほてらせた。自分でも真っ赤になっているのがわかる。
私は盛大な勘違いをして守谷さんを責めていたのだ。しかも、誤解だということは、さっきまでの言葉が純粋なもので……。
そう考えたら、申し訳なさとうれしさと戸惑いが同時に頭を埋め尽くしてうろたえた。
「ご、ごめんなさい。私、てっきり……」
「いや、いい。君は最初のから美奈子のことを気にしていたのに、誤解に気づかなかった俺が悪い」
「いいえ、私もちゃんと聞けばよかったんです。まぎらわしい言い方をして、ごめんなさい」
恋人という言葉を出したくなかったのだと思う。それぐらいには彼に惹かれていた。
お互いに謝り合って、顔を見合わせて照れくさくて笑った。
「それで、恋人のいない俺はどうだ? 付き合ってくれるか?」
「……」
私はすぐには答えられなかった。
誤解は解けたものの、それとこれとは話が違う。
先ほども思ったように、私は恋愛にかまけている場合ではないのだ。
だいたいどういうつもりで言っているのかもわからない。出会ってすぐにこんなことを言いだすなんて、守谷さんは意外と軽いのかもしれない。
そこで、私は率直に思ったことを口にした。
「え、どこに?」
今度はどこに連れていってくれるのだろうと胸が高まった。でも、守谷さんは困ったように頬を掻く。
「そうじゃなくて、交際のほうの付き合うだ」
「こうさい? え、あの、交際!?」
びっくりして聞き返したら、守谷さんは大真面目にうなずいた。
一瞬ときめいたけれど、すぐ私は硬い表情になる。
彼女がいる癖になにを言い出すのかと不快になったのだ。
いくら魅力的でも不誠実な人は嫌いだ。
惹かれていたからこそ、そんなことを言われて、がっかりした。
私の態度を見て、守谷さんは弁解するように言った。
「ごめん。いきなりすぎたよな。でも、昨日から君のことが頭を離れなくて、今日一日一緒にいて、思ったんだ。これっきりにしたくないって。それに、君は七月からスペインにいくだろう? だから、早く捕まえとかないとって焦った」
恋人がいる人でなければ、そんなことを言われたらうれしくて舞い上がっていただろう。
だけど、守谷さんは二股をかけようとしているのだ。
(どうせ研修に行くから、あと腐れなく遊べると思ったのかな?)
むっとして、尖った声で私は答えた。
「……私には割り切った関係はムリです」
「割り切った? 研修のことを言ってるのか? 一週間集中講義をするだけだ。公私の区別はつけられるよ」
守谷さんがとんちんかんな答えをしてくるから、私は首を横に振った。
「違います。私は他に相手がいる人とは付き合えません」
「相手?」
「美奈子さんがいるでしょう?」
きょとんとしている守谷さんに憤慨する。たまたま名前まで知ってしまった人に申し訳ないと思って。
それなのに、彼は急に笑い始めた。
「ハハハハ、なるほど、美奈子か」
なにがおかしいのかとふてくされて見ていると、守谷さんは私のあごに手をかけ、顔を覗き込んできた。
「俺に恋人がいると思って、そんな顔をしているのか? だったら、少しは望みがあるってことだな」
「ちがっ――」
おもしろそうに瞳をきらめかせた彼の顔が近すぎて、カッと頬が熱くなる。
距離を取ろうと、彼の手首を掴んで身を引いたとき、守谷さんは言った。
「美奈子は恋人じゃないよ。妹だ」
「いもうと……?」
呆けた私はまじまじと目の前の人の顔を凝視する。
そして、次の瞬間、カーッと頬をほてらせた。自分でも真っ赤になっているのがわかる。
私は盛大な勘違いをして守谷さんを責めていたのだ。しかも、誤解だということは、さっきまでの言葉が純粋なもので……。
そう考えたら、申し訳なさとうれしさと戸惑いが同時に頭を埋め尽くしてうろたえた。
「ご、ごめんなさい。私、てっきり……」
「いや、いい。君は最初のから美奈子のことを気にしていたのに、誤解に気づかなかった俺が悪い」
「いいえ、私もちゃんと聞けばよかったんです。まぎらわしい言い方をして、ごめんなさい」
恋人という言葉を出したくなかったのだと思う。それぐらいには彼に惹かれていた。
お互いに謝り合って、顔を見合わせて照れくさくて笑った。
「それで、恋人のいない俺はどうだ? 付き合ってくれるか?」
「……」
私はすぐには答えられなかった。
誤解は解けたものの、それとこれとは話が違う。
先ほども思ったように、私は恋愛にかまけている場合ではないのだ。
だいたいどういうつもりで言っているのかもわからない。出会ってすぐにこんなことを言いだすなんて、守谷さんは意外と軽いのかもしれない。
そこで、私は率直に思ったことを口にした。
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