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研修②
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研修三日目の水曜日。
講義が終わって、ビルを出たところに柴崎がいた。
通り過ぎようとしたら、話しかけてくる。
「大橋は守谷さんと知り合いなのか? やけに親しくないか?」
いきなり責めるように言われて、私は口ごもった。
講義の前後に守谷さんがかまってきていたのを見られていたようだ。
懸念したように柴崎は守谷さんの態度に不公平感を覚えたのかもしれない。
「……親しくは、ない。ちょっとした知り合いなだけ」
「ちょっとしたって感じじゃないけどな」
「別に研修とは関係ないわ。評価が変わるわけじゃないし」
そう言うと、柴崎は不機嫌な顔で「そううことじゃない」とつぶやいた。
(なんでこの人はいちいちつっかかってくるんだろう?)
うんざりして、私は話を打ち切ろうとした。
「それじゃあ――」
「待てよ!」
立ち去ろうとした私の手首を柴崎が掴んだ。
驚いて振り払おうとするけれど、意外にもその力は強くて離せない。
「なに?」
むっとして彼を睨むと、柴崎も鋭い目でこちらを見てくる。
自分で引き留めたくせに、彼は黙ったままだ。
「なんなの?」
こんなところを誰にも見られたくなくて、私はいらだった声を出した。
なぜか守谷さんの顔が浮かぶ。
柴崎はハッとしたように手を放すと仏頂面で首を振った。
「……なんでもない」
「そう。じゃあね」
なんなのかなと憤慨しながら、私は帰宅した。
その晩、いつものように電話をかけてきた守谷さんは普段と様子が違った。
『柴崎くんになにを言われてたんだ?』
冒頭から硬い声でそんなことを聞かれて、きょとんとする。
「別になにも……?」
柴崎と話しているのを見られたのだろう。
『なにもないって雰囲気じゃなかっただろう?』
端からはそう見えたのかもしれないが、本当に大したことを聞かれたわけではないので、私はちょっとムッとして答えた。
「本当になにも言われてません!」
『……悪かった。君は俺の彼女でもなんでもないのにな。俺にはなんの権利もない』
沈んだ声でそう言われて、私はなにも言えなかった。
答えを要してなかったのか、守谷さんは質問を続ける。
『柴崎くんとは大学の同級生なんだよな? 親しいのか?』
柴崎にも同じようなことを聞かれたなと思いつつ、苦笑して答えた。
「同級生でしたが、どちらかというと仲悪いです。っていうか、柴崎がやたらとつっかかってくるので、嫌われてるんだと思います」
『なるほど、そうか。仲が悪いか』
急に彼の声が明るくなって、私は首をかしげた。
そして、ふと思い当たる。
(もしかして嫉妬してるの?)
守谷さんのように素敵な人が、柴崎に嫉妬する必要ないのにとおかしくなった。
機嫌を直した守谷さんと少し話して、おやすみなさいと電話を切る。
まだ出会って一週間も経っていないのに、毎日のように顔を合わせているからか、昔からこうやって電話をしていたような馴染み感があった。
講義が終わって、ビルを出たところに柴崎がいた。
通り過ぎようとしたら、話しかけてくる。
「大橋は守谷さんと知り合いなのか? やけに親しくないか?」
いきなり責めるように言われて、私は口ごもった。
講義の前後に守谷さんがかまってきていたのを見られていたようだ。
懸念したように柴崎は守谷さんの態度に不公平感を覚えたのかもしれない。
「……親しくは、ない。ちょっとした知り合いなだけ」
「ちょっとしたって感じじゃないけどな」
「別に研修とは関係ないわ。評価が変わるわけじゃないし」
そう言うと、柴崎は不機嫌な顔で「そううことじゃない」とつぶやいた。
(なんでこの人はいちいちつっかかってくるんだろう?)
うんざりして、私は話を打ち切ろうとした。
「それじゃあ――」
「待てよ!」
立ち去ろうとした私の手首を柴崎が掴んだ。
驚いて振り払おうとするけれど、意外にもその力は強くて離せない。
「なに?」
むっとして彼を睨むと、柴崎も鋭い目でこちらを見てくる。
自分で引き留めたくせに、彼は黙ったままだ。
「なんなの?」
こんなところを誰にも見られたくなくて、私はいらだった声を出した。
なぜか守谷さんの顔が浮かぶ。
柴崎はハッとしたように手を放すと仏頂面で首を振った。
「……なんでもない」
「そう。じゃあね」
なんなのかなと憤慨しながら、私は帰宅した。
その晩、いつものように電話をかけてきた守谷さんは普段と様子が違った。
『柴崎くんになにを言われてたんだ?』
冒頭から硬い声でそんなことを聞かれて、きょとんとする。
「別になにも……?」
柴崎と話しているのを見られたのだろう。
『なにもないって雰囲気じゃなかっただろう?』
端からはそう見えたのかもしれないが、本当に大したことを聞かれたわけではないので、私はちょっとムッとして答えた。
「本当になにも言われてません!」
『……悪かった。君は俺の彼女でもなんでもないのにな。俺にはなんの権利もない』
沈んだ声でそう言われて、私はなにも言えなかった。
答えを要してなかったのか、守谷さんは質問を続ける。
『柴崎くんとは大学の同級生なんだよな? 親しいのか?』
柴崎にも同じようなことを聞かれたなと思いつつ、苦笑して答えた。
「同級生でしたが、どちらかというと仲悪いです。っていうか、柴崎がやたらとつっかかってくるので、嫌われてるんだと思います」
『なるほど、そうか。仲が悪いか』
急に彼の声が明るくなって、私は首をかしげた。
そして、ふと思い当たる。
(もしかして嫉妬してるの?)
守谷さんのように素敵な人が、柴崎に嫉妬する必要ないのにとおかしくなった。
機嫌を直した守谷さんと少し話して、おやすみなさいと電話を切る。
まだ出会って一週間も経っていないのに、毎日のように顔を合わせているからか、昔からこうやって電話をしていたような馴染み感があった。
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