運命には間に合いますか?

入海月子

文字の大きさ
10 / 20

研修③

しおりを挟む
「これで私の講義は終わりです。本来なら二週に渡ってもっとじっくり講義するはずだったのですが、来週仕事が立て込むことになって、今週だけで凝縮して詰め込んでしまって、申し訳ありません。その代わり、質問があれば気軽に連絡してください」
 内装研修の最終日の金曜日、みっちり講義してくれたあと、守谷さんはそう締めくくった。
 講義のときの彼は丁寧語でしゃべり、スマートな印象だ。
「ありがとうございました。とても勉強になりました」
 お礼を言った私の隣で、柴崎が片手を上げた。
「さっそく質問いいですか?」
「はい、どうぞ」
「守谷さんは大橋さんとどういう関係なんですか?」
「は? なに言ってるのよ!」
 柴崎が変なことを言いだして、私は慌てて彼を咎める。
(質問ってそういうことじゃないでしょう?)
 笑って流すかと思った守谷さんは意外にも茶化すことなく柴崎をじっと見た。観察するかのように。そして、大真面目な顔で言った。
「関係と言われると今はまだ知り合いかな。絶賛口説き中の」
 口調がプライベートのものに戻っている。
 それはいいけど、柴崎に言う必要ある?
 今度は守谷さんに抗議の声をあげた。
「守谷さん!」
 そんな私と守谷さんを交互に見て、柴崎は笑った。
 彼が私の前でそんな表情をするのはめずらしい。
「それなら、俺にもチャンスがあるってわけだ」
「チャンス? なんの?」
 首をかしげた私に向き直った柴崎は言う。
「大橋、付き合ってくれ」
「えぇっ? どうして? 私を嫌ってたんでしょう?」
 話の流れから今度は交際の付き合うだってことはわかったけど、思ってもみなかった柴崎の言葉に驚いて目を見開いた。
「違う。学生のころからずっと好きだった」
「ウソでしょう?」
 今までの態度のどこに好きの要素があったのだろうと疑問に思う。
 しかも、守谷さんの前で告白するなんて、とうろたえた。
「おい、ちょっと待て。俺が口説いてる最中だって言っただろう?」
 そこに守谷さんまで参戦してくる。
 柴崎は肩をすくめて反論した。
「でも、好きになったのは俺が先です」
「口説き始めたのは俺が先だろ?」
「だから、今から口説こうとしてるんです」
 守谷さんと柴崎は私を置いてきぼりにして、言い合いをしている。
(二人ともここが研修室だって忘れてない?)
 だいたい私はスペイン建築への夢が実現するというので頭がいっぱいだ。
 そこに恋愛の入る余地はない。
 心を乱すのはやめてほしい。
 だんだん腹が腹が立ってきて、私は叫んだ。
「私は誰とも付き合うつもりはありません!」
「なんで!」
「なぜだ?」
 ハッと振り向いた二人は口々に聞いてきた。
「私は器用なタイプじゃないから、仕事と研修と恋愛を同時にこなせる自信がないんです。今は夢だったスペインへ行く準備に集中したいんで、恋愛なんてしてる暇はありません」
 その三つを比べたら、恋愛をあきらめるしかない。
 きっぱり言ったのに、二人とも食い下がってきた。
「もちろん、状況はわかってる。夢は応援するし、サポートしたいと思ってる。でも、君の人生の中に少しだけ俺を混ぜてほしいんだ」
 訴えるように言う守谷さんに対して、柴崎は冷静に言う。
「俺はじっくり待つよ。どうせスペイン研修で何年もそばにいるしな。ただ、俺の気持ちを知っておいてもらいたい」
 二人とも引くつもりはないようで、心底困った。
 しかも、守谷さんが柴崎の言葉に焦った目で私を見てくるから、心がざわめく。
(もうっ、どうして今なの!?)
 容量オーバーになった私は話を打ち切った。
「とにかく今はムリですから! 失礼します!」
 一方的に言って、部屋を飛び出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません

下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。 旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。 ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも? 小説家になろう様でも投稿しています。

もう一度確かな温もりの中で君を溺愛する

恋文春奈
恋愛
前世で俺は君というすべてを無くした 今の俺は生まれた時から君を知っている また君を失いたくない 君を見つけてみせるから この奇跡叶えてみせるよ 今度こそ結ばれよう やっと出逢えた 君は最初で最後の運命の人 ヤンデレ国民的アイドル松平 朔夜(25)×平凡なオタク大学生佐山 琉梨(22)

『嫌われ令嬢ですが、最終的に溺愛される予定です』

由香
恋愛
貴族令嬢エマは、自分が周囲から嫌われていると信じて疑わなかった。 婚約者である侯爵令息レオンからも距離を取られ、冷たい視線を向けられている――そう思っていたのに。 ある日、思いがけず聞いてしまった彼の本音。 「君を嫌ったことなど、一度もない」 それは誤解とすれ違いが重なっただけの、両片思いだった。 勘違いから始まる、甘くて優しい溺愛恋物語。

狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。

汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。 元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。 与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。 本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。 人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。 そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。 「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」 戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。 誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。 やわらかな人肌と、眠れない心。 静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。 [こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

【完結】恋は、友とビールとおいしい料理と

桜井涼
恋愛
大学時代からの親友、香奈子と理子。婚約破棄から始まる香奈子の恋は失恋旅行で何かをつかんだ。 転職から始まった理子の恋は、転勤でどう動く?それぞれの恋と友情の物語。

十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。

er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——

竜帝と番ではない妃

ひとみん
恋愛
水野江里は異世界の二柱の神様に魂を創られた、神の愛し子だった。 別の世界に産まれ、死ぬはずだった江里は本来生まれる世界へ転移される。 そこで出会う獣人や竜人達との縁を結びながらも、スローライフを満喫する予定が・・・ ほのぼの日常系なお話です。設定ゆるゆるですので、許せる方のみどうぞ!

処理中です...