運命には間に合いますか?

入海月子

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研修③

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「これで私の講義は終わりです。本来なら二週に渡ってもっとじっくり講義するはずだったのですが、来週仕事が立て込むことになって、今週だけで凝縮して詰め込んでしまって、申し訳ありません。その代わり、質問があれば気軽に連絡してください」
 内装研修の最終日の金曜日、みっちり講義してくれたあと、守谷さんはそう締めくくった。
 講義のときの彼は丁寧語でしゃべり、スマートな印象だ。
「ありがとうございました。とても勉強になりました」
 お礼を言った私の隣で、柴崎が片手を上げた。
「さっそく質問いいですか?」
「はい、どうぞ」
「守谷さんは大橋さんとどういう関係なんですか?」
「は? なに言ってるのよ!」
 柴崎が変なことを言いだして、私は慌てて彼を咎める。
(質問ってそういうことじゃないでしょう?)
 笑って流すかと思った守谷さんは意外にも茶化すことなく柴崎をじっと見た。観察するかのように。そして、大真面目な顔で言った。
「関係と言われると今はまだ知り合いかな。絶賛口説き中の」
 口調がプライベートのものに戻っている。
 それはいいけど、柴崎に言う必要ある?
 今度は守谷さんに抗議の声をあげた。
「守谷さん!」
 そんな私と守谷さんを交互に見て、柴崎は笑った。
 彼が私の前でそんな表情をするのはめずらしい。
「それなら、俺にもチャンスがあるってわけだ」
「チャンス? なんの?」
 首をかしげた私に向き直った柴崎は言う。
「大橋、付き合ってくれ」
「えぇっ? どうして? 私を嫌ってたんでしょう?」
 話の流れから今度は交際の付き合うだってことはわかったけど、思ってもみなかった柴崎の言葉に驚いて目を見開いた。
「違う。学生のころからずっと好きだった」
「ウソでしょう?」
 今までの態度のどこに好きの要素があったのだろうと疑問に思う。
 しかも、守谷さんの前で告白するなんて、とうろたえた。
「おい、ちょっと待て。俺が口説いてる最中だって言っただろう?」
 そこに守谷さんまで参戦してくる。
 柴崎は肩をすくめて反論した。
「でも、好きになったのは俺が先です」
「口説き始めたのは俺が先だろ?」
「だから、今から口説こうとしてるんです」
 守谷さんと柴崎は私を置いてきぼりにして、言い合いをしている。
(二人ともここが研修室だって忘れてない?)
 だいたい私はスペイン建築への夢が実現するというので頭がいっぱいだ。
 そこに恋愛の入る余地はない。
 心を乱すのはやめてほしい。
 だんだん腹が腹が立ってきて、私は叫んだ。
「私は誰とも付き合うつもりはありません!」
「なんで!」
「なぜだ?」
 ハッと振り向いた二人は口々に聞いてきた。
「私は器用なタイプじゃないから、仕事と研修と恋愛を同時にこなせる自信がないんです。今は夢だったスペインへ行く準備に集中したいんで、恋愛なんてしてる暇はありません」
 その三つを比べたら、恋愛をあきらめるしかない。
 きっぱり言ったのに、二人とも食い下がってきた。
「もちろん、状況はわかってる。夢は応援するし、サポートしたいと思ってる。でも、君の人生の中に少しだけ俺を混ぜてほしいんだ」
 訴えるように言う守谷さんに対して、柴崎は冷静に言う。
「俺はじっくり待つよ。どうせスペイン研修で何年もそばにいるしな。ただ、俺の気持ちを知っておいてもらいたい」
 二人とも引くつもりはないようで、心底困った。
 しかも、守谷さんが柴崎の言葉に焦った目で私を見てくるから、心がざわめく。
(もうっ、どうして今なの!?)
 容量オーバーになった私は話を打ち切った。
「とにかく今はムリですから! 失礼します!」
 一方的に言って、部屋を飛び出した。
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