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第一章 ― 優 ―

同好会活動④

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 なるほどそういうこともあるのね。
 でも、土日の心配はしなくてよさそうでほっとする。これで安心して休めるわ。

「あ、そうだ! 遥斗先輩って甘いもの食べます?」
「食えるものなら食う」
「お母さんがマドレーヌ焼いてくれたからおすそ分け」
「お母さんね……」
 
 先輩はなぜか顔をしかめた。
 家に帰らない遥斗先輩。お母さんと折り合いが悪いのかな?
 不機嫌になりながらもマドレーヌを渡すと普通に食べる。お腹は空いているらしい。あんな大量のお弁当を食べているのに、この細い体のどこに入っているんだろう?

「そういえば、もうすぐゴールデンウィークですねー。先輩はなにするんですか?」
「べつに。いつもと変わらない」
「バイトとか、絵を描くんですか?」
「あぁ」

 もう一つ気になっていたのは再来週のゴールデンウィーク。お弁当は学校があるときだけと言われたけど、大型連休のときはどうするんだろう? 今年は5連休だ。
 真奈美先輩は夕食を届けてあげるのかな? まだニ回しか会っていないけど、今度聞いてみよう。
 なにもなかったら、バイトもしているんだし、さすがになにか買って食べるよね?

「お前は?」
「え?」
 
 他事を考えていた私はなにを聞かれたのかわからなくて聞き返した。

「お前はどこかに行くのか?」
「はい。毎年この時期におばさんがやっている軽井沢のペンションに行くんです」
「ペンション……。お前、いいところのお嬢様なのか?」
「ぜーんぜんですよ。どちらかというとおばさんの実家が小金持ちです」

 『いいところのお嬢様』という言い回しがおかしくて、私は笑った。

「お土産買ってきますね!」
「どうせだったら食べ物にしてくれ」
「えー、使えないキーホルダーとかよくわからない置物とか買ってこようと思っていたのに」
「少しもいらないな」

 遥斗先輩は大真面目に答える。
 もう、クスッとか笑ってくれたらいいのに。
 遥斗先輩の笑顔は初めて会ったときと、月曜の二回だけしか見ていない。
 笑わなさすぎじゃない?

 いつか遥斗先輩の笑顔を写真に収めてやろうと野望を燃やした。

「写真もいっぱい撮ってきて見せてあげますね! 軽井沢は自然が綺麗だから。たぶん桜ももまだ咲いているし」
「あぁ、それはいいな」

 絵心が刺激されるのか、遥斗先輩は頷いた。
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