死んだことにされた処女妻は人外たちと遍路の旅をする―

ジャン・幸田

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(弐)処女妻の時代

処女妻の時代

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 輿入れしてから五年、私にとっては処女妻の時代であった。遠い昔の話であるが、とある国の皇帝は後宮に美女数百人を集め、その多くは皇帝のお手付きにならなかったので処女のまま人生を終えたという。そんな女たちのようになろうとしていた。

 鳳凰宮での生活は厳しいけどそれなりに充実していた。仕事が忙しかったから。家事に農作業に、農作業というのは食糧事情が戦時下で悪化していたので屋敷内を畑にしていたからだ。夫たる殿下はずっと不在だったので妻としての仕事なんかなかった。皇帝陛下には正式に謁見したことはないので、公式には妃と認められなかった。

 そうしているうちに、帝都は敵国航空隊によって焼け野原になり、実家の酒匂は焼失し両親は行方不明になってしまった。遺体は発見されなかったが死亡したとされた。だが、悲しんでいる間もなかった。この国が無条件全面降伏したから。

 この時、鳳凰宮のお姑は左翼革命が起きて特権階級にいる自分が粛清されると心配していたけど、私の事などあまり気にしている様子はなかった。一番の心配は息子の殿下そして孫のことだった。殿下は私という妻が存在する事はおかまいなかったのだ。そんな時だった、勾玉の本当の事を教えてもらたのは。

 ある日の事、私が迂闊にも勾玉を外したままにしていたときのことだ。たまたまやって来た出入りの業者が私のお守り袋を触れた瞬間、物凄い形相で悶絶してしまったのだ。その時、私は桔梗さんにものすごい形相で連れていかれた。そこで恐ろしい事を聞いたのだ。

 あの勾玉は忌まわしい古の神が封じ込められているのだと。そして所有者以外の霊能力のない者が触れると場合によっては死ぬことがあるのだと。では、なぜそんな勾玉を持ち続けないといけないのよ、そう聞いたら・・・その時、別の使用人から恐ろしい知らせが来た。殿下が息子を連れて戻って来たと、そして女も!

 殿下は私と結婚するよりもその女と結婚したがっていた。だけど平民出身の女とは貴賤婚になるので皇帝陛下から婚姻の認可が下りないとして宮内省官僚に反対され諦めていたという。しかし他の妃候補を周囲の者が探している最中も諦めきれず、ついには秘密裡にその女と一緒になっていたという。しかも私と結婚する前に!

 実際、戦争が終わって赴任地から戻って来たというのに、すぐ鳳凰宮の屋敷に戻ってこなかった。それをお姑は軍務の残務整理があるためとか、占領軍との折衝があるとかいっていたけど、全てはウソだった! 別宅であの女と息子との生活を営んでいた。

 だから、鳳凰宮の屋敷に戻ってきた時、私がお姑に命じられるままに、どんなに大抵の男なら契りをしたくなるような花街の夜の華のような淫乱で卑猥な格好をして寝室で待っていても、殿下に一切相手にしてもらえなかった。むしろ穢れたもののように扱われ、書斎に引き込んでしまった。おそらく書斎のソファーでも寝ていたんだと思う。彼にとって操を守るのは正妻の私でなく、その女だったわけだ。女とは情愛を交えて全てを犠牲にするのも厭わないけど、私とは夫婦の誓いをしたというのに、全く相手にしないとは・・・正妻の意味ってなんなのよ! しかも、悪い事に同じ名前だった、その女と私は!

 屋敷にやってきた時、女は酷くやつれていた。なんでも殿下の任地で息子を出産後に結核に感染し、悪い事に敵軍に包囲されて衛生環境が悪かったこともあり、悪化させたんだという。しかも、殿下とは別ルートで帰国するのに時間がかかったので、手の施しようのない状態だったという。

 そんな状態になった女に関して、伝え聞いたことによれば正妻の私が恨んだせいだといったという。殿下にとって私は邪魔もの以外の何物でもなかったのは確かなようだ。そんな女に近づかぬように私は接近禁止を言い渡された! そのため、私は本館の女中部屋から追い出され、敷地の隅にある使用人小屋に女でありながら追いやられてしまった。そこは老齢の男しかいなかったけど、もはや私の操なんか考慮されていなかった。

 それから数か月は農作業を手伝っていたけど、ある日屋敷に呼び出された。女が危篤だと。なぜ呼ばれるのか訝しく思ったけど、それが私の人生に打撃を与える事だと知らなかった。
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