死んだことにされた処女妻は人外たちと遍路の旅をする―

ジャン・幸田

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(弐)処女妻の時代

夜明け前の暗闇での再会

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 昔、聞いたことに一日で一番暗い闇は夜明け前だという。開けない夜はないとはいえ、その夜の闇はなかなか開けないと思う事がある。その時は最も寒い一月、暦の上では冬至が過ぎ夜が短くなっているが、一年で最も夜明けが遅い時期である。その時午前六時であったが、夏とは違い漆黒の闇に包まれていた。

 私を乗せた車は夜の帝都を右往左往した挙句、来た事もない街区へとたどり着いた。そこは空襲によって廃墟となったところで、まだまだ復興途上のようだった。そんな街の片隅にあるとあるビルの前に停まった。

 「ここが目的地です」

 運転手にいわれ、その顔を初めてじっと見たが、どこかで見たことある顔だった。

 「ありがとうございます。桔梗さんは?」

 私はカラスの頭を食い止めるために残った桔梗さんの事が心配だった。

 「大丈夫ですよ。あんな雑魚如きに倒される者ではないですよ、彼女は」

 そうなだめてくれたが、私は今来た路を振り返っていた。夜明け前の空は星も見えず真っ黒で方位すらわからなかった。だから今まで五年間いた鳳凰宮の屋敷からどれくらい離れたのか見当もつかなかった。街にはバラックつくりの住宅が並んでいたけど、その一つ一つに生活があるはずだった。それにしても、衣食住は保障されていても座敷牢に閉じ込められていた私よりかは自由であったのが羨ましく思った。

 通された部屋はビル三階にあり、石炭ストーブがごうごうと燃え盛っていた。その近くには成りのいい老人が佇んでいた。

 「はじめまして、あなたが鳳凰宮香織さまですか? いままでご苦労をおかけいたしまして申し訳ございません。私はこういうモノです」

 そういって渡された名刺には”占部以蔵”と印刷されていたが肩書や連絡先など一切書かれていなかった。

 「占部さんって、桔梗さんと同じですが、ご親戚ですか?」

 占部は桔梗さんの苗字だった。どんな関係があるのかしらと聞いてみた。しかしそれには答えず話を切り出した。

 「香織さま、桔梗の事はとりあえず置いときましょう。時間がないのですよ、六時半から会っていただきたいお方がいるのです。取りあえずこれに着替えてください!」

 差し出されたのは品の良い洋服だった。しかもそれなりに値が張りそうだった。私は更衣室に行って着替えたが、その更衣室の窓から外をのぞいてみたけど、まだ外は暗闇の中だった。そのとき、私は暗闇に浮かんでいるように錯覚しそうだった。その時、遠くから車の列が近づくのが見えた。それはまさかカラスどもの追手? 本当なら桔梗さんだったらいいのに!

 「お着替え終わられましたか? これからお会いになる方との話は重要ですからよく覚えてください。それとメモを取るのはダメですぞ。会った事を記録に残されたらいろいろと面倒な事になりますから」

 占部さんはどうしてそんなことを言うのだろうかと思っていると外から五回もノックして屈強な男に囲まれた中年が入ってきた。その人は四十代で優しそうだけど威厳があって、口ひげを生やし丸いメガネをして愛嬌があるようだけど、眼光が鋭かった。その人とは以前一度だけ思わぬ形で会ったことがあった。

 「陛下!」

 彼は皇帝陛下だった。公務以外に宮殿から外に出る事がないはずなのに!

 「おひさしぶりですね、香織妃。でも今の君の境遇は忍びない事で同情する。今日はこれからについての話をしに来た」

 皇帝はそういうと目の前のソファーにお座りになった。
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