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(閑話)パンドラの鍵

「彼女」の起動

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 麗華が生み出した「エキゾチック・ブレイン」初号機はまさに悪魔が生み出したといえる装置であった。政治犯収容所に収監されていた者や、病人などから摘出した脳漿を結合させて製造した電脳複合体であった。それが明るみになった時「危機の十三週間」が始まった。そして全ては破壊されたはずだった、公式には。しかし、地下宮殿に主要ユニットが隠匿されていた。それを杠たちが回収した。

 現在、世界各国で製造されている「エキゾチック・ブレイン」のコピーは、人工培養された脳組織を用いているが、国際的取り決めで初号機の十分の一以下の処理能力のものしか製造できないことになっていた。当然、帝央大学構内で製造中の「エキゾチック・ブレイン」も規定範囲内であるはずだったが、「連中」の手に落ちているのは確実で危険があった。「悲劇の十三日」が繰り返される可能性が高いといえた。

 シオリに格納された主要ユニットの電脳は、四ヶ国首脳会議が行われる麗華の新首都にある行政院長公邸に運び込まれていた。そこでシオリのAIを取り外したうえで電脳を装着する作業が行われていた。この時、公邸は報道陣が完全にシャットアウトされており、議題は「蔡国再建プロジェクトと軍事機密漏洩事件」と発表されていたが、実際は四ヶ国が持ち寄らないと出来ない作業を行っていた。「エキゾチック・ブレイン」の主要電脳の凍結解除を。

 杠は最終解除のコードを転送していた。これは愛莉が知らず知らずのうちに解除してしまった超難解の暗号解除と同じものであった。実は愛莉が初めて解除したもので、誰も知らなかった「エキゾチック・ブレイン」初号機の秘密を解いてしまったのだ。もっとも、日本防衛相のサーバーにあった情報のうちいくつかは意図的に消去されていたが、おそらく「連中」の仕業だった。

 「この暗号を解読したのが本当にいるとは信じられないな。いったい、どこの誰なんだ?」

 中華の鄭代表は驚いていた。どうも中華は勝手に暗号を解読しようとして失敗していたようだ。

 「これはな、一人の少女だよ。でも憐れな事に機械化人に改造されてしまったがね」

 杠はそういいながら、唇が微妙に痙攣していた。それが何を意味するのかは周囲にいた者は想像もできなかった。

 「機械化人? すると連中の手に落ちたという事か?」

 「そういうことになるが、とりあえずは我らの手の届くところにいる。でも、連中に悟られているかもしれないから、早くしないとな」

 杠がやろうとしている事は想像できなかったが、それほど時間が遺されていないのは確かなようだった。本来なら時間をかけて行えばいい事をここまで急いでいたから、「彼女」の復活を!

 「彼女」とは、麗華の三大発明品を考案した天才少女三姉妹のひとりであった。そして三人のうちの誰かの脳漿を電脳化したものを主要ユニットにしたといわれていた。でも、三人のうちの誰かは不明で、三人は死亡したとも行方をくらましたともいわれていた。もし「連中」に一人もしくは二人の姉妹がいた場合には、奪還しにくるのは確実だった。それなのに杠は何をしようというのかを説明していなかった。

 「しかしです、杠先生。わざわざ連中が寄ってくるようなものを復活させることはありませんよ! それではお宝を盗賊に誇示するために金庫から出すのと変わりありません!」

 マオは心配そうにいった。このユニットには三つの電脳が装着されたといわれており、三姉妹とも改造されたという説もあったが、戦争終結後に確認できたのは一つのみで、二つは時期は不明だが取り外されていた。残されていた電脳がここにあるわけだ。

 「そういうことさ、エサというわけだ。でも確認しなければならないからな、エサとして問題ないかを」

 「でも、それはエサを仕掛けた者も危険ってことになります。そんな危険な事をしなくても、一層の事・・・」

 「一層の事か? それは世間に公表する事っていうことだろ、君。それをするにはまだ早すぎるさ。まだ傷が癒えていない今は。時が来れば明らかにすればいいが、いまは公にできないから、こうして隠れてやっているわけさ」

 一行の目の前で、共和国宮殿地下で眠っていた「彼女」の電脳がシオリのボディにセットアップされた。少しずつ起動させていくと、緊張が走った。三姉妹のうち誰なんだと?
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