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悪役令嬢の影
届けられた荷物
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コンラートは「にせもの」のオルガに情を感じている事に気付いて困惑していた。貴族に自由な恋愛は許されず、家同士の事情で正式な婚姻相手が決められる、それが当たり前の事であった。もし好きな相手がいても公に出来ず、出来たとしても「愛人」とするしかなかった。だから「正妻」に恋をするなんて・・・でも、彼女の意志を尊重しなければならない、なぜなら彼女はいつも「貴族の生活は難しいこと」という筆談をしているから。
「むずかしいですねコンラート様。ところで人員配置についてですが、帝国側に今夜も問題ないようですが、どうしましょうか?」
副官のシュワーは要塞の護りについての指示を仰いでいた。この時期、隣国は王国とは反対側にある中小国への侵略に集中しており、王国側へは「強固」な防衛体制をとってはいたが、今日明日に侵攻する気配はないようであった。いくら大陸でも有数の軍事力をもっているとはいえ、同時に別方向を大量の兵士と物資が必要になる進軍をする愚かなシャー皇帝ではないだろう。だからいつもの警戒態勢ということになった。
「それにしても、新婚だというのに奥方を王都においていて大丈夫ですか、コンラート様?」
シュワーが言いたいことはコンラートは分かっていた。「悪役令嬢」あらため「悪妻」のオルガは主人が不在なのを良いことに、独身時代に逢瀬を重ねていた殿方と会っているとでも思っているようだった。そんな噂は要塞内の兵士に蔓延していた。オルガの評判というのはそんなものだった。
「心配ないさ、妻は水上楼で我がノルトハイム家に相応しい行いをするように教育しているからな」
「へー、そうなんですか」
コンラートの要塞司令の当番は婚約前から決まっており、急遽オルガとの婚姻が決定したあとも変更されなかった。その理由はコンラートが変更しなかったためだ。あんな王女だったオルガと暮らすなんて嫌だったに他ならなかった。でも、いまは後悔していた。あの孤児出身の薬の行商人であったオルガの傍にいたかった。彼女の顔と仕草を見ているだけでよかった。
そんな想いに執務室の椅子の上で耽っていた時、シュワーの声が安息を引き裂いた。
「コンラート様、もうしわけないありませんが、郵便馬車が至急便を持ってきまして。それが不審なのです」
「不審って、爆薬か毒物でも持ってきたとでも言うのか?」
「いえ、送り主がホルスト男爵夫人カリンとなっていますが、おかしいじゃありませんか? なぜ殿下の別称を使うのですか?」
ホルスト男爵はノルトハイム家が保持している貴族位のひとつで、軍学校時代にコンラートが使っていたものだった。もし本家であるノルトハイム辺境伯を相続しなければ、正式に名乗った肩書だ。それを使って郵便馬車を雇うだなんて不審であった。
基本的に貴族階級もしくは王国政府しか使う事が出来ない至急扱いの郵便馬車が、届けてきた荷物は小さな木箱であった。送り状にはカリンとなっていて、差出地はシュバイクドルフとなっていた。どのような手段を用いたのかは不明であるが、確かに届けられてきた。
箱には見た事のある書体の筆記文字でこう書かれていた。その言葉は貴族の極一部しか知らない古の死語で書かれていた。おそらく郵便馬車ギルドの誰も読めなかっただろう。
”あなたの愛しのオルガが身につけていたものです、彼女にお返しください。”
「むずかしいですねコンラート様。ところで人員配置についてですが、帝国側に今夜も問題ないようですが、どうしましょうか?」
副官のシュワーは要塞の護りについての指示を仰いでいた。この時期、隣国は王国とは反対側にある中小国への侵略に集中しており、王国側へは「強固」な防衛体制をとってはいたが、今日明日に侵攻する気配はないようであった。いくら大陸でも有数の軍事力をもっているとはいえ、同時に別方向を大量の兵士と物資が必要になる進軍をする愚かなシャー皇帝ではないだろう。だからいつもの警戒態勢ということになった。
「それにしても、新婚だというのに奥方を王都においていて大丈夫ですか、コンラート様?」
シュワーが言いたいことはコンラートは分かっていた。「悪役令嬢」あらため「悪妻」のオルガは主人が不在なのを良いことに、独身時代に逢瀬を重ねていた殿方と会っているとでも思っているようだった。そんな噂は要塞内の兵士に蔓延していた。オルガの評判というのはそんなものだった。
「心配ないさ、妻は水上楼で我がノルトハイム家に相応しい行いをするように教育しているからな」
「へー、そうなんですか」
コンラートの要塞司令の当番は婚約前から決まっており、急遽オルガとの婚姻が決定したあとも変更されなかった。その理由はコンラートが変更しなかったためだ。あんな王女だったオルガと暮らすなんて嫌だったに他ならなかった。でも、いまは後悔していた。あの孤児出身の薬の行商人であったオルガの傍にいたかった。彼女の顔と仕草を見ているだけでよかった。
そんな想いに執務室の椅子の上で耽っていた時、シュワーの声が安息を引き裂いた。
「コンラート様、もうしわけないありませんが、郵便馬車が至急便を持ってきまして。それが不審なのです」
「不審って、爆薬か毒物でも持ってきたとでも言うのか?」
「いえ、送り主がホルスト男爵夫人カリンとなっていますが、おかしいじゃありませんか? なぜ殿下の別称を使うのですか?」
ホルスト男爵はノルトハイム家が保持している貴族位のひとつで、軍学校時代にコンラートが使っていたものだった。もし本家であるノルトハイム辺境伯を相続しなければ、正式に名乗った肩書だ。それを使って郵便馬車を雇うだなんて不審であった。
基本的に貴族階級もしくは王国政府しか使う事が出来ない至急扱いの郵便馬車が、届けてきた荷物は小さな木箱であった。送り状にはカリンとなっていて、差出地はシュバイクドルフとなっていた。どのような手段を用いたのかは不明であるが、確かに届けられてきた。
箱には見た事のある書体の筆記文字でこう書かれていた。その言葉は貴族の極一部しか知らない古の死語で書かれていた。おそらく郵便馬車ギルドの誰も読めなかっただろう。
”あなたの愛しのオルガが身につけていたものです、彼女にお返しください。”
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