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本編
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ローマから北、エルフの国『ノリクム』
薄暗い部屋の中に幾人か机を挟んで向かい合うように座っていた。彼らの外見はほぼ人間と変わらないしかし、明らかに耳がおかしい。人間にしては大きく、耳先は尖っていた、部屋にいるのは老若男女だが全員髪が女性の様に長い。
傍から見てもわかるほど彼らの顔は深刻そうだった。
「以上で報告を終わります...」
「なんという...」
その場にいた全員がそれぞれ顔を見合わせ手に持った紙を凝視している。
その時不意に一人の男性と思しき人物が席から立ち上がった。とても良い体格をしている。丸太の様な腕で無意識に机を叩いていた。
「でっち上げだろう!こんなもの!」
「しかし...」
「人間がたった一人で一万の兵を倒しただと?!それも一瞬で!」
「信じ難い事だが、この会議にあがったということは事実なのだろうな?」
全員の視線は先程自分達の前でこの報告をプレゼンテーションした人物に向かった。
全員がこちらを見ていることを悟った一人のエルフは首を縦に振っている。
「さらに信じ難いことだがこの報告にあがっている男、どうやら結界を越えて人間の城に侵入したようだな?」
「ええ」
「何故それを確認できた?」
「実はガリアの王の動きを《念写》しようとしたところたまたまその様な場面を目撃しまして...」
「そんな事はどうでも良いだろう!問題なのは...」
「どうやら表情を見てみると全員そちらに興味があるようじゃ」
「そうだなその人間が、俺達エルフの固有魔法《精霊魔法》を使ったという事が問題だ。」
その通りだと言わんばかりに全員が深く頷く。
「少し、宜しいですか?」
「どうした」
「確かに報告書には精霊魔法を使ったと書かれていますが、実は...その...」
「隠し事は無しにしてくれたまえ、もはや何を言われても驚かないよ。精霊を二体使ったとかか?」
「いえ...その呼び出した精霊ですが...どうやら...ハッキリと人型で出てきたらしいのです...」
「なにっ!!」
「それは一体どういうことだ!」
先程驚かないと言った男も発狂しそうになるのをこらえるように目を見開いていた。騒いで質問をしている男性に向かって隣から動揺していないクールな声が聞こえてくる。
「どういうことだじゃねーだろ。通常精霊魔法で呼び出す精霊ってのは力が弱すぎて傍から見た俺達にゃ光の玉が浮かんでる様にしか見えねぇ、それが一般的な精霊魔法ってもんだ。だがその男の呼び出した精霊はハッキリと人型で出てきやがった。そんな精霊魔法俺はひとつしか知らないね…いや、精霊魔法じゃないか。」
全員が何故そんなに落ち着いていられるんだという目で話す男を見つめる。
「その人間が使った魔法、《神精魔法》だな。エルフでも何千年に一人使える奴がいるかどうかのほぼ伝説に近いが、まさか同じ時代を生きる奴、それも人間ときたもんだ。」
「《神精魔法》、精霊のなかでも神に匹敵する存在を呼び出す魔法...なんという事じゃ...」
場が静まり返り部屋の中には全員が絶望した様な表情を作り出していた。
「つかぬ事を聞くが、その人間と我らエルフで戦った場合はどうなると思う?」
「良い勝負になってもこちらの負け、もしくはドローか。まあ、相手の使う神精によっては戦況が変わってくるじゃろう。神精の数にもよるのぅ。」
「バカが!そんなに複数も神精を操れる訳がないだろう!そんな奴がいたら精神を食い蝕まれるぞ。」
「例えじゃよ。わしもそんな奴いるはずないと知っとるわ、仮にもそいつは人間。精神の強さなどわしらエルフと比べればたかが知れておる。」
「もしかしたら...」
「む、どうかしたのか?」
「いや、その。気になることがあってな。」
「発言してみろ」
「ここではない別の国なんだがどうやらエルフと人間の間に子供が生まれたらしくてな。当然、法に則って処分しようとしたんだが子供はどこかにながれてしまって行方がわからんらしい。」
「それがどうかしたのか?」
「当時、その子供は六歳程だったはずだが、見た目は人間の親の血を濃く引いていたらしくてな。もしかしたら...」
「なるほど、その子供という線もあるな」
「確かにそのいわゆるハーフエルフ、だとすれば少なくともエルフの血を引いている訳だから精霊魔法も神精魔法も多少使えるかもしれんな。」
「いや、その逆という考えもある。」
「どういうことだ?」
「つまりハーフエルフだから神精魔法を使えるのかもしれないという意味だ。」
「なっ、なにを根拠に!」
「あくまでも想像に過ぎんがな。」
「いや、だが一理あるやもしれん。何千年に一度の才能だとしたらそれなりに力を宿した者には理由があるはずだ。ということは普通のエルフには出来ないという意味でもある。」
「今までとは違ったエルフ...か」
「しかし、どうやって確かめるのだ。」
「本音を言うとその人間を使って幾つか実験を行いたいところだ。」
「ならばその人間を捕縛するか?」
「愚か者!そんなことをしてしまっては人間の国に戦争を持ち込むようなものだろう!」
「しかし、相手は人間の国でもそれほど高くない地位のものなのだろう?隠密に行動すれば問題ないのでは?」
「だがよく考えてみろ、一万の兵を一瞬で潰した奴だ。そんな易々と捕まってくれるか?」
「もはやそんな悠長なことを申しておる場合ではないのじゃ、これからのエルフの未来もかかっておる。このハーフエルフのおかげでこれからのわしらの子孫から神精魔法を使う者が現れるかもしれん。子孫だけでなく、実験の進み用によってはわしらでも使用できるようになる事も夢ではない。」
「その通りだ。それに一万といってもたかが鍛えただけの魔法も使えない人間だ。我々エルフは人間と違って身体能力、魔法ほとんどにおいて人間に勝っている。人間一万とエルフ一万では天と地ほどの差だ。」
「その様な甘い考えを持つから人間の国では我々エルフは奴隷なぞにさせられるのだ!」
「蛮族に負けるような同族など、この国にはいらんわ!!」
「そこまでにしないか!この様な話し合いでは埒が明かん。正当な多数決という方法で決める。意見のある者は?」
「異存ない」
「「「同じく」」」
「では、このハーフエルフと思しき人物の捕縛に賛成の者は挙手をしてくれ」
2人の男のエルフを除いた5人のエルフが手を挙げた。
むぅ、という声が聞こえたが今更どうこう言うことはなく司会を担当していたエルフが話を続けた。
「では、ハーフエルフと思しき人物は捕縛、その後の扱いは陛下と我々『七星』で決める。以上で今回の会議は終了だ、会議の内容は後日陛下の耳にも入れ─」
その時、薄暗い部屋をバンという音と共に光が差し込んだ。
「会議中失礼致します!緊急事態につき、即お耳にお入れしたい事が...」
「どうした?」
「はっ、南口の門よりフェアリー、ゴブリン及びトロールの使者が参った次第でございます!」
「なんだと?」
「そ奴らは恐らく東の森の者達じゃな?」
「そうなのか?」
「はっ、そう申しております。」
「やはりな、東の森の一般的に現れるモンスター達じゃ。しかし何故来たんじゃ?」
「用を聞いたか?」
「いえ、ただ『七星』の方々との面会を要求しております。」
「我々にか...」
「どうする?相手がフェアリー、ゴブリン、トロールだけならば幾人来ようが我々だけで倒せるが?」
「危険、ではないのか?相手がもし、得体の知れないマジックアイテムを持っていたりしたら。」
「それに、要件を話さないところがどうもな。」
うーん、と頭を悩ませていると一人の男が口を開いた。
「別に良いのではないか?ここが敵の拠点ならば兎にも角、今は我らではなくそれは奴らの方だ。それに、我らにだけ要件を伝えるということは決して口外出来ぬ事という意味だろう。」
「そうだな。では代表の者だけ入室を許可しよう。」
数分後部屋に入ってきた影は三つひとつは、巨体で黄土色の肌を持ったトロールと呼ばれるモンスター、次に小柄で目付きが悪く緑の肌を持ったゴブリンと呼ばれるモンスター、そして最後にトロールが運んできた木から出てきた人型で羽が生え少し発光した身体を持つフェアリーと呼ばれるモンスター。彼らはモンスターの中でも少ない、知性のあるモンスターで、森で遭遇してしまった時などは機嫌が良ければ見逃したりもしてくれる。そして、エルフ程ではないが人間よりも優れた身体能力を有している。
最初に話を始めたのはフェアリーだった。フェアリーは口は一切動かさずに脳に直接言葉を流す種族だ、エルフ達の頭の中に可愛らしい声が聞こえた。
『七星の皆様ご機嫌。私達は、東の森の王の言葉を届けに来たものです。』
「森の王?」
『早速ですが本題に入らせて頂きます。今回私達、森の王の配下の者達及び東の森の王《フォレスト・ドラゴン》はエルフ国との協力を要請し、一人の人間の抹殺を行いたいとの事です。』
「協力?!」
「一人の人間を抹殺だと?!」
「なにを考えているのだ!たった一人の人間ならば我々エルフに協力を要請しなくともお前達ならばできるだろう?!それに、《フォレスト・ドラゴン》といえば三日で人間の国を二つも堕とした化け物ではないか!」
「お静かに!では、フェアリーよその人間の事を聞いて良いか?」
『名をユージンという、ただの冒険者だ。しかし、とても恐ろしい力を有している。』
「ん?ユージン...」
「冒険者だと?ふん、なるほど見えたぞつまりその冒険者がお前達の森を荒らすので殺して欲しいという願いだろう?ふざける──」
「──待て、ユージン...どこかで...」
「っ!報告にあがっていた人間ではないか!」
「あのハーフエルフか!」
『我らが主君の話を続けるぞ。その人間はお前達エルフの精霊魔法を使用したと判断した。我らが寛大なる主君は人間という下等な種族に《神精魔法》を渡したことお前達をお怒りだが今すぐにこのエルフの国を堕とすといったつもりは無い。』
「(まあ、怒るのは当たり前だろうな。エルフの兵器を人間に渡したようなものだ。)」
「つまり、自分達の落とし前は自分達でという事か...」
「待ってくれ、あれは我々の身内の者ではない。我々もその者について先程議題し、捕縛という形をとろうとしていたのだ。」
フェアリーは横に並ぶトロールに視線を送った。それに気付いたトロールは手に持っていた水晶の様なものを床に置いた。
エルフ達はすぐにそれがマジックアイテムとわかり少し距離を置いた。普通なら近くにいる兵を使って取り押さえていたところだが彼らの後ろに伝説のドラゴンがいるとなると話は別だ。
『安心しろ、これは通信用のマジックアイテムだ。』
エルフ達の表情を見て悟ったのか少々早口でそう言った。
水晶を見ていると空中にノイズの様なものが出てしばらくするとハッキリとした物に変わっていた。映し出されたのはドラゴン、鱗には所々コケが生え、口に長い白い髭を蓄え、金の角には黄金の冠を吊るし、目は細く全てを見透すかの様だった。
『何事か、フェアリーよ』
『主君、この者達は主君の仰られていた人間とは無縁と申しております。』
『ふむ、エルフ説明してみよ』
一人のエルフが前へ出てこれまでの報告にあったこと、エルフ達が出した結論を説明した。
『つまり、あれはハーフエルフなのか?』
「と、我々は見解している。」
『......良かろうお前達エルフの決定に同意してそのハーフエルフの捕縛に協力してやろう。』
「それはありがたい。」
『ただし、わかったことはすぐに知らせる事だ。お互いの信頼関係を築く為でもな。』
「了解した。わかったことは一字一句漏らさず伝えよう。それで東の森の王よ」
『我が名はエデンだ。』
「エデンよ。何故、何処でこの情報を得たのだ?」
『ドラゴンの目は全てを見透す目である。人間どもがくだらん戦争というものを起こすと聞いてな、しばらく見ておったのだ。』
「なるほど、では我々にはない情報を持っているのではないか?あれば提供して欲しいのだが?」
『良いだろう。だが、ひとつだけだ。それ以外はお前達の知っているものと同じだ。』
「構わない、むしろ我々の知らない事を知っているとは流石ドラゴンと言うだけのことはある。」
『そのハーフエルフの神精だが、《スタンド》と呼ばれていた。』
「《スタンド》聞いたことがないな。我々の国の伝記にもその様な事は記されていないハズだが、恐らくその神精の名ではないか?」
『判断できぬところだ。』
「だろうな...」
『話は以上か?』
「ああ、すまなかったな。」
ドラゴンの姿が消え、魔力を発しなくなった水晶をトロールが再び手で持ち上げる。
『話は以上だ。私達は森へ帰還する。』
そう言って部屋を出ていき、部屋にまた薄暗さが戻ってきた。
薄暗い部屋の中に幾人か机を挟んで向かい合うように座っていた。彼らの外見はほぼ人間と変わらないしかし、明らかに耳がおかしい。人間にしては大きく、耳先は尖っていた、部屋にいるのは老若男女だが全員髪が女性の様に長い。
傍から見てもわかるほど彼らの顔は深刻そうだった。
「以上で報告を終わります...」
「なんという...」
その場にいた全員がそれぞれ顔を見合わせ手に持った紙を凝視している。
その時不意に一人の男性と思しき人物が席から立ち上がった。とても良い体格をしている。丸太の様な腕で無意識に机を叩いていた。
「でっち上げだろう!こんなもの!」
「しかし...」
「人間がたった一人で一万の兵を倒しただと?!それも一瞬で!」
「信じ難い事だが、この会議にあがったということは事実なのだろうな?」
全員の視線は先程自分達の前でこの報告をプレゼンテーションした人物に向かった。
全員がこちらを見ていることを悟った一人のエルフは首を縦に振っている。
「さらに信じ難いことだがこの報告にあがっている男、どうやら結界を越えて人間の城に侵入したようだな?」
「ええ」
「何故それを確認できた?」
「実はガリアの王の動きを《念写》しようとしたところたまたまその様な場面を目撃しまして...」
「そんな事はどうでも良いだろう!問題なのは...」
「どうやら表情を見てみると全員そちらに興味があるようじゃ」
「そうだなその人間が、俺達エルフの固有魔法《精霊魔法》を使ったという事が問題だ。」
その通りだと言わんばかりに全員が深く頷く。
「少し、宜しいですか?」
「どうした」
「確かに報告書には精霊魔法を使ったと書かれていますが、実は...その...」
「隠し事は無しにしてくれたまえ、もはや何を言われても驚かないよ。精霊を二体使ったとかか?」
「いえ...その呼び出した精霊ですが...どうやら...ハッキリと人型で出てきたらしいのです...」
「なにっ!!」
「それは一体どういうことだ!」
先程驚かないと言った男も発狂しそうになるのをこらえるように目を見開いていた。騒いで質問をしている男性に向かって隣から動揺していないクールな声が聞こえてくる。
「どういうことだじゃねーだろ。通常精霊魔法で呼び出す精霊ってのは力が弱すぎて傍から見た俺達にゃ光の玉が浮かんでる様にしか見えねぇ、それが一般的な精霊魔法ってもんだ。だがその男の呼び出した精霊はハッキリと人型で出てきやがった。そんな精霊魔法俺はひとつしか知らないね…いや、精霊魔法じゃないか。」
全員が何故そんなに落ち着いていられるんだという目で話す男を見つめる。
「その人間が使った魔法、《神精魔法》だな。エルフでも何千年に一人使える奴がいるかどうかのほぼ伝説に近いが、まさか同じ時代を生きる奴、それも人間ときたもんだ。」
「《神精魔法》、精霊のなかでも神に匹敵する存在を呼び出す魔法...なんという事じゃ...」
場が静まり返り部屋の中には全員が絶望した様な表情を作り出していた。
「つかぬ事を聞くが、その人間と我らエルフで戦った場合はどうなると思う?」
「良い勝負になってもこちらの負け、もしくはドローか。まあ、相手の使う神精によっては戦況が変わってくるじゃろう。神精の数にもよるのぅ。」
「バカが!そんなに複数も神精を操れる訳がないだろう!そんな奴がいたら精神を食い蝕まれるぞ。」
「例えじゃよ。わしもそんな奴いるはずないと知っとるわ、仮にもそいつは人間。精神の強さなどわしらエルフと比べればたかが知れておる。」
「もしかしたら...」
「む、どうかしたのか?」
「いや、その。気になることがあってな。」
「発言してみろ」
「ここではない別の国なんだがどうやらエルフと人間の間に子供が生まれたらしくてな。当然、法に則って処分しようとしたんだが子供はどこかにながれてしまって行方がわからんらしい。」
「それがどうかしたのか?」
「当時、その子供は六歳程だったはずだが、見た目は人間の親の血を濃く引いていたらしくてな。もしかしたら...」
「なるほど、その子供という線もあるな」
「確かにそのいわゆるハーフエルフ、だとすれば少なくともエルフの血を引いている訳だから精霊魔法も神精魔法も多少使えるかもしれんな。」
「いや、その逆という考えもある。」
「どういうことだ?」
「つまりハーフエルフだから神精魔法を使えるのかもしれないという意味だ。」
「なっ、なにを根拠に!」
「あくまでも想像に過ぎんがな。」
「いや、だが一理あるやもしれん。何千年に一度の才能だとしたらそれなりに力を宿した者には理由があるはずだ。ということは普通のエルフには出来ないという意味でもある。」
「今までとは違ったエルフ...か」
「しかし、どうやって確かめるのだ。」
「本音を言うとその人間を使って幾つか実験を行いたいところだ。」
「ならばその人間を捕縛するか?」
「愚か者!そんなことをしてしまっては人間の国に戦争を持ち込むようなものだろう!」
「しかし、相手は人間の国でもそれほど高くない地位のものなのだろう?隠密に行動すれば問題ないのでは?」
「だがよく考えてみろ、一万の兵を一瞬で潰した奴だ。そんな易々と捕まってくれるか?」
「もはやそんな悠長なことを申しておる場合ではないのじゃ、これからのエルフの未来もかかっておる。このハーフエルフのおかげでこれからのわしらの子孫から神精魔法を使う者が現れるかもしれん。子孫だけでなく、実験の進み用によってはわしらでも使用できるようになる事も夢ではない。」
「その通りだ。それに一万といってもたかが鍛えただけの魔法も使えない人間だ。我々エルフは人間と違って身体能力、魔法ほとんどにおいて人間に勝っている。人間一万とエルフ一万では天と地ほどの差だ。」
「その様な甘い考えを持つから人間の国では我々エルフは奴隷なぞにさせられるのだ!」
「蛮族に負けるような同族など、この国にはいらんわ!!」
「そこまでにしないか!この様な話し合いでは埒が明かん。正当な多数決という方法で決める。意見のある者は?」
「異存ない」
「「「同じく」」」
「では、このハーフエルフと思しき人物の捕縛に賛成の者は挙手をしてくれ」
2人の男のエルフを除いた5人のエルフが手を挙げた。
むぅ、という声が聞こえたが今更どうこう言うことはなく司会を担当していたエルフが話を続けた。
「では、ハーフエルフと思しき人物は捕縛、その後の扱いは陛下と我々『七星』で決める。以上で今回の会議は終了だ、会議の内容は後日陛下の耳にも入れ─」
その時、薄暗い部屋をバンという音と共に光が差し込んだ。
「会議中失礼致します!緊急事態につき、即お耳にお入れしたい事が...」
「どうした?」
「はっ、南口の門よりフェアリー、ゴブリン及びトロールの使者が参った次第でございます!」
「なんだと?」
「そ奴らは恐らく東の森の者達じゃな?」
「そうなのか?」
「はっ、そう申しております。」
「やはりな、東の森の一般的に現れるモンスター達じゃ。しかし何故来たんじゃ?」
「用を聞いたか?」
「いえ、ただ『七星』の方々との面会を要求しております。」
「我々にか...」
「どうする?相手がフェアリー、ゴブリン、トロールだけならば幾人来ようが我々だけで倒せるが?」
「危険、ではないのか?相手がもし、得体の知れないマジックアイテムを持っていたりしたら。」
「それに、要件を話さないところがどうもな。」
うーん、と頭を悩ませていると一人の男が口を開いた。
「別に良いのではないか?ここが敵の拠点ならば兎にも角、今は我らではなくそれは奴らの方だ。それに、我らにだけ要件を伝えるということは決して口外出来ぬ事という意味だろう。」
「そうだな。では代表の者だけ入室を許可しよう。」
数分後部屋に入ってきた影は三つひとつは、巨体で黄土色の肌を持ったトロールと呼ばれるモンスター、次に小柄で目付きが悪く緑の肌を持ったゴブリンと呼ばれるモンスター、そして最後にトロールが運んできた木から出てきた人型で羽が生え少し発光した身体を持つフェアリーと呼ばれるモンスター。彼らはモンスターの中でも少ない、知性のあるモンスターで、森で遭遇してしまった時などは機嫌が良ければ見逃したりもしてくれる。そして、エルフ程ではないが人間よりも優れた身体能力を有している。
最初に話を始めたのはフェアリーだった。フェアリーは口は一切動かさずに脳に直接言葉を流す種族だ、エルフ達の頭の中に可愛らしい声が聞こえた。
『七星の皆様ご機嫌。私達は、東の森の王の言葉を届けに来たものです。』
「森の王?」
『早速ですが本題に入らせて頂きます。今回私達、森の王の配下の者達及び東の森の王《フォレスト・ドラゴン》はエルフ国との協力を要請し、一人の人間の抹殺を行いたいとの事です。』
「協力?!」
「一人の人間を抹殺だと?!」
「なにを考えているのだ!たった一人の人間ならば我々エルフに協力を要請しなくともお前達ならばできるだろう?!それに、《フォレスト・ドラゴン》といえば三日で人間の国を二つも堕とした化け物ではないか!」
「お静かに!では、フェアリーよその人間の事を聞いて良いか?」
『名をユージンという、ただの冒険者だ。しかし、とても恐ろしい力を有している。』
「ん?ユージン...」
「冒険者だと?ふん、なるほど見えたぞつまりその冒険者がお前達の森を荒らすので殺して欲しいという願いだろう?ふざける──」
「──待て、ユージン...どこかで...」
「っ!報告にあがっていた人間ではないか!」
「あのハーフエルフか!」
『我らが主君の話を続けるぞ。その人間はお前達エルフの精霊魔法を使用したと判断した。我らが寛大なる主君は人間という下等な種族に《神精魔法》を渡したことお前達をお怒りだが今すぐにこのエルフの国を堕とすといったつもりは無い。』
「(まあ、怒るのは当たり前だろうな。エルフの兵器を人間に渡したようなものだ。)」
「つまり、自分達の落とし前は自分達でという事か...」
「待ってくれ、あれは我々の身内の者ではない。我々もその者について先程議題し、捕縛という形をとろうとしていたのだ。」
フェアリーは横に並ぶトロールに視線を送った。それに気付いたトロールは手に持っていた水晶の様なものを床に置いた。
エルフ達はすぐにそれがマジックアイテムとわかり少し距離を置いた。普通なら近くにいる兵を使って取り押さえていたところだが彼らの後ろに伝説のドラゴンがいるとなると話は別だ。
『安心しろ、これは通信用のマジックアイテムだ。』
エルフ達の表情を見て悟ったのか少々早口でそう言った。
水晶を見ていると空中にノイズの様なものが出てしばらくするとハッキリとした物に変わっていた。映し出されたのはドラゴン、鱗には所々コケが生え、口に長い白い髭を蓄え、金の角には黄金の冠を吊るし、目は細く全てを見透すかの様だった。
『何事か、フェアリーよ』
『主君、この者達は主君の仰られていた人間とは無縁と申しております。』
『ふむ、エルフ説明してみよ』
一人のエルフが前へ出てこれまでの報告にあったこと、エルフ達が出した結論を説明した。
『つまり、あれはハーフエルフなのか?』
「と、我々は見解している。」
『......良かろうお前達エルフの決定に同意してそのハーフエルフの捕縛に協力してやろう。』
「それはありがたい。」
『ただし、わかったことはすぐに知らせる事だ。お互いの信頼関係を築く為でもな。』
「了解した。わかったことは一字一句漏らさず伝えよう。それで東の森の王よ」
『我が名はエデンだ。』
「エデンよ。何故、何処でこの情報を得たのだ?」
『ドラゴンの目は全てを見透す目である。人間どもがくだらん戦争というものを起こすと聞いてな、しばらく見ておったのだ。』
「なるほど、では我々にはない情報を持っているのではないか?あれば提供して欲しいのだが?」
『良いだろう。だが、ひとつだけだ。それ以外はお前達の知っているものと同じだ。』
「構わない、むしろ我々の知らない事を知っているとは流石ドラゴンと言うだけのことはある。」
『そのハーフエルフの神精だが、《スタンド》と呼ばれていた。』
「《スタンド》聞いたことがないな。我々の国の伝記にもその様な事は記されていないハズだが、恐らくその神精の名ではないか?」
『判断できぬところだ。』
「だろうな...」
『話は以上か?』
「ああ、すまなかったな。」
ドラゴンの姿が消え、魔力を発しなくなった水晶をトロールが再び手で持ち上げる。
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