異世界の救世主になろう!~主役はやっぱり勇者だ~

☆ウパ☆

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本編

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「(ど、どういう事だ...)」

ユージンがジーニスの座っている席に戻りその後ろに立っている人物達を見て驚いた。
それはユージンにはとても馴染みのある顔だったからだ。

「おや、戻ったかね、ユリスよ。」
「ジーニス様、その後ろの方々は?」
「ああ、こいつらは私のメイドだ。」

改めて顔を見たが間違いなく、ドルレインを始めとしたロウデンタークにいるはずのメイド達だった。

「おい、ドルレイン。」
「はい、なんで御座いましょう?」
「少々席を外せ、私は彼女と話がある。」
「かしこまりました。」

メイド達は潔く聞き入れ一礼すると歩き出した。

「あの、大丈夫ですよ?彼女達がいても。」
「しかし...」
「それに、彼女達からジーニス様の印象をお聞かせ願いたいですわ。」
「ふむ、そうか。では、私も少々他の貴族達と話そうと思っていたところだ。好きに話していて良いぞ。」
「感謝します。」

そう言ってジーニスは立ち上がってユージン達の席から離れていく、話し相手を見つけると酒を片手に、話をしながら次の貴族の元へ歩いていった。
ふと、ドルレインの顔を見る、彼女もこちらの視線に気がついたらしく、互いに苦笑いを見せた。

「あの、ドルレインさん?ジーニス様の事をお伺いしても?」
「はい、実は主様は訳あってつい先日まで旅をなさっていたのですが、急に御自身の領地にお戻りになられまして、理由を聞きますと旅の途中で魔王軍に襲われ仲間をお失いになられ、元々あのご容姿ではなかったのですがあの様なお姿になられて...名前も魔王軍に自分と悟られぬ様に改名されて...」
「(えっーと、うまーく騙されてるようですね、はい。)」

すると今度はその隣に立っていた茶髪のツインテールの少女が前へ出てユージンの顔をまじまじと見て口を開いた。
ユージンは自分の記憶のそこから彼女の名前を捻り出す。

「(確か、ベルという名前の...)」
「ユリス様、ご主人様は今とても心を痛めておられます、どうかご主人様のお願いをお聞きしては貰えませんでしょうか...」

ユージンが困ったかおをしていると、黒髪の眼鏡を掛けた美女がその少女を怒鳴る。

「こら!ベル!申し訳ございません、ユリス様!」
「あ、あの、気にしないで下さ...」
「私からも是非お願いします...」
「私からもお願いします...」
「アリス、マルまで!」
「私どもに出来ることでしたらなんでもします...」
「どうしてそこまでなさるのです?」
「ご主人様はお戻りになられてから御自身でお身体を傷つけるような事をしていて、もう見ていられないんです...」

周りのメイド達も嗚咽するようにすすり泣く者まで出始め、唯一冷静だったドルレインも何を思ったのか口元を手で強く抑え涙を堪えるポーズをとっている。
しかし、それを見ていたユージンは。

「(いや、そろそろ気付いても良くね?それ、明らかに俺じゃないって分かるよね?おバカなのかしら?)」
「お願いします、ユリス様。私どもではご主人様を幸せになど出来ません...」
「えーーー、その、本当になんでもして貰えるんですよね?」
「はい!私どもに出来ることでしたらなんでもやらせて頂きます!!」
「では演技は得意ですか?」
「演技ですか?」
「これから話す事はジーニス様には内緒でお願いします。」
「わ、わかりました。」

彼女達が了解の意をするのを見て、首に下げていたペンダントへ手を伸ばして剣の部分に触れる。

「カエサル、声戻して。」
『良いんですか?』

何処からともなく何者かの声がするのを聞いてメイド達は少々驚いた顔を見せた。

「今だけ、ただ周囲に気を配るのと、ジーニスが戻って来たら声の方も戻してくれ。」
『了解です。』

そして、ユージンは少し咳払いして自分の声が端麗な可愛らしい少々の者から元の声に戻るのを確認して彼女達達へ向き直った。

「はい、という訳で私が本物のブラウスでした。」

いきなり過ぎたか、と感じたユージンは恐る恐る彼女達の表情を伺う。最初意味がわからなかった様子だったが聴き馴染みのある声を聞いた彼女達の表情は驚きのものへと変わっていった。全員口々に驚きの声を上げる、疑惑の声も上がっていたが何度も聞いた自分の主人の声に聞き間違いはないという自信から驚きの声が絶えない。

「えぇ!では、あの主様は?!」
「偽物だね」
「本当にご主人様ですか...」
「どしたの、ベルちゃん。」
「本物だ...声を聞けば分かる。」
「でも、そのお召し物は一体?」
「え、あ、ああ、これはその...」

ユージンは今までの経緯を彼女達に大雑把に説明した。

「成程、理解しました。」
「しかし、あの豚野郎、ブラウス様の名前を借りて私達を騙そうだなんて万死に値するわよ!」
「だから僕、ブラウスじゃなくてユージンだからね...」
「全くね、まあ初めから私はわかっていたけれどそれでも許せないわ!」
「思いっきり騙されてましたよね...」
「ブラウス様を語るなど、人間風情が」
「あなたも私も人間ですよ...」
「では、いかが致しますか主様?私どもが承認になればあの愚かな男の嘘など直ぐにわかりますが?」
「とりあえず今は俺の正体はバラしたくない。君達には悪いけどそのまま騙された振りをしていてくれ。頼む」
「あの、男に従うのですか...私どもの忠義はブラウス様だけのものですのに。」
「頼むよ、ベル。俺のためだと思ってさ。」
「むぅぅ...」
「ブラウス様...」

それでも聞きそうにないベルの様子を見たドルレインはユージンの耳元に囁き声で何かを告げた。それに驚く様にユージンがドルレインの顔を見上げる。

「そんなんでいいの?」
「はい。」

ドルレインはにこっと笑顔を見せた。
ユージンは未だ不満そうな顔をしているベルと横に並んでいる幾人かのメイド達の顔を見て咳払いした。

「一番演技が上手かった娘には、俺の忠義が一番厚いと見なしてささやかながら俺が...頭、頭を...な、なでなでします...」

少し、いやかなり恥ずかしい事だ、本当にこんな事で、というより自分なんかが頭を撫でると言ってやる気になってくれるものかと内心とても心配していた。
しかし、ユージンの心配を裏切って彼女達の瞳はやる気に満ちた物へと変わっていった。

「やらせて頂きます!」
「速い!」
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