異世界の救世主になろう!~主役はやっぱり勇者だ~

☆ウパ☆

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本編

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「いやぁ、笑った笑った。」

未だに笑顔を浮かべながらユージンに先程までの会話を説明してくる。
余程機嫌が良いのかユージンが軽く受け流しても全く気にする素振りはない、それともその素振りにも気が付いていないのだろうか。

「まあ、男爵様とジーニス様のお話は飽きませんわ。もっと何を話していたのかお教え下さいませ。」
「とても面白い方だったのだぞ男爵殿は。先程私が料理を取りに行った時もな──」

永遠に続くと思われた会話はネタを無くしたのか未だに微笑してはいるが会話はそこで終わった。

「それよりユリスよ。私との縁談の件は如何なものか?」
「わたくし男性とのそういった経験はありませんの...」
「で、あれば私が初めてと言う事か?」

まだ返事をしてないだろ、と内心呆れるが、勿論顔には出さない。小さな事で作戦が失敗すればたまったものではないと重々承知だからだ。

「ジーニス様にはあの様なお美しい方々もおられるのでは?」

この会場に入る際に隣に並んで歩いてきた美女二人に目線を向け、ジーニスの顔を再度見る。

「あの様な娘など直ぐに捨てる。」
「捨てる、とは?」
「言葉の通りだ、薄汚くなった者から闇市へ放るのだ、勿論そなたは特別だ。」
「(はい、馬鹿~)」

口説こうとしている女の前でこんな事を言われては口説けるものも出来なくなるというものだ。最後に付け加える様に言われたとしても信用出来るはずがない、男であるユージンにもそれは理解できる。

「(どこまで腐ってんだこいつは。)」

もし、ジーニスが心を読めていてこんな事を思われていると知ったら何をするのか、手に取る様にわかった。
短い時間だったがこのジーニスという男がどんな男かは良くわかった。

「光栄なお話深く感謝申し上げます。少々考えさせて頂きますわ。」
「考える時間など必要ないだろう、このジーニス、勇者の妃になれるのだぞ、未来は約束されたも同然。」

人の肩書きでどうしてここまで大きく出られるんだ、とどこまでも真っ直ぐなジーニスを前にもしかしたら自分が間違っているのかもと錯覚しそうになってしまう。
返事に迷っていると不意に会場が騒がしくなった。何事かと辺りを見渡すとジーニスが会場に入ってきた時と同様に扉に視線が集まっている。
扉の前にびしっと決めた服装をした白髪の男性が立ち、これから入室してくる人物の名前を告げる。

「四代目ローマ皇帝ネロ・クラディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクス様がお着きになられました。」

それを聞き、先程まで胸を張って偽りの自分の身分の話をしていたジーニスが焦り始めたのが伝わってきた。

「いっ!?ローマ皇帝って、本物?!」
「どうか、なさいましたか?」
「い、いや、なんでもない。」

明らかに焦っている、ユージンはそう確信した、理由は勇者とローマ皇帝が知人という話が彼の耳にも入っているからだろうと推測できた。
ジーニスの顔を見ると額には汗を滲ませ、先程まで意気揚々と話をしていた男性とは思えなかった。
しかし、ここでユージンは更に追い討ちを掛けようと考えた。

「ジーニス様?わたくしローマ皇帝様とお話がしたいですわ。御二方はお知り合いとお聞きしたのですけれど、差し支えなければ是非、お願い致します。」
「あ、あぁそう、だな...」

ここで無理に断れば間違いなく怪しまれると思ったのだろう。汗は拭っていたが後からどんどん滝の様に流れていた。
しばらくして扉から見慣れた、いや最近は見ていなかったがネロの顔が見えた。

「あー、あ!いたたた!ちょっと腹痛が...すまないが私は手洗いに行ってくる。」
「大丈夫ですか?」
「心配はいらないよ。」

仮病だからそりゃな、とユージンは心の中で付け加えた。余りにオーバーだったので一瞬驚いてしまったが、良くそこまでやるものだと半分感心してしまう。

「(さっさと偽物だって言えば良いのに。)」

何が彼をそこまでさせるのかとしばらく手洗いへ向かうその背中を見つめていたが独りきりにする事も出来ないので一応後を追う。

「《メッセージ》──じいさん?俺だけど会場を少し離れるから中を警戒頼むわ。」
『おう、ユージンか。了解じゃ、助っ人を呼んだから心配ないぞ。』

助っ人?誰だろうと思いハンセンに問おうとしたが先にメッセージを切られてしまった。メッセージは掛けるのも切るのも自由な魔法なのでどちらかが充分と判断すると自動的に切られてしまう。
助っ人の正体がわからなかったのは少し気になったが来るとすればガディ達だろうと思い気にはしなかった。
すれ違う貴族達と肩を掠めながら一定の距離をとってジーニスを見失わない様に尾行する。

「おっと失礼。大丈夫ですか?」

気を付けながらすり抜ける様に歩いてきた気になっていたが前からフッと男性が飛び出してきた。ハイヒールなど普段から履く機会がないのでバランスがとれず尻もちをついてしまった。
こういう事もあるだろうと特に気にしない様にしたが彼の違和感に気付いてしまった。
ぶつかった瞬間、身体からフワッと花の良い香りがしたからだ。一瞬でその香りの正体に行き着く。

「香...水?」

それに男性にしては高い声をわざと低くしているような声。貴族というのはユージンの今までの常識を毎回覆してくれる。
ぶつかった人物を見ようとユージンが顔を上げるより早くユージンの前に手のひらを天井に向けたまま前に突き出された。

「立てますか?」
「あ、ありがとうございます。わたくしったら何をしてるんだか...っ!!」

顔を確認して驚いたのはその人物がユージンの良く知る人物だったから、ユージンはしばらく、久しぶりに幼馴染みにあったような気分に浸った。

「マ...リア...さん?何してるの?」
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