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「あぁ、降ってきた! 七瀬、タオル!」
 全身をしっとり濡らした丈士は、マンションへ飛び込んだ。
 すぐに七瀬がタオルを持ってくると思っていたのに、その気配が無い。
「おーい。七瀬!」
 返事も、無い。
「何だよ、役立たずだな」
 ぶつぶつ文句を言いながら、丈士は濡れたまま部屋へ上がった。
 しかし一瞬にして、その文句は途切れた。
 リビングに、七瀬が倒れているのだ。

「七瀬? おい、七瀬!?」
 抱き起してみたが、ぐったりとして力が無い。
「どうしたんだ、しっかりしろ!」
 丈士の必死の呼びかけに、七瀬の瞼がぴくりと動いた。
「丈士、さん?」
「七瀬、救急車呼んでやるから。死ぬなよ!」
 だが七瀬は丈士の手を取ってゆるく握ると、細い声で言った。
「マスターのところ、連れてって」
「マスター?」
「初めて、丈士さんと、会った、ところ……」

 丈士は、常連のバー『マノス』のマスターを思い浮かべた。
 あの人は、医者じゃない。
「七瀬、一体何を言って……」
「お願い」
 そこまで頼まれては、丈士は七瀬に従うしかなかった。
 どんどん冷たくなっていく彼の体に焦りながら、自動車を走らせた。

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