53 / 67
5
しおりを挟む「あぁ、降ってきた! 七瀬、タオル!」
全身をしっとり濡らした丈士は、マンションへ飛び込んだ。
すぐに七瀬がタオルを持ってくると思っていたのに、その気配が無い。
「おーい。七瀬!」
返事も、無い。
「何だよ、役立たずだな」
ぶつぶつ文句を言いながら、丈士は濡れたまま部屋へ上がった。
しかし一瞬にして、その文句は途切れた。
リビングに、七瀬が倒れているのだ。
「七瀬? おい、七瀬!?」
抱き起してみたが、ぐったりとして力が無い。
「どうしたんだ、しっかりしろ!」
丈士の必死の呼びかけに、七瀬の瞼がぴくりと動いた。
「丈士、さん?」
「七瀬、救急車呼んでやるから。死ぬなよ!」
だが七瀬は丈士の手を取ってゆるく握ると、細い声で言った。
「マスターのところ、連れてって」
「マスター?」
「初めて、丈士さんと、会った、ところ……」
丈士は、常連のバー『マノス』のマスターを思い浮かべた。
あの人は、医者じゃない。
「七瀬、一体何を言って……」
「お願い」
そこまで頼まれては、丈士は七瀬に従うしかなかった。
どんどん冷たくなっていく彼の体に焦りながら、自動車を走らせた。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる