転職したら小人旅館のスイーツ班!?

ユーリ

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旅立ち

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思い立ったが吉日。
カレンはカフェを出るとすぐに、滞在予定だった宿へ向かった。
荷解きせずに置いたままだった荷物を持ち、宿泊キャンセルを伝えて宿を後にする。
端末を取り出し、最初の目的地を決めようと操作を始めると、急にディスプレイが出現し、フレンドボタンが光り始めた。
この端末はギルドへ登録すると配布されるもので、条件を満たすことで返却不要になる。
冒険者には欠かせないアイテムであり、様々な機能がある。

フレンドを確認すると、ナギとタクミからの通話ボタンが点滅していた。あまり利用した事はないが、グループ通話のようだ

「はーい。2人ともどうしたの?」

4人と別れてからそこそこに時間は経っていた。
おそらく、それぞれのパートナーとは一緒にいるだろうが。

「ごめんね急に。今どうしてるかなって。ちょっと聞きたいこともあるし」
「予想はしてたみたいだけど、急に1人にしちまったからな。ナギが心配してるからうるさくて」
「ちょっとタクミ!」
「あれ?今2人でいるの?」
「「あ」」

2人の会話を聞いて既に別行動になってるはず、と声をかけると、少し焦ったように会話が止まる

「あーえっと…。ごめんこれだけは話してなかったんだけど、私達特殊スキル持ちなんだ」
「えっそうだったの!?」

特殊スキルは、限られた冒険者のみに与えられたスキルの総称だ。
タンクやアーチャー等の職業や、製作図を使用して得たスキルとはまた別のモノ。
ただし特殊と言われているだけで条件は広く知れ渡っている。
なにか特別な事をしないといけないという訳では無い。条件はたった1つだ。

「じゃあ2人は異世界からの来訪者だったんだね!」
「うん、実はそうなんだ。あ、もちろんエドには最初に伝えたよ。ルルちゃんには話してないけど」
「ああ、うん。大丈夫、ちゃんと話すよ」

異世界からの来訪者。文字通り、別の世界からやってきた者をそう呼ぶ。
何かの拍子にこちらの世界へ迷い込んでしまう者が少なからずいる。タクミとナギもその様だ。
最初は戸惑う者も多いと聞く。見知らぬ世界に迷い込んだのだからどうせだろう。
来訪者は世界各地、色々な国に迷い出るが、冒険者が保護してギルドに届けるのが通例となっている。カレン達も数回保護して来た。思い起こせば、その時2人はかなり親身に接していた。
彼らは総じて冒険者へとなっている。いや、ならざるを得ないとも言うが…。
そして迷い込んだ時に与えられるのが特殊スキル。見知らぬ世界で過ごせるようになるための措置に与えられるのではないかとの意見が多いが、真相は誰も知らない。

「ねね、カレンちゃんは違うの?」
「へ?」

ナギからの言葉に、変な声が出そうになって慌てて口を抑える
その後も戸惑いながら口を噤んでいると、タクミが会話に入ってきた

「悪い、カレン。俺も気になってたんだ。時々日本のことわざっぽいの使ってる事あったから」
「にほん…」
「あれ、違った?日本って、私達がいた国なんだけど…」
「あ、ううん。違うんだけど、そうじゃないと言うか…」
「「?」」

通話先から、よく分からないという空気が伝わってくる。
数秒のちんもくをやぶって、カレンが話し始める

「えっ、とね。にほんは、私のお父さんがいた国だよ」
「そうなの!?じゃあカレンパパも元冒険者なんだね!」
「パパって…。まぁ、そう言う事」

仲間だった2人にこの事を話すのは初めてだった。
お互い出自を聞かないのが暗黙の了解だったからだ。まぁ、タブーだった訳では無い。ただタイミングを逃して聞けずじまいだっただけだ

「でも、結構多いみたいだな。こっちで相手見つけてって。ま、戻る方法が分からないからしょうがないけどさ」

来訪者が冒険者になるのは戻る方法を探す為の者が多い。
けれど結局見つけられず、こちらで出会った相手と一緒になるパターンがほとんどだった。
そしてその間に子供が生まれると、その子にも特殊スキルが与えられる。冒険者になるかは本人の自由にさせているそうだ。
カレンはタクミの言葉を聞いてひとつ、思い出した事を問いかけることにした

「あ、ねえねえ。ことわざってもしかして「時は金なり」みたいなの?」
「そうだけど…また面白いチョイスだな…」
「もしかしてことわざ、カレンパパに教わったの?」
「ううん。お母さん」
「え!?カレンママも日本人なの!?でも、だって」

ナギが少し混乱してるのか、意味のなさない言葉を発している。それに呆れたらしいタクミが短く溜息をつくと、少しだけ沈黙が訪れる。
すると突然、目の前にディスプレイが現れた。どちらか(おそらくナギ)が、対面通話に切り替えたのだろう。
カレンから見て右側にナギ、左側にタクミの顔が映る。
けれどどちらも話そうとはせず、ナギに至ってはこちらを凝視している。

「んーー。ダメ分からない」
「な、なにが?」
「カレンママがどこの国の人か。結構知ってるつもりだったのに」
「あー、お母さんは、お父さん曰く自称日本人だって」

ナギの言いたい事が何となくわかり、過去に聞いた事を思い出しながら説明する。
あまり詳しくは聞いていないから、それでナギが納得するかは別だ

「日本の事が好きで、色々勉強してたみたい。だからか、お父さんも知らないことわざも色々教えてくれたよ。ただ、なんて国の出身かは、お父さんも教えてもらってないんだって。あ、ちなみに、2人はこっち来てから出会ったみたいだよ」
「なるほどねー。じゃあカレンちゃんはこの世界で生まれた、地球人て事になるね。あ、じゃあやっぱり特殊スキル持ちなの?」
「え?ううん。私は持ってない。あれ?そう言えば何でだろう」

特殊スキルの存在は元々知っていた。もう忘れてしまったが、両親も何かしら持っていたはずだった。
思い出そうとしてもなかなか思い出せず、けれど幼い頃に、両親に何か大切な事を言われたのを思い出した。しかしやはり、何を言われたのかまでは思い出せない。
カレンが黙り込んでしまい、再び沈黙が訪れる。

「あ!そうそう。別の事で話し込んじゃったけど、聞きたいことは別にあったんだった!」

少しして、地雷でも踏んだのかと焦ったナギが喋り出す。
思考の波に飲まれそうだったカレンも戻ってくる。

「え、なあに?」
「カレンちゃん、これからどうするのかなって。やりたいこと、見つかってないんだしょ?」
「あー、うん。実はそうなんだ。だから…」

解散する時に、ナギやルルが気遣わしげにこちらを見ていたことには気づいていた。
製作図を交換する時、カレンからの要求はいつもなかった。同じ物を入手したり、メンバーの誰も求めていない製作図を最後に引き受けていたのはカレンで、それらは今なお、カレンが所持し続けていた。
だからこれから、リルから助言を受け、やりたいこと探しの旅に出ることにした事を話した

「って言う事で、今から色んな国を改めて見て回ろうかなって」
「そっか。気づいていたみたいだったけど、急に1人にしちゃったから、気にしてたんだ。特にエドが」

クルリと、ナギのいた画面が別の所を映す。そこにいたのは、焦った様子のエドワードだった

「ナ、ナギ!俺の事は黙ってろと…」
「あ、やっぱりエドもいたのね」

と、今度はタクミのいた画面が変わり、ルルが映る。少し小さく、タクミの抗議の声が聞こえた。

「全部聞いてしまったけど、聞かれたくない事とか無かった?」
「大丈夫だよ。ごめんね、やっぱり心配かけちゃってた?」
「少しだけね。でも、問題無さそうで良かったわ」
「ありがとう。あ、そうだ。これから行くところ、まだ決めてないんだけど、どこかオススメある?どんなとこでもいいから」

申し訳なさもあるが、これ以上この話を引き伸ばしても無意味なので、話題を変える。
冒険の途中、ナギとルルはよく観光して歩いていたのを思い出した。彼女たちなら、いい所を知っていそうだ。

「あ、それなら良いのがあるよ!ちょっとまっててー」

ナギとの通話が一旦途絶えた。と思えば、僅かな間を置いて再び繋がった。直後、カレンの端末にファイルが転送されてきたのが通知で分かる。

「届いた?」
「届いたよー。でもこれ何?」
「ルルちゃんと一緒に回った観光スポットとか、隠れ家的なお店をファイリングしたのだよ。結構細かく書いてるから、参考にして見てね!」
「ありがとー!すごいね、こんなのも作ってたんだ」
「ええ。ナギなんて張り切って作ってたわ」
「えー。でもルルちゃんはお店の情報たくさん持ってきてたよ。いつの間に集めてたのか、不思議なくらい」

どうやら主に情報提供はルル、それらをまとめてファイリングしたのがナギらしい。
通話中にはファイルを開けないので、後ほど見るのが楽しみだ

「でも、私がもらっちゃっていいの?」
「大丈夫だよ!私もルルちゃんも別に持ってるし、それはカレンちゃん用だから、気にしないで」
「ナギ、そろそろ…」
「あ、うん。分かった。じゃあ確認したい事も出来たし、カレンちゃんには早く情報見てもらいたいし、そろそろ切るね」
「うん、わざわざありがとう。ルル達もそうだけど、お店落ち着いたら呼んでねー」
「もちろんよ。でもカレン、相談したいことあればすぐに連絡入れるのよ。私でも、ナギでもいいから」
「はーい。じゃあ皆、またね!」

そう最後に言葉を交わすと、通話が切れて画像も消える
別れてから数時間しか経っていないが、まるでまだ一緒にいるような感覚があった。
ほんの少しだけ、寂しい気持ちを抱きながら、先程届いたファイルを開く。
この日はあまり時間もないので国からは出ずに、少しだけ離れた街を目的地に、カレンは1人旅立った
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