転職したら小人旅館のスイーツ班!?

ユーリ

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旅の途中で

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けたたましい音が耳に届く。
寝る前に仕掛けて置いた起床時刻になり、カレンはゆっくり目を覚ます。


昨夜この街に着いたのは夜が更け始めた頃で、店は既に締まり始めていた。
すぐに空いている宿屋を見つけ、一泊する。
朝目覚めてから、ナギにもらったファイルを眺めていると、朝食の用意が出来たと合図があった。

食堂へ行くと他の客達も多くいる。そのほとんど(むしろ全員と言ってもいい)は冒険者パーティーだろうか、荷物置き場もいっぱいだった。

「あーこの時間じゃなくても良かったんだった。席空いてないよね…」

冒険者達は、朝日が登らないうちから目覚め、ダンジョンへ潜る。
パーティー毎に別のダンジョンが開くので取り合いになることは無いが、目的のアイテムが出るまで数回潜る必要があるので、夜は早く寝て朝は早く起きる習慣が着いている。
そのため宿の方も、朝食の時間は冒険者用と一般客に分けて提供している所が多い。
カレンはつい、冒険者の頃の癖で早い時間に来てしまったのだ。

見回しても席は空いてなく、改めようと踵を返す。
宛てがわれた部屋で、再びファイルを開こうと手に取ると、ドアをノックする音が聞こえる

「?誰だろ」

宿の人は、呼ばない限り部屋に来ることは無い。
カレンはもちろん呼んでいないので、他の客という事になるが、まだ時間は早い。つまり必然的に冒険者の誰かという事になる。

「カーレーンーさーん。いないのー?」
「あ」

誰が尋ねてきたのか分からず、出るのに躊躇していると、相手から声がかかった。
それは聞き覚えのある声で、僅かに張っていた緊張の糸をとく。

「こらハル!まだ早いんだから騒がない!」

未だドアの外で声をかけてくる相手に、ドアを開けながら注意し部屋へ引き込む。
廊下は音が響きやすい。まだ休んでいる人達にとって迷惑だ
そう思いながら、急な来訪者を睨む。
睨まれたハル(ハルト・イシザワ)は気にする様子もなく、両手にパンを抱えてニコニコとしている

ハルは以前保護した異世界からの来訪者だ。
来訪者してから保護するまで時間がかかってしまったのか、発見した時はかなり衰弱しており、声をかけた時には安心したのか、目の前で倒れてしまったのだ
まぁ、今は元気に冒険者をやれているので問題は無さそうだが。
けれど別方面での問題には、カレンも頭を抱えている。

「で、こんな時間にどうしたの?」
「カレンさんがいたから!」
「……」

何故か異様に、懐かれているのだ。
彼を保護した後しばらく、カレン達はダンジョンへ潜るのを一時中断していた時期がある。
保護したらその国のギルドに報告しなければ行けないのだかだ(来訪者はギルド預かりになるため)発見した国には当時ギルドが無かった。
その場合は所属ギルドまで連れていく必要があるが、衰弱したハルはすぐには連れて行けず、かと言って宿に1人残してダンジョンへ行くという考えは誰も持ちえていなかった。ちなみに誰かを残してダンジョンに…も同じく。

そして交代で看病を続けて数日。
カレンが見ている時に目を覚ました時の言葉を、カレンは忘れようと頭を降った。

「女神様の気配があったから、会いに来たんだよ!」
「わーー!だから、その女神様って辞めててば!」

ハル曰く、目を覚ました時に傍にいて、光り輝いていたから女神だとその時は本気で思ったらしい。
まだ意識があやふやで、もう一度寝て起きた時にはしっかりとしていたが、女神設定はそのままだった。光り輝いていたのは、朝日が降り注いでる窓辺に居たからだと、何度言っても聞かない。

と、そんな事があって以来、何故か懐かれ、近くにいると分かると、すぐに会いに来るようになった。

「気配じゃなくて、フレンド登録しているからでしよ。同じギルドなんだし」
「そんな事言わないでよー」

そう言いながらじゃれ着いてくる
軽くあしらいつつ相手していると、廊下からハルを呼ぶ声が聞こえてきた。恐く彼のパーティーメンバーだろう

「ほら、お迎え来たよ」
「あー、もうかー。…もうちょっと……」
「え?」

何やらブツブツ呟いていたが、上手く聞き取れなかった。
聞き返しながらドアを開けると、メンバーの1人が慌ててハルを引き剥がしていく。
同じギルドのため顔は知っているが、ハル以外交流がないメンバーばかりだ

「お前、何して!うらや、じゃなくて、迷惑だろ!」
「えー。そんな事ないよー。迷惑だったらカレンさんも怒るだろうし。じゃあカレンさん、まったねー!」
「そういう事じゃない!」

ギャーギャー騒ぎながら階下へと姿を消す彼ら。
直後聞こえてきた「お静かに!」という宿屋の店主の声に、ピタリと声は止まった。

「やれやれ…」

朝から嵐に遭遇した気分だ。
そう思いつつ、カレンも再び食堂へ足を運ぶ。彼らがハルを連れに来たのは恐くダンジョンへ向かうためであり、他のパーティーも出かけ始めている頃だ。一般客の中にはこの時間から食事をする人もいるので、切り替えのタイミングになる。

朝食を食べながら、ナギにもらったファイルを開く。
国ごとに、さらに街ごとに整理してあるため非常に見やすい。
今いる街を見つけて気になる所を探す。
どうやら店が多いようだ。商店街だろうか。

「あ、ここ美味しそうー。こっちも」

色々な店が載っていた。武器屋防具屋はもちろん、装飾としての服やアクセサリー等、その他色々。
服やアクセサリーには興味惹かれなかったが、レストランやカフェには目を輝かせた。
ナギやルルの技術なのか、食欲のそそる写真が多数ある。
食べる事がダンジョン攻略の次に好きなカレンは、各街の美味しいもの巡りをする事に重点を置いた。

「そっか。そういえば、食事の時間だけは忘れずに起きてきてたもんね」
「まあ、食べなきゃ動けなかったっていうのも、あるんだけどね」

朝食を終えて、最初に目星を付けたカフェへ向かう。
途中かかってきたナギと通話しながら。
カレンが言うのは至極まともな事だ。ダンジョン攻略するにしろ、働くにしろ、食事はキチンと摂る必要がある。
けれどカレンは、人とは違う事情を抱えていた。

「ダンジョン潜る時も、宿屋に頼んでお弁当沢山持ってってたもんね。でもあれだけ食べて太らないとか、羨ましすぎる」
「あー。動き回ること多かったからかな?」

ダンジョン内では、ポジションが殆ど決まっている。
タンク役が先頭にたち、モンスターの行く手を阻む
剣士や格闘系の近距離攻撃を行うジョブはタンク役の横から、マジシャンやアーチャー等、遠距離から攻撃可能なジョブは後方からモンスターへ攻撃をしかける
ヒーラーはメンバーのHPやMPの減り具合いや、デバフがかかっていないか確認及び回復(戦闘前にバフをかけたり)を行う。
これがパーティーの基本ポジションである。

そしてアサシネイトというジョブのカレンは、少し変わったことをしていた。
気配を消してモンスターに近づいて昏倒や転倒をさせて行動不能にしたり、離れた位置から飛び道具を使って攻撃したり等。
正直、攻撃力はあまり高くなかった。攻撃はルルやタクミがいれば充分だった。
けれどもう一つ、カレンは「スティール」というスキルを持っていた
習得当初はどんなスキルか分からず適当に使っていたが、ある時購入した物やドロップアイテム以外の物が荷物に入っていることに気が付いた。
もしかしたら誰かのが混ざったのかと思い聞いてみたが誰も知らなかった。
そこで元冒険者の両親に相談したところ、「スティール」は盗むと言う意味の言葉である事が分かった。
意味を知って不安を覚えたが、ジョブスキルが発動するのはダンジョン内だけのため、モンスターが持っていたものを盗んだのだろうと父が言うので、一先ず安心した。

モンスター相手にならと躊躇いなく使っていくと、ドロップアイテムよりレアな物だったり、高品質な素材が手に入る事が分かり、さらに使う頻度が増えた。
その分メンバーよりも動き回るため体力を使いやすい。HPなら回復でなんともないが疲労は溜まり、お腹はすく。
カレンが殆ど宿で休んでいる事と、食事を多く取っているのには、そんな訳があった。ナギが羨ましがるのも納得が行く。

「摂取カロリーを消費カロリーが上回ってたんだろうね。でも、これからはそうはいかないから、気を付けないと」
「カレンちゃんは痩せ体質だから大丈夫だよー」

そんな話をしていると、目的のカフェが見えてきた。
断りを入れて通話を切る
胸躍らせながら扉に手をかけると、勝手に扉が開いて少し驚いた。

「あ、ごめんなさい」
「いえ、こちらこそ」

中から出てきた人とぶつかりそうになる。
慌てて避けながら謝罪すると、中性的な声で返答があった

「?」

不思議な感覚を覚えて顔を上げると、既にその人は歩き出しており、背中しか見えなかった。
フードの付いたローブを着たその人を眺めていると、来店に気が付いた店員が扉を開けてくれたのに気がついて、意識は美味しいもの巡りに持っていかれた

「……」

その人が、カレンを振り向いたことには、気づかないまま…
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