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3,友達って必要ですよね。
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こんこんと何かが湧き出る泉を前にして悶え熟考する昌は気づかなかった。
音もなくスルリスルリと泉から、正確に言えば石から出てきた煙の様なものがゆっくり確実に丁寧にある獣の姿を形成していく。クルクルと螺旋を巻きながらスラリとしたふさふさかつ鋭い武器を隠し持った四つの脚、本当はしゃんと背を伸ばせばかなり長いがポコッと丸く丸めた背広、暗明によって狩人の眼差しにも庇護欲をくすぐる顔立ちにも変化する瞳、バランスよく型に嵌めるかのように宙に形作る。
そう、お分かり頂けただろうか。
学名Felis、要は猫である。まだ未熟な子猫程の大きさで耳は垂れ野性としては退化を感じさせる。毛並みは整って黒と灰色の虎柄、完成したての尻尾をピコピコ振りながら猫の視線は昌へと向けられる。
「ᠪᠥᠮᠪᠥᠷᠴᠡᠭ ᠤᠨ ᠪᠦᠷᠬᠦᠭ?(ねぇ。何してるのさ?)」
問いかけの様な声で昌は話かけられてやっと暫定ネコに気付く。既に容量の限界まできているのに加えて未知との遭遇である。完全にキャパオーバーのまとまらない思考で引き攣った声で言葉を捻りだす。
「ど、どうも…いいお日柄で?」
辺りは霧に覆われ、真夜中でどう考えてもお足元が悪いがなんとか会話のキャッチボールが出来た。
暫定ネコは首を傾げる。
双方共に言語の疎通が出来ていない事に気づいたのは暫定ネコだけのようで昌はそもそもネコには言語理解力はないという先入観から現実逃避の一環をしているつもりで答えていた。
「ᠨᠢ ᠰᠤᠷᠠᠭ ᠵᠠᠩᠬᠢ ᠶᠢᠨ ᠠᠵᠤ?(え、なんだって?)ᠬᠣᠭᠤᠷᠥᠨᠳᠤ ᠬᠠᠷᠢᠯᠴᠠᠨ ᠲᠦᠰᠢᠭ᠍ᠯᠡᠯᠴᠡᠵᠦ᠂ ᠬᠠᠷᠢᠯᠴᠠᠨ ᠠᠬᠢᠭᠤᠯᠵᠤ?ᠰᠣᠨᠢᠷᠬᠠᠵᠤ ᠪᠣᠯᠣᠨᠠ!(もしかして、人語が分からないの?人類種なのに!)」
「え、なんて?もしかして、お前言葉が分かるの?ネコなのに!」
1人と1匹は微妙に噛み合った漫才を始める。漫才は世界共通なようである。
「Guten Morgen(おはよう)」
「グーにゃーもぁん?お腹空いた?ごめんなにも持ってないや。ネコちゃん名前は?ココに住んでるの?」
「Привет(こんにちは)」
「İyi akşamlar(こんばんは)」
「へー。ずっと住んでるの。アーサーって名前なの?へー。王様みたいだねー」
遠い目でどこかを見つめ現実逃避を続ける昌は傍から見れば不審者、良くて街でみかけられば職質を受けそうな怪しさ満載であった。
しばらく意思疎通をはかってみるが言葉の隔たりは大きくとうとう暫定ネコが痺れを切らした。
「Piac…్్!రగ,లవకరపదలహపూరద!ిరహతయృ!(はじめ…ああ!もう、めんどくさいや!じっとしててね!)」
そういうや否や暫定ネコは宙に黄金の術式を描き始める。呆然と立っていた昌はその行動に刮目する。円を描き、弧を曳き、線を結び、言の葉の紡ぐ…その姿は正しく魔法使いそのもの…
やがて術式は神々しいまでの出来事を眺めていた昌を取り囲み御業を成して、役目を終えると霧散して消え去った。
何かされたらしいが昌にはそれが分からない。しかし、体の芯が温まっていく気がする。実際に下肢に熱く感じる。自分の体の変化に疑問を持ちながらも今までの知ってる常識からは考えられない魔法という現象に興味が全部持っていかれてしまった。先ほどまで知らない場所への不安や恐れも忘れて、ただただ存在しないはずのものへの興奮や憧れを抱く。
「どう?今度こそ言葉わかるかな?君は人類種だよね。こんな所でこんな時間に何してるのさ?」
はたっと日本語が聞こえたことに驚きつつも居住まいを正し今自分がすべき重要なことを認識する。
「はい!日本語分かります!日本人です。瀬戸 昌と申します!助けて頂きありがとうございます!」
ペコリとそう自己紹介をしてくる昌に僅かに目を見開いて驚くネコ。よく観ると傷や豆のない綺麗な手や日焼けのない肌、身なりや立ち振る舞いから育ちの良さを感じ貴族出身だと推測する。
──メンドなことになりそうだ。
地位があると本人に問題があろうがなかろうが常に面倒が付きまとい周りにも降りかかってくる。それが貴族だ。
──もういいや、適当にあしらっとこ。
術まで使って構おうとしたが一気に興ざめする。暫定ネコは人間より遥かに卓越した力を誇り人間になど遠慮しないが、人間社会の面倒くささも知ってる。
もし、ここで貴族を亡きものにしようならば人間が自分のみならず同胞にも何かしら理由をつけ害する可能がある。何故だか人間を気に入っているヤツらもいる。
下はどうでもいいが横と縦には遠慮は必要ということだ。
──あーあ、やっと出られて面白そうな事があると思ったのにな。
急に黙り込んだ暫定ネコに構わず昌は自分がすべき最も重要なことを行った。
「貴方のお名前を聞いてもいいですか?それともさっきのアーサーって言うのが名前ですか?」
「名前は今はないよ。精霊種とでも呼んでくれたらいいよ。」
「そうですか。それではアーサーさんと呼びますね!アーサーさん!私を弟子にして下さい!」
昌の最重要事項とは超常現象を起こした張本人に弟子入りする事だった。もうそれは土下座して怒涛の体当たりの勢いだ。
暫定ネコは驚きつつも苦笑いをする。
「どうして?『使役になれ』なら分かるけど。あと、アーサーさんって止めて」
「だって今のって魔法ですよね!科学で否定され続けてる現代にそんな凄い技術があるなんて驚きです!サイコーです!お願いします、教わったことは墓場まで持っていきます!血判状でもなんにでも誓います!弟子にして下さい!」
「?全然珍しくも何とも無いものだよ。まぁ、魔法と魔術の見分けが出来て無いみたいだから集会所でもいったら?子ども達に初歩を教えてくれるみたいだよ」
暫定ネコ、改め精霊種はまた疑問が増える。そんなに他種族に詳しくない自分でも違和感を生じさせ総じて興味も持ち出した。
──おかしいな。身分が高そうなのに教育が行き届いていない?ちょいちょい情報が歯抜けだ。
「そうなんですね。同じように見えても別物なんですか!勉強になります!これからも精進していきますのでご鞭撻のほどよろしくお願いします!アーサー先生!」
「見かけに寄らずグリグリ弟子入りしようとしてくるんだね君。というか本当にどこから来たのさ?お父さんとお母さんは?あと、さん呼びがダメなんじゃないからね。ちゃっかりしてるのにうっかりさんなの?」
最早完全に迷子扱い子ども扱いである。
だが、自分の門地を聞かれ昌の思考は魔術に浮かれていた熱が急に覚め孤独な現状を突きつけられる。
「……重ね重ねすみません。ココは一体どこでしょか?自宅に居たはずなのですが、石が激しく発光した後もうココに立っていました。訳が分からず困っていました。あと、落し物もしてしまってて弱っていました」
「ふーん。石が光っただけで家から知らない場所まで来ちゃったの?君1人で難儀だね。落し物って何を落したの?」
「そこの泉の中でゴボゴボいっている石です。アレが諸悪の根源です」
チラリと泉を見て精霊種は手をかざし諸悪の根源をいとも簡単に宙に浮かして手元まで引き寄せる。同時に渋い顔で突飛のない昌の話の辻褄を理解した。
「…これはね、石に見えるけど人工物なんだ。魔具っていってコレは封印結晶の魔具だよ。主にね生命体を捕縛・保存するのに使われるんだ。大マヌケに僕はこの中に捕まってたんだ。最近はずっと使役されてなくて待機状態で退屈だったよ…今の持ち主は君でしょ?だったら、自分で体力削って魔法を使うより手っ取り早く命令した方が楽だよ」
水から上げたせいか先ほどよりは弱く光る魔具を撫でながら、どこか投げやりな精霊種の態度が気になり昌は食い下がる。
「貴方に何があったかは知りません。自分は心の機微や言葉の裏を読むことに長けていません。先生は今、困っていた人に声をかけ、言葉が通じなかったら魔法をかけ、落し物を拾ってくれ、もの知らずの弟子に知識をくれた。それだけは確かです。偽善でも打算でも私にはそれだけの事をしてくれた先生に恩義がある。必要十分条件です」
今度は精霊種が昌に瞠目する番であった。もう忘れるくらい昔から使役され続けてきた精霊種は久しく横の関係に触れていなかった。
使役は主従関係になるのはもとより使役される精霊種の同胞は同じように捕まるのを恐れて近づかなくなったりそもそも興味さえくれずにいないものとして扱われ実質種族からの追放が常識であり、使役から解放されない限りずっと続く。
しかし、解放される時とは自分に利用価値がなくなったこと指し死ぬかあるいは主人が解放の術式を施すことでしか許されない。苦労してまた使役できるか分からない精霊種を逃がすことなど有り得ず必然的に使い潰される道しか精霊種にはなかった。
昌は『自分は馬鹿です。知恵が回りません』発言をして主従関係をひっくり返し、魔法の教えを請いたいと言ってきた。このまま恩義を負わせ続け、更にはもっと恩義をかけ自分で操れるように洗脳し、唆して解放の術式を使わせることも精霊種には可能だった。
精霊種はそこまで考えると後の行動は自ずと決まってくる。
「…イイよ。そこまで言うのだったら僕ができる限りのことを教えあげる。それには、ちゃんと目標を立てないとね。最終目標は『解放の術式』って言う魔術を使えることってしておこうね。それができるようになったら大概の術式はこなせるってことだから。それはね、人類種の秘匿の技らしいけどこれぐらい出来なきゃ僕の弟子は名乗れないよ!」
これは決して絆されたからとかそういう理由ではない。精霊種がいつまでも使役されている理由はここにあった。
別の話にはなるが、人類種は他の種族に対して牙も鋭い爪もなく性能的に弱い。虫にですら圧倒的な体格差で勝っているだけに過ぎない。虫けらとなじる言葉があるがもしも、人間と同じ大きさに虫なったら虫が磨いてきた武器で倒されてしまうというほど弱い。
だから知識を磨き技で強者を従えさせることを最初にし始めたのだ。それ以前は他種族が暴力によって人類種を奴隷化していた時代もあったが知識をつけた人類種が反旗を翻し、逆にもっと強制力のある使役の魔術で強者を従え始めた。当然、強者も黙っている訳がなく奴隷の隷属の魔法を開発し、追い抜き追い越されを続けその結果あらゆる種族から使役や奴隷が生み出されることとなり、ある意味では全種族平等であり、後世が奴隷制無くして成り立たなくなるのも必然であった。双方の技術は秘匿され口碑のみで伝えられているが対立関係がある限り必ず存在するだろう。アキラを利用することで諦めていた自由を手に入れようと精霊種の中でなりを潜めていたある感情が湧き出てくる。
その割を食うのは下の弱者であることは誰も変えず、押し付け合いの制度だけ残った。
今ここにも。
精霊種は思惑を腹の中に抑え込みなで声でアキラに提案する。
「まぁ、当面の命令は先生になればいいって事だね。これからよろしくね」
「……まぁ、先生が『命令』って方が良いのならそうしましょうか。当面は…でも、いつかは胸張って『僕の弟子』って言ってもらえるようにしますよ。これからもよろしくお願いします」
少し不服そうな顔で昌は手を差し出す。精霊種は「ン?」っと首を傾げて不思議そうな顔で手を見つめる。その姿にトキメキつつポーカーフェイスで意味を教える。
「同じように手を出して下さい。あ、違います。右手出してるんで同じように右手を出して、手と手を握るんです…そうそう!」
「こう?何これ?儀式?」
「そうですね。ネコ同士ではしませんよね。握手っていって軽いスキンシップで関係性を近づけるおなじないですよ」
「ふーん」
あまり興味なさげだがすぐに手を離そうとはしないのでまんざらでもなさそうだと昌は思った。のほほんとした雰囲気だが唐突に終わりを迎える。
魔具の光が消え、辺りはまた暗闇に呑まれた。
「わあ!暗!えっ、あぁ、どうしよう!」
「えー。夜中なんだから当たり前だよ。灯いる?」
「お願いします!今!迅速に!」
暗闇に怯える昌にはつい先程までの威勢はなく、何とも腰が退けていたがつないだ手の温もりはそのままだった。
音もなくスルリスルリと泉から、正確に言えば石から出てきた煙の様なものがゆっくり確実に丁寧にある獣の姿を形成していく。クルクルと螺旋を巻きながらスラリとしたふさふさかつ鋭い武器を隠し持った四つの脚、本当はしゃんと背を伸ばせばかなり長いがポコッと丸く丸めた背広、暗明によって狩人の眼差しにも庇護欲をくすぐる顔立ちにも変化する瞳、バランスよく型に嵌めるかのように宙に形作る。
そう、お分かり頂けただろうか。
学名Felis、要は猫である。まだ未熟な子猫程の大きさで耳は垂れ野性としては退化を感じさせる。毛並みは整って黒と灰色の虎柄、完成したての尻尾をピコピコ振りながら猫の視線は昌へと向けられる。
「ᠪᠥᠮᠪᠥᠷᠴᠡᠭ ᠤᠨ ᠪᠦᠷᠬᠦᠭ?(ねぇ。何してるのさ?)」
問いかけの様な声で昌は話かけられてやっと暫定ネコに気付く。既に容量の限界まできているのに加えて未知との遭遇である。完全にキャパオーバーのまとまらない思考で引き攣った声で言葉を捻りだす。
「ど、どうも…いいお日柄で?」
辺りは霧に覆われ、真夜中でどう考えてもお足元が悪いがなんとか会話のキャッチボールが出来た。
暫定ネコは首を傾げる。
双方共に言語の疎通が出来ていない事に気づいたのは暫定ネコだけのようで昌はそもそもネコには言語理解力はないという先入観から現実逃避の一環をしているつもりで答えていた。
「ᠨᠢ ᠰᠤᠷᠠᠭ ᠵᠠᠩᠬᠢ ᠶᠢᠨ ᠠᠵᠤ?(え、なんだって?)ᠬᠣᠭᠤᠷᠥᠨᠳᠤ ᠬᠠᠷᠢᠯᠴᠠᠨ ᠲᠦᠰᠢᠭ᠍ᠯᠡᠯᠴᠡᠵᠦ᠂ ᠬᠠᠷᠢᠯᠴᠠᠨ ᠠᠬᠢᠭᠤᠯᠵᠤ?ᠰᠣᠨᠢᠷᠬᠠᠵᠤ ᠪᠣᠯᠣᠨᠠ!(もしかして、人語が分からないの?人類種なのに!)」
「え、なんて?もしかして、お前言葉が分かるの?ネコなのに!」
1人と1匹は微妙に噛み合った漫才を始める。漫才は世界共通なようである。
「Guten Morgen(おはよう)」
「グーにゃーもぁん?お腹空いた?ごめんなにも持ってないや。ネコちゃん名前は?ココに住んでるの?」
「Привет(こんにちは)」
「İyi akşamlar(こんばんは)」
「へー。ずっと住んでるの。アーサーって名前なの?へー。王様みたいだねー」
遠い目でどこかを見つめ現実逃避を続ける昌は傍から見れば不審者、良くて街でみかけられば職質を受けそうな怪しさ満載であった。
しばらく意思疎通をはかってみるが言葉の隔たりは大きくとうとう暫定ネコが痺れを切らした。
「Piac…్్!రగ,లవకరపదలహపూరద!ిరహతయృ!(はじめ…ああ!もう、めんどくさいや!じっとしててね!)」
そういうや否や暫定ネコは宙に黄金の術式を描き始める。呆然と立っていた昌はその行動に刮目する。円を描き、弧を曳き、線を結び、言の葉の紡ぐ…その姿は正しく魔法使いそのもの…
やがて術式は神々しいまでの出来事を眺めていた昌を取り囲み御業を成して、役目を終えると霧散して消え去った。
何かされたらしいが昌にはそれが分からない。しかし、体の芯が温まっていく気がする。実際に下肢に熱く感じる。自分の体の変化に疑問を持ちながらも今までの知ってる常識からは考えられない魔法という現象に興味が全部持っていかれてしまった。先ほどまで知らない場所への不安や恐れも忘れて、ただただ存在しないはずのものへの興奮や憧れを抱く。
「どう?今度こそ言葉わかるかな?君は人類種だよね。こんな所でこんな時間に何してるのさ?」
はたっと日本語が聞こえたことに驚きつつも居住まいを正し今自分がすべき重要なことを認識する。
「はい!日本語分かります!日本人です。瀬戸 昌と申します!助けて頂きありがとうございます!」
ペコリとそう自己紹介をしてくる昌に僅かに目を見開いて驚くネコ。よく観ると傷や豆のない綺麗な手や日焼けのない肌、身なりや立ち振る舞いから育ちの良さを感じ貴族出身だと推測する。
──メンドなことになりそうだ。
地位があると本人に問題があろうがなかろうが常に面倒が付きまとい周りにも降りかかってくる。それが貴族だ。
──もういいや、適当にあしらっとこ。
術まで使って構おうとしたが一気に興ざめする。暫定ネコは人間より遥かに卓越した力を誇り人間になど遠慮しないが、人間社会の面倒くささも知ってる。
もし、ここで貴族を亡きものにしようならば人間が自分のみならず同胞にも何かしら理由をつけ害する可能がある。何故だか人間を気に入っているヤツらもいる。
下はどうでもいいが横と縦には遠慮は必要ということだ。
──あーあ、やっと出られて面白そうな事があると思ったのにな。
急に黙り込んだ暫定ネコに構わず昌は自分がすべき最も重要なことを行った。
「貴方のお名前を聞いてもいいですか?それともさっきのアーサーって言うのが名前ですか?」
「名前は今はないよ。精霊種とでも呼んでくれたらいいよ。」
「そうですか。それではアーサーさんと呼びますね!アーサーさん!私を弟子にして下さい!」
昌の最重要事項とは超常現象を起こした張本人に弟子入りする事だった。もうそれは土下座して怒涛の体当たりの勢いだ。
暫定ネコは驚きつつも苦笑いをする。
「どうして?『使役になれ』なら分かるけど。あと、アーサーさんって止めて」
「だって今のって魔法ですよね!科学で否定され続けてる現代にそんな凄い技術があるなんて驚きです!サイコーです!お願いします、教わったことは墓場まで持っていきます!血判状でもなんにでも誓います!弟子にして下さい!」
「?全然珍しくも何とも無いものだよ。まぁ、魔法と魔術の見分けが出来て無いみたいだから集会所でもいったら?子ども達に初歩を教えてくれるみたいだよ」
暫定ネコ、改め精霊種はまた疑問が増える。そんなに他種族に詳しくない自分でも違和感を生じさせ総じて興味も持ち出した。
──おかしいな。身分が高そうなのに教育が行き届いていない?ちょいちょい情報が歯抜けだ。
「そうなんですね。同じように見えても別物なんですか!勉強になります!これからも精進していきますのでご鞭撻のほどよろしくお願いします!アーサー先生!」
「見かけに寄らずグリグリ弟子入りしようとしてくるんだね君。というか本当にどこから来たのさ?お父さんとお母さんは?あと、さん呼びがダメなんじゃないからね。ちゃっかりしてるのにうっかりさんなの?」
最早完全に迷子扱い子ども扱いである。
だが、自分の門地を聞かれ昌の思考は魔術に浮かれていた熱が急に覚め孤独な現状を突きつけられる。
「……重ね重ねすみません。ココは一体どこでしょか?自宅に居たはずなのですが、石が激しく発光した後もうココに立っていました。訳が分からず困っていました。あと、落し物もしてしまってて弱っていました」
「ふーん。石が光っただけで家から知らない場所まで来ちゃったの?君1人で難儀だね。落し物って何を落したの?」
「そこの泉の中でゴボゴボいっている石です。アレが諸悪の根源です」
チラリと泉を見て精霊種は手をかざし諸悪の根源をいとも簡単に宙に浮かして手元まで引き寄せる。同時に渋い顔で突飛のない昌の話の辻褄を理解した。
「…これはね、石に見えるけど人工物なんだ。魔具っていってコレは封印結晶の魔具だよ。主にね生命体を捕縛・保存するのに使われるんだ。大マヌケに僕はこの中に捕まってたんだ。最近はずっと使役されてなくて待機状態で退屈だったよ…今の持ち主は君でしょ?だったら、自分で体力削って魔法を使うより手っ取り早く命令した方が楽だよ」
水から上げたせいか先ほどよりは弱く光る魔具を撫でながら、どこか投げやりな精霊種の態度が気になり昌は食い下がる。
「貴方に何があったかは知りません。自分は心の機微や言葉の裏を読むことに長けていません。先生は今、困っていた人に声をかけ、言葉が通じなかったら魔法をかけ、落し物を拾ってくれ、もの知らずの弟子に知識をくれた。それだけは確かです。偽善でも打算でも私にはそれだけの事をしてくれた先生に恩義がある。必要十分条件です」
今度は精霊種が昌に瞠目する番であった。もう忘れるくらい昔から使役され続けてきた精霊種は久しく横の関係に触れていなかった。
使役は主従関係になるのはもとより使役される精霊種の同胞は同じように捕まるのを恐れて近づかなくなったりそもそも興味さえくれずにいないものとして扱われ実質種族からの追放が常識であり、使役から解放されない限りずっと続く。
しかし、解放される時とは自分に利用価値がなくなったこと指し死ぬかあるいは主人が解放の術式を施すことでしか許されない。苦労してまた使役できるか分からない精霊種を逃がすことなど有り得ず必然的に使い潰される道しか精霊種にはなかった。
昌は『自分は馬鹿です。知恵が回りません』発言をして主従関係をひっくり返し、魔法の教えを請いたいと言ってきた。このまま恩義を負わせ続け、更にはもっと恩義をかけ自分で操れるように洗脳し、唆して解放の術式を使わせることも精霊種には可能だった。
精霊種はそこまで考えると後の行動は自ずと決まってくる。
「…イイよ。そこまで言うのだったら僕ができる限りのことを教えあげる。それには、ちゃんと目標を立てないとね。最終目標は『解放の術式』って言う魔術を使えることってしておこうね。それができるようになったら大概の術式はこなせるってことだから。それはね、人類種の秘匿の技らしいけどこれぐらい出来なきゃ僕の弟子は名乗れないよ!」
これは決して絆されたからとかそういう理由ではない。精霊種がいつまでも使役されている理由はここにあった。
別の話にはなるが、人類種は他の種族に対して牙も鋭い爪もなく性能的に弱い。虫にですら圧倒的な体格差で勝っているだけに過ぎない。虫けらとなじる言葉があるがもしも、人間と同じ大きさに虫なったら虫が磨いてきた武器で倒されてしまうというほど弱い。
だから知識を磨き技で強者を従えさせることを最初にし始めたのだ。それ以前は他種族が暴力によって人類種を奴隷化していた時代もあったが知識をつけた人類種が反旗を翻し、逆にもっと強制力のある使役の魔術で強者を従え始めた。当然、強者も黙っている訳がなく奴隷の隷属の魔法を開発し、追い抜き追い越されを続けその結果あらゆる種族から使役や奴隷が生み出されることとなり、ある意味では全種族平等であり、後世が奴隷制無くして成り立たなくなるのも必然であった。双方の技術は秘匿され口碑のみで伝えられているが対立関係がある限り必ず存在するだろう。アキラを利用することで諦めていた自由を手に入れようと精霊種の中でなりを潜めていたある感情が湧き出てくる。
その割を食うのは下の弱者であることは誰も変えず、押し付け合いの制度だけ残った。
今ここにも。
精霊種は思惑を腹の中に抑え込みなで声でアキラに提案する。
「まぁ、当面の命令は先生になればいいって事だね。これからよろしくね」
「……まぁ、先生が『命令』って方が良いのならそうしましょうか。当面は…でも、いつかは胸張って『僕の弟子』って言ってもらえるようにしますよ。これからもよろしくお願いします」
少し不服そうな顔で昌は手を差し出す。精霊種は「ン?」っと首を傾げて不思議そうな顔で手を見つめる。その姿にトキメキつつポーカーフェイスで意味を教える。
「同じように手を出して下さい。あ、違います。右手出してるんで同じように右手を出して、手と手を握るんです…そうそう!」
「こう?何これ?儀式?」
「そうですね。ネコ同士ではしませんよね。握手っていって軽いスキンシップで関係性を近づけるおなじないですよ」
「ふーん」
あまり興味なさげだがすぐに手を離そうとはしないのでまんざらでもなさそうだと昌は思った。のほほんとした雰囲気だが唐突に終わりを迎える。
魔具の光が消え、辺りはまた暗闇に呑まれた。
「わあ!暗!えっ、あぁ、どうしよう!」
「えー。夜中なんだから当たり前だよ。灯いる?」
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