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金曜日。
いつものように松倉と飲んだ帰り道、いつのまにか飲んだ後には松倉が俺のことを家まで送ってくれるのがお決まりになっていた。
俺男だから別にいいのにって言うと、男だからとかじゃないですよという返事が返ってくる。
じゃあなんだっていうんだろう。
俺のその疑問を見透かしたように松倉は笑う。
なんでだと思いますか?
「今日も悪いな」
「そこはありがとうの方が気持ち良く終われますよ先輩」
「…うん。いつもありがとう」
「どういたしまして」
じゃあ、とアパートの前で別れようとした時、不意に手首を掴まれた。
「瑞季さん、俺がいつも瑞季さんをここまで送る理由、わかった?」
こてんと首を傾げる動作があざといなと思った。
それをしても許される顔面と雰囲気を持っていることをよくわかっているようで。
さらに言うなら、松倉は「先輩」と「瑞季さん」という呼び方を上手く使い分けている。
「松倉」
「はい」
気づかないふりをして惚けてもよかった。
でもそれをするには少し一緒にいすぎたし、お前との時間が好きだった。
「お前、俺のことが好きなの」
「はい。俺は瑞季さんのことが好きです」
返ってきた予想通りの答えに、タイミングだなと思った。もしくはきっかけ。
松倉には悪いと思いながら、俺は結局唯のことしか考えてなかった。
「最初に飲みに行った時、好きな奴がいるんだろうなって思ったけど。俺だったんだ」
「うん。初めて話した時から雰囲気がいいなって思ってて、関わる度にどんどん好きになっていきました。最初からずっと好きだった。俺なら瑞季さんのこと10年も待たせない、今すぐ幸せにします」
だから俺のこと好きになってください。
真っ直ぐで誠実で、この愛に溺れたら俺はきっと幸せになれるだろうなと思った。
唯からはきっと一生聞けないような言葉を並べられて、俺じゃない誰かの存在を感じることもない。
コイツのことを好きになれたら、俺はまた唯と友達になれる。
松倉の顔が近付く。
なにをされるのかわかりながら、それを受け入れるつもりで目を閉じた。
きっとあと少しで唇が触れる、その瞬間に声がした。
「ストップ」
え。
グッと後ろから強く腕を引かれて、何かに背中が当たる。わからない、でもなんでかよく知ってる匂いがした。
「これ、俺のだから。諦めて」
なんで?なんでお前がここにいんの、唯。
言葉を発する間もなく唯が俺の腕を引いて上へと続く階段の方へと向かっていく。
「ちょっと、唯!まだ松倉が、」
「うるさい」
「はあ!?っ松倉!ごめん」
引き摺られながら後ろを振り返ると、松倉はひらひらと手を振りながら言った。
「泣かされたらいつでも俺のとこ来ていいですよ」
仕方なさそうに笑う顔がいつもより少し大人びて見える。
それに返事をするよりも早く、勝手にポケットの中から鍵を取られて部屋の中に押し込められた。そのほぼ突き飛ばすような勢いに俺の体はべしゃりと廊下に倒れ込む。擦れた手のひらがじんと痛んだ。
ガチャリと鍵の閉まる音がしてパッと視界が明るくなる。
「いってえ…なにすんだよお前!」
「瑞季こそなにしてんの?」
「はあ?なにが」
「あれ誰?恋人?お前の新しい好きな奴?」
「……そうだとしたら何?唯には関係ない、てか邪魔すんなよ」
倒れた身体を起こそうとしたら、何を思ったのか押さえ付けるように唯が俺の上に乗っかってきてそれ以上動けなくなる。
「ちょ、まじなんなんだよお前っ」
「…なんだろうな。こんなはずじゃなかったんだ、俺、どうしたらよかった?ねえ、瑞季」
縋るような指先が俺の頬をやわく擦る。
ぱた、と空から降ってきた生温い何かが唇を濡らした。隙間から舌の上へと落ちる。海と同じ塩の味。
「なに、泣いてんの、お前」
蜂蜜みたいなお前の目からあふれるなら、涙はもっと甘いのかと思ってた。
なんて場違いなことを考える。
ぱたぱたとやまない水滴が俺の顔に降り注いで、まるで俺が流したみたいに頬を滑り落ちていく。
いつものように松倉と飲んだ帰り道、いつのまにか飲んだ後には松倉が俺のことを家まで送ってくれるのがお決まりになっていた。
俺男だから別にいいのにって言うと、男だからとかじゃないですよという返事が返ってくる。
じゃあなんだっていうんだろう。
俺のその疑問を見透かしたように松倉は笑う。
なんでだと思いますか?
「今日も悪いな」
「そこはありがとうの方が気持ち良く終われますよ先輩」
「…うん。いつもありがとう」
「どういたしまして」
じゃあ、とアパートの前で別れようとした時、不意に手首を掴まれた。
「瑞季さん、俺がいつも瑞季さんをここまで送る理由、わかった?」
こてんと首を傾げる動作があざといなと思った。
それをしても許される顔面と雰囲気を持っていることをよくわかっているようで。
さらに言うなら、松倉は「先輩」と「瑞季さん」という呼び方を上手く使い分けている。
「松倉」
「はい」
気づかないふりをして惚けてもよかった。
でもそれをするには少し一緒にいすぎたし、お前との時間が好きだった。
「お前、俺のことが好きなの」
「はい。俺は瑞季さんのことが好きです」
返ってきた予想通りの答えに、タイミングだなと思った。もしくはきっかけ。
松倉には悪いと思いながら、俺は結局唯のことしか考えてなかった。
「最初に飲みに行った時、好きな奴がいるんだろうなって思ったけど。俺だったんだ」
「うん。初めて話した時から雰囲気がいいなって思ってて、関わる度にどんどん好きになっていきました。最初からずっと好きだった。俺なら瑞季さんのこと10年も待たせない、今すぐ幸せにします」
だから俺のこと好きになってください。
真っ直ぐで誠実で、この愛に溺れたら俺はきっと幸せになれるだろうなと思った。
唯からはきっと一生聞けないような言葉を並べられて、俺じゃない誰かの存在を感じることもない。
コイツのことを好きになれたら、俺はまた唯と友達になれる。
松倉の顔が近付く。
なにをされるのかわかりながら、それを受け入れるつもりで目を閉じた。
きっとあと少しで唇が触れる、その瞬間に声がした。
「ストップ」
え。
グッと後ろから強く腕を引かれて、何かに背中が当たる。わからない、でもなんでかよく知ってる匂いがした。
「これ、俺のだから。諦めて」
なんで?なんでお前がここにいんの、唯。
言葉を発する間もなく唯が俺の腕を引いて上へと続く階段の方へと向かっていく。
「ちょっと、唯!まだ松倉が、」
「うるさい」
「はあ!?っ松倉!ごめん」
引き摺られながら後ろを振り返ると、松倉はひらひらと手を振りながら言った。
「泣かされたらいつでも俺のとこ来ていいですよ」
仕方なさそうに笑う顔がいつもより少し大人びて見える。
それに返事をするよりも早く、勝手にポケットの中から鍵を取られて部屋の中に押し込められた。そのほぼ突き飛ばすような勢いに俺の体はべしゃりと廊下に倒れ込む。擦れた手のひらがじんと痛んだ。
ガチャリと鍵の閉まる音がしてパッと視界が明るくなる。
「いってえ…なにすんだよお前!」
「瑞季こそなにしてんの?」
「はあ?なにが」
「あれ誰?恋人?お前の新しい好きな奴?」
「……そうだとしたら何?唯には関係ない、てか邪魔すんなよ」
倒れた身体を起こそうとしたら、何を思ったのか押さえ付けるように唯が俺の上に乗っかってきてそれ以上動けなくなる。
「ちょ、まじなんなんだよお前っ」
「…なんだろうな。こんなはずじゃなかったんだ、俺、どうしたらよかった?ねえ、瑞季」
縋るような指先が俺の頬をやわく擦る。
ぱた、と空から降ってきた生温い何かが唇を濡らした。隙間から舌の上へと落ちる。海と同じ塩の味。
「なに、泣いてんの、お前」
蜂蜜みたいなお前の目からあふれるなら、涙はもっと甘いのかと思ってた。
なんて場違いなことを考える。
ぱたぱたとやまない水滴が俺の顔に降り注いで、まるで俺が流したみたいに頬を滑り落ちていく。
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