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失われた社
弐
しおりを挟む恐れ多くも手置帆負命の家に1泊した私たち。鳥居建立の手伝いは、翌日からすぐに開始した。
長時間絶望の中歩き続けた鬼脈は、心強い先導者と先を照らしてくれる眞奉がいるおかげでなんの憂いもない。
三十分ほど歩いたところで、帆負命は「ここだ」と足を止めた。帆負命が指さした場所をみんなで囲って提灯の灯りを寄せる。
ただ黒い空間がずっと広がっていて、建立途中の鳥居がそばに転がっているだけだ。
「帆負命、ほんとにここに鬼門があんのか?」
手ぬぐいを頭に巻いていた帆負命がちらりと振り返って頷く。
「手突っ込んでみろ」
「手?」
顔を見合わせた私たちは恐る恐る手を出して暗闇に突っ込んでみる。するりと撫でられるような感覚と共に、手首から先にポツポツと冷たい雫が当たる。現世は朝から雨が降っていた。
うおっ、すっげぇ! なにこれ!?
歓声を上げる私たちにフンと鼻を鳴らした帆負命は「説明するからこっち来い」と私たちを呼びつけた。
鳥居の建て方は時代によって違うのだけれど、鬼脈の中に建てるとしたら恐らくいちばん古いやり方だろう。
「鳥居は掘立柱で建てる。簡単に言うと掘る、建てる、叩くの三段階だ。お前らにはまず」
帆負命は風呂敷の中から何かを探り出して私たちに投げる。受け取ったそれに目を点にした。
「ひたすら掘ってもらう」
「掘ってもらうって……これスコップじゃん!」
神にツッコむなんて恐れ多くてできないと思っていたのだけれど、それをやってのけるのが慶賀くんだ。間髪入れずに鋭いツッコミが炸裂する。
「文句を言うな。土鋤を作るには時間も労力もかかるんだ。それがあるだけ有難いと思え」
帆負命は丸太のそばにあった自分のシャベルを肩に担いで歩いてくると、柄を高く被ると思い切り地面に突き刺した。
音を立てずに深く刺さったシャベルの上には真っ黒な塊が乗っかっている。それを後ろにパッと投げ捨てた帆負命は淡々とその動作を繰り返していく。
今まで深く考えたこともなかったけれど、鬼脈の地面ってそんな感じで掘れるものなの……?
要領を掴んだ皆は指示された場所に座り込んで恐る恐るスコップを地面に突き刺した。
「うわっスゲェ、これめっちゃ掘れる!」
「なにこれ!? 音しないのに掘る感覚だけは伝わってくる!」
うおお、と感心したようにスコップを天高々と掲げる二人。
「当たり前だ、それは神器だぞ」
苦い顔でそう零した恵衣くんは恐る恐る地面を掘り始める。
言われてみればそうだ。帆負命が作ったスコップ、つまり神から与えられた道具だからこれは神器ということになる。
「恐れ多くて、あんなに勢いよく振りかざせないよ。そもそもこの状況ですらまだ飲み込めてないのに」
頬をかいた嘉正くんは苦笑いを浮かべる。
迷子になったところを偶然助けてくれたのが実は神様で、神様の家に一泊した後神様の手伝いをすることになった────たしかに飲み込むには時間がかかる特殊な状況だ。
ちらりと視線を向けて黙々と作業を進める帆負命の背中を見た。
人間であり神でもある存在……か。
「巫寿? どうしたの?」
「あ、ううん。なんでもない」
急いで手元に視線を戻し、恐る恐る地面にスコップを突き刺した。
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