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失われた社
伍
しおりを挟む鬼門を開く儀式は門外不出なので誰にも見せることができないらしい。「終わったら迎えに来てやる」と朝早くに出て行って、もう八時間近く経った。
最初は荷物や作戦の確認をしていた私たちだけれど、それもひと通り終わると退屈になる。折角だから世話になった帆負命になにかお礼ができないかと案を出し合い、お礼のメッセージを書いた色紙を作ることにした。
「おい、最高敬語とは言わないがもうちょっとマシな敬語を使えないのか?」
「え、最高敬語ってなんだ?」
「授業で習っ────言うだけ無駄だな」
恵衣くんと慶賀くんのやり取りにクスクスと笑いながら、借りた食器を茶箪笥にしまっていく。この家には1人分の食器しかないので、ここ数日夕飯を食べる時は皆大きさがばらばらな食器を使っていた。
帆負命自身も数日滞在すると次の鳥居を建てるために移動してしまうので、ものはあまり置かないらしい。
必要最低限の荷物しかないからか、どこか殺風景でもの寂しい。
ふと、昨日帆負命が言っていたことを思い出す。
『ひとりは、寂しいぞ』
そう呟いた帆負命の寂しそうな横顔がずっと脳裏に焼き付いている。
「……ねぇ、皆」
囲炉裏の傍で色紙を囲んで寝転んでいた皆が「ん?」と振り返った。
「帆負命に写真とかプレゼントできないかな」
「写真?」
目を瞬かせた皆にひとつうなずく。
「私たちは知り合って数日だけど、知人の写真があれば少しは一人暮らしも寂しくないかなって思うの」
どう?と聞き返すまでもなく皆は満面の笑みで親指を突き立てた。
「いいじゃん撮ろうよ! そういえばみんなで写真撮ることも滅多になかったしね」
「印刷どうすんだ?」
「ここから1時間くらい行ったところにコンビニがあったから、そこで印刷できるんじゃない? 形代にお使い頼もうよ」
トントン拍子で段取りが決まり、撮影は眞奉に頼むことになった。カメラアプリの使い方を教えて、本殿の前にみんなで並ぶ。
「詰めろよー! 俺が見切れるだろ!」
「押すなよ! どうせチビなんだからどう足掻いても見えないよ!」
慶賀くんが隣の来光くんに寄りかかると、来光くんは顔を顰めてその頭を遠ざけようと鷲掴みにする。
「なんだとこの野郎!」
「ここで暴れるな馬鹿!」
「もー、さっさとしてよ」
「あっ、眞奉待って!」
カシャッ、と軽快なシャッター音が響いた。
慌ててスマホを受け取って確認すると、もみくちゃになった皆がしっかりと切り取られている。あちゃー、と額を抑えた。
「おい、もうそれでいい。時間ないから形代飛ばすぞ」
私のスマホを取り上げた恵衣くんが、素早く形代を取り出してスマホを託す。
「一枚でいいな?」
「あっ、寮に飾りたいから俺も欲しい!」
はーい、と手を挙げた慶賀くんに恵衣くんが顔を顰めた。
「データがあるんだから帰ってから自分で印刷しろよ。今持ってても荷物になるだけだろ」
「別に俺が持つんだからいいだろ! ほら形代、写真二枚な! よろしく!」
恵衣くんと意思が繋がっている形代は、少し躊躇いながら受け取るとくるりと背を向け飛び跳ねる。そして紙飛行機のように風を切り開きながらあっという間に飛んで行った。
嘉正くんの提案で本殿のにあった廃材で写真立ても作ることになり、私たちは作業に取り掛かった。
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