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第15話 冬の遠征は荷物が多い
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「魔導兵器のことを聞きたい。少し、時間をもらえるか?」
「……まあ、強制的に追い出されるよりはマシか。上がるといい。ただし、中の物には触れないでくれたまえよ」
小屋の扉を軋ませながら中に入ると、案の定、室内は雑然としていた。大小の机が何台も並べられ、設計図の切れ端や試作と思われる魔導部品があちこちに積まれている。
セオは作業台の一角を空けると、作業着の袖を捲りながら言った。
「待っていろ。茶ぐらいは出す」
そう言って、奥の方へと下がっていった。
「すげぇなここ……どこに座っていいのかもわかんねぇ」
「そうだな」
軽く頷きながら、散らばった紙束の中から目を引くものを一つ手に取った。
分厚い紙に書かれた複雑な魔導回路と、巨大な筐体の断面図。走り書きのようなメモには、出力比率や魔力干渉制御の数値、構造的な応力限界の検証途中の記述が並ぶ。
それらの意味は俺にはわからない。だが、壁に貼り付けられたその絵図面には確かに見覚えが合った。
──間違いない。
これは、巻き戻る前の世界で運用されていた搭乗型の大型魔導兵器に酷似している。
「……何を見ている」
不意に声がして顔を上げると、セオが湯気の立つカップを両手に持って立っていた。その目は、俺の視線の先を追って図面に注がれている。
「この図面、完成品じゃないな。……まだ試作の途中か?」
「試作?こんな小屋でそんな物が作れる物か。それは王国軍魔導兵器開発局の名残でしか無い。君のような冒険者でも興味があるのか?」
皮肉気に笑うセオに、俺は肩をすくめた。
「興味はある。が、冒険者としては使えたものじゃないな」
「ふん、図面も読めないのに何が分かるというのだ」
「見れば分かる。これは戦争のための戦略兵器だろう。大軍相手や攻城戦なら無類の力を発揮するだろうが、それ以外では無用の長物になる」
実際見てきたからな。その圧倒的な火力は一撃で城門を破壊し、大軍を蹴散らす。しかしそれは戦略兵器としてだ。
戦術面で言えば、大雑把で連射も効かない。精密すぎて多くの兵で守る必要があり、あの戦いにおいても有効だったとは言えない。
そうだ、あの戦いにおいて大型魔導兵器は意味を成さなかった。あの戦いを考えればこの兵器は無い方がマシ、資源を他に向けた方が……、つまり軍縮は、正解だった?
そうだ、あの戦いに勝利するためを考えればそうなる。軍を拡大して人間同士の戦線を押し広げたり、使えない魔導兵器を量産して何になる。そんな事より、兵を強化したり、勇者パーティをもっと増やすなり、精鋭による決戦こそが――
「……素人にしては、妙に的を射ているな。君は……何者だ?」
「あ、あぁ。ただの冒険者だ。俺達の戦う相手は魔物。身を隠し、群をなさず、時には空を飛ぶ敵に対して、こいつじゃ使い物にならない」
考えが逸れしまっていた。今考えることじゃない。
「君、なかなか面白いことを言うな。軍人でもないのに、絵図面を見ただけでこれの問題を見抜くとは」
「これはこれで有用だろう。ただ、人間同士で殺し合うための道具でしか無いというだけだ」
「……まったくだ」
その一言は、どこか自嘲の響きを含んでいた。彼自身も、思うところがあったのかもしれない。
「というわけでだ」
「ん?」
「君たちは私を追い出しに来たんだろう。なら、私は君たちに同行しよう」
「は?」
「君たちに同行して、新しい魔導兵器の発想を得ることにした。あぁ、私が手掛けているのは兵器だけじゃない、魔導具全般だ。君たちにとっても有益なことだろう」
「おいおい、勝手に決めるなよ。俺たちは護衛団じゃないんだぞ」
「別に護衛など頼んでいない。ただ君たちの動きを見るだけだ」
「………何故この国の軍縮が始まったか知っているか?」
「どうだったかな。少なくとも君よりは知っているだろうが、思い出せるかな」
「分かった。同行を認めよう」
「少し待っていたまえ。持っていくものは少ないが、残りは燃やしていく」
「好きにしろ」
「えぇ……勝手に燃やしていいのかよ」
セオは簡単に荷物をまとめると、手提げかばん1つだけを残して本当に火を付けた。
勝手に住み着いて、勝手に燃やして去るという。それで悪気は無いんだから恐ろしいやつだ。
「村長。戦闘になり小屋は燃えた。こいつは王都に連行する」
「なに、小屋が燃えた?では依頼は失敗だな、依頼失敗で金は返してもらうぞ」
「勝手にしろ」
失敗で終わらせた方が処理が楽だ。放っておこう。
駅馬車に乗り込み王都を目指す。
◇◆◇◆◇
雪は止んでいた。だが寒さは骨にくる。馬車は凍った道をごとごと進んでいた。
セオは隣で無言のまま本を読んでいる。元軍部の研究者って肩書きは伊達じゃないらしい。揺れにも眉一つ動かさない。
「セオ。聞きたい事がある。軍縮の流れについてだ」
俺の問いに、セオは少しだけ眉を動かした。
「詳細は知らない。いや、知っている者がこの国にいるのかすら疑問だ」
「知っていることを教えてくれ。この国は周辺国との戦争が絶えなかったはずだ。何故軍縮なんて話になったのか、そしてそれが実現しているのか」
「ふむ……」
彼の視線は窓の外、白くかすむ森の向こう。
「表向きの理由は山ほどある。予算、国民感情、損耗。だが、実際のところは不可解な点が多い」
「不可解?」
「互いに信頼関係など無い国同士が、なぜか同時期に兵を引いた。自分の手足を切り捨てるように、軍の枠組みそのものを手放した」
「上の方で何か合意したとかじゃないのか」
「そうそう、お上の考えることはわかんねぇよ」
「そう推測する者もいた。だが証拠も目的も、今に至るまで不明だ」
セオの言い方は冷静だったが、その目の奥には薄く警戒の色があった。
「私にも理由はわからない。軍部の上層でも同じだ。ある日、流れが変わっていた。まるで、大陸中の国々を意のままに動かせる者がいたかのように」
世界の流れが変化している事は既に受け入れていた。軍縮自体は悪い変化じゃない。そう思いたい。
けれど、それが真っ当なものじゃないなら──その先にはきっと歪みが生まれるはずだ。
◇◆◇◆◇
受付には、いつもの落ち着いた顔でディーネが座っていた。
「依頼の報告ですね。……いかがでしたか?」
「依頼は失敗だ。依頼主がそう主張しているのでそれで処理してくれ」
「…承知しました。それでは依頼は失敗となり、報酬はありません。罰則もありません」
「あぁ、すまなかったな」
口には出さないけど、ある程度事情は把握していたのかもしれない。簡単な依頼なのに誰も受けずに残っていたのもそういう事だろう。B級でも達成できない村の仕事を受ける者はいなくなるかもな。
俺の横に立つセオに視線が向く。
けれど、紹介はしない。するつもりもない。
「そちらは問題ありません。それより、ガルドさんに調査依頼の指名が入っています」
「またか……」
討伐依頼しか受けない俺達に対し、護衛や採集の依頼を指名されることがある。全部断っているんだし、そろそろ諦めてもらいたいんだがな。
「こちらの依頼です。既に多数の被害が出ています。討伐のみでも構いません。強力な魔物が複数確認されていますので、追加戦力が派遣される可能性があります」
ざっと目を通す。
遠いな、ここから馬車で10日ほどか。過去に遺跡として記録された場所で、最近になって魔物の動きが活発化したという。周辺の村落が強力な魔物に襲われており、先の調査隊は壊滅。教会から派遣された治癒師は行方不明。中心には更に脅威となる個体が存在する可能性があるとのこと。目標は遺跡の調査、魔物の発生原因の究明だ。
「……調査というより、実質討伐じゃないか」
「ええ、本来はA級以上の案件です。ですが、人員不足で……」
ディーネの目が揺れる。俺は頷いた。
「明日1日準備に使ってから出る。それでいいな」
「はい。よろしくお願いいたします、ガルドさん」
フォルクが隣でそっと息を吸った。
少し緊張しているのが伝わってきた。
依頼を受けたその足で、俺たちは街に繰り出した。
出発は翌々日。時間はあるが、冬の遠征を往復十日間。向こうでの滞在がどれだけになるのかもわからない。入念に準備を行う必要がある。
まずは防寒具と保存食を買い揃える。馬車の手配、簡易だが地図の確認。雪は多くないが、スコップくらいは必要だろう。なるべく王都で揃えてしまいたい。
ストレージの中身もいっぱいに補充しておく。これはレベルが上がって手に入れた便利スキルだ。小さな棚が自由に出し入れ出来るような物で、料理に使う小物や調味料を仕舞うのに重宝しているのだ。
宿に戻る頃には日が沈んでいた。セオの為に追加で部屋を取り、相談の為に集まった。
「戻ったばかりだが、危険の高い仕事だ。本当に付いてくる気か?」
「当然だ。今更何を言う」
「そうは言ってもな」
「あんた死んじまうぜ?学者様は本物の魔物を見たことがあるのかよ」
「もちろん。戦場にも出たことがある」
「……そうかよ」
セオドリックの思惑は読めない。だが、裏は無いと判断した。
彼の方から付いてきたのは好機だ。このまま彼を取り込みたい。彼の魔導具は必ず助けになるはずだ。
「セオ。危険な依頼についてくるというなら、俺達は1つのパーティだ。行動中は俺の指示に従ってもらう」
「構わない。おかしな指示はしないでもらいたいね」
「それなら今から俺達はパーティだ。明日中に十分な準備をしておけ。フォルクもいいな」
「わかったよ。よろしくな学者さん」
「セオと呼ぶように。どれ、まずは備品に細工をしてやろう」
そう言ってカバンから取り出したのは針と糸、そして手のひら大の魔石が一つ。
魔石とは、魔物の体内から取れる魔力の塊だ。俺も普段はギルドに納品している。取り出すのが面倒で放置することも多いが、魔導具の素材や燃料として広く利用されているものだ。
魔石から小さな光が広がり、布に沿って淡く揺れる。
「防寒服の内側に魔力を通す。断熱処理だ。靴下と寝袋もだな。湿気を防ぐ処理も加える。今の手持ちだと大した効果は期待できないが、何もしないよりマシだろう」
布の裏に、薄く滑らかな膜のような魔力が染み込んでいく。手つきは流れるようで、表情は一切動かない。
「おぉ、ほんとかよ。変な武器ばっかり作ってるんじゃなかったのか」
「助かる」
セオはちらりと視線を向けたが、返事はなかった。
彼が戦闘をこなすのは厳しいだろう。だが、それぞれがそれぞれの出来ることをする。これもパーティの形だ。
戻ったら宿を出て家を借りてもいいかもな。実験できるスペースが必要なはずだ。
魔導兵器の開発者であり技師。戦場のために技術を積み上げてきた男の無駄のない手つき。それは確かな動きで仕事をこなしていた。
翌日には装備の点検と、出発準備の最終確認。
俺たちはそれぞれの持ち場で必要な動きをこなし、無駄なく二日を使い切った。
◇◆◇◆◇
出発の朝は冷え込んでいた。
まだ薄暗い街道沿いで、借りたばかりの馬車に荷を積み込む。食料、野営道具、工具。飼葉等は道中で買い足して行く予定だ。俺たちの生活と命を支える道具のすべてが、きちんと整って並べられていく。
「全部積んだな。最初は俺が御者をやるからな。魔馬を捌くのは初めてだぜ」
フォルクが御者台に登り、手綱を握る。預かり保証金だけで金貨100枚も取られた魔馬は、まだ眠たげに鼻を鳴らしている。
セオは何も言わず、荷物の最後の固定を確認すると、軽く頷いて馬車の中に入った。
俺も続いて乗り込み、扉を閉める。
車輪が軋み、馬がゆっくりと歩き出す。
王都の石畳を離れ、街道へと入っていく馬車の揺れに身を預けながら、俺は静かに目を閉じた。
──今回の旅は長い。
――――――――――
名前:ガルドリック
年齢:15歳(23歳)
職業:勇者
レベル:18 → 29
HP: 6660 → 8640
MP:1770 → 1880
耐久:663 → 993
筋力:537 → 779
敏捷:360 → 525
知力:342 → 463
魔力:345 → 400
幸運:10
スキル習得:「抑制」「調理技術」「ストレージ」
スキル:「勇者の適応」「ステータスリード」「グローリアスタッチ」「導きの直感」
――――――――――
名前:フォルクハルト
年齢:17歳
職業:村人
レベル:1→23
HP:130 → 2990
MP:30 → 690
耐久:21 → 483
筋力:18 → 414
敏捷:23 → 529
知力:10 → 230
魔力:5 → 115
幸運:28
スキル習得:「投擲術」「見切り」「仕掛け屋の直感」「斥候の足」
――――――――――
名前:セオドリック・エヴァンシャー
年齢:31歳
職業:魔導技術者
レベル:1
HP:60
MP:80
耐久:8
筋力:12
敏捷:9
知力:48
魔力:10
幸運:10
スキル:〈魔導設計〉
――――――――――
抑制:任意で力を抑える。対象に合わせられる。
調理技術:調理が上手くなる。食材を発見しやすくなる。
ストレージ:異空に収納する事が出来る。知力+魔力の合計値を高さ・幅・奥行きに割り振れる。(現在は、高さ163*幅500*奥行き200mmの棚)
投擲術:投擲武器の制度・軌道予測が向上する。
見切り;動きの初動を察知する。
仕掛け屋の直感;仕掛けを見抜く。
斥候の足:地形や障害物を活用した機動力が向上する。
魔導設計:魔を導き、設計する能力。※努力で磨いた素養。
ステータスは元の能力にかけられる係数。基準値は先天的な素質。
素養を磨けば出力は増す。
「……まあ、強制的に追い出されるよりはマシか。上がるといい。ただし、中の物には触れないでくれたまえよ」
小屋の扉を軋ませながら中に入ると、案の定、室内は雑然としていた。大小の机が何台も並べられ、設計図の切れ端や試作と思われる魔導部品があちこちに積まれている。
セオは作業台の一角を空けると、作業着の袖を捲りながら言った。
「待っていろ。茶ぐらいは出す」
そう言って、奥の方へと下がっていった。
「すげぇなここ……どこに座っていいのかもわかんねぇ」
「そうだな」
軽く頷きながら、散らばった紙束の中から目を引くものを一つ手に取った。
分厚い紙に書かれた複雑な魔導回路と、巨大な筐体の断面図。走り書きのようなメモには、出力比率や魔力干渉制御の数値、構造的な応力限界の検証途中の記述が並ぶ。
それらの意味は俺にはわからない。だが、壁に貼り付けられたその絵図面には確かに見覚えが合った。
──間違いない。
これは、巻き戻る前の世界で運用されていた搭乗型の大型魔導兵器に酷似している。
「……何を見ている」
不意に声がして顔を上げると、セオが湯気の立つカップを両手に持って立っていた。その目は、俺の視線の先を追って図面に注がれている。
「この図面、完成品じゃないな。……まだ試作の途中か?」
「試作?こんな小屋でそんな物が作れる物か。それは王国軍魔導兵器開発局の名残でしか無い。君のような冒険者でも興味があるのか?」
皮肉気に笑うセオに、俺は肩をすくめた。
「興味はある。が、冒険者としては使えたものじゃないな」
「ふん、図面も読めないのに何が分かるというのだ」
「見れば分かる。これは戦争のための戦略兵器だろう。大軍相手や攻城戦なら無類の力を発揮するだろうが、それ以外では無用の長物になる」
実際見てきたからな。その圧倒的な火力は一撃で城門を破壊し、大軍を蹴散らす。しかしそれは戦略兵器としてだ。
戦術面で言えば、大雑把で連射も効かない。精密すぎて多くの兵で守る必要があり、あの戦いにおいても有効だったとは言えない。
そうだ、あの戦いにおいて大型魔導兵器は意味を成さなかった。あの戦いを考えればこの兵器は無い方がマシ、資源を他に向けた方が……、つまり軍縮は、正解だった?
そうだ、あの戦いに勝利するためを考えればそうなる。軍を拡大して人間同士の戦線を押し広げたり、使えない魔導兵器を量産して何になる。そんな事より、兵を強化したり、勇者パーティをもっと増やすなり、精鋭による決戦こそが――
「……素人にしては、妙に的を射ているな。君は……何者だ?」
「あ、あぁ。ただの冒険者だ。俺達の戦う相手は魔物。身を隠し、群をなさず、時には空を飛ぶ敵に対して、こいつじゃ使い物にならない」
考えが逸れしまっていた。今考えることじゃない。
「君、なかなか面白いことを言うな。軍人でもないのに、絵図面を見ただけでこれの問題を見抜くとは」
「これはこれで有用だろう。ただ、人間同士で殺し合うための道具でしか無いというだけだ」
「……まったくだ」
その一言は、どこか自嘲の響きを含んでいた。彼自身も、思うところがあったのかもしれない。
「というわけでだ」
「ん?」
「君たちは私を追い出しに来たんだろう。なら、私は君たちに同行しよう」
「は?」
「君たちに同行して、新しい魔導兵器の発想を得ることにした。あぁ、私が手掛けているのは兵器だけじゃない、魔導具全般だ。君たちにとっても有益なことだろう」
「おいおい、勝手に決めるなよ。俺たちは護衛団じゃないんだぞ」
「別に護衛など頼んでいない。ただ君たちの動きを見るだけだ」
「………何故この国の軍縮が始まったか知っているか?」
「どうだったかな。少なくとも君よりは知っているだろうが、思い出せるかな」
「分かった。同行を認めよう」
「少し待っていたまえ。持っていくものは少ないが、残りは燃やしていく」
「好きにしろ」
「えぇ……勝手に燃やしていいのかよ」
セオは簡単に荷物をまとめると、手提げかばん1つだけを残して本当に火を付けた。
勝手に住み着いて、勝手に燃やして去るという。それで悪気は無いんだから恐ろしいやつだ。
「村長。戦闘になり小屋は燃えた。こいつは王都に連行する」
「なに、小屋が燃えた?では依頼は失敗だな、依頼失敗で金は返してもらうぞ」
「勝手にしろ」
失敗で終わらせた方が処理が楽だ。放っておこう。
駅馬車に乗り込み王都を目指す。
◇◆◇◆◇
雪は止んでいた。だが寒さは骨にくる。馬車は凍った道をごとごと進んでいた。
セオは隣で無言のまま本を読んでいる。元軍部の研究者って肩書きは伊達じゃないらしい。揺れにも眉一つ動かさない。
「セオ。聞きたい事がある。軍縮の流れについてだ」
俺の問いに、セオは少しだけ眉を動かした。
「詳細は知らない。いや、知っている者がこの国にいるのかすら疑問だ」
「知っていることを教えてくれ。この国は周辺国との戦争が絶えなかったはずだ。何故軍縮なんて話になったのか、そしてそれが実現しているのか」
「ふむ……」
彼の視線は窓の外、白くかすむ森の向こう。
「表向きの理由は山ほどある。予算、国民感情、損耗。だが、実際のところは不可解な点が多い」
「不可解?」
「互いに信頼関係など無い国同士が、なぜか同時期に兵を引いた。自分の手足を切り捨てるように、軍の枠組みそのものを手放した」
「上の方で何か合意したとかじゃないのか」
「そうそう、お上の考えることはわかんねぇよ」
「そう推測する者もいた。だが証拠も目的も、今に至るまで不明だ」
セオの言い方は冷静だったが、その目の奥には薄く警戒の色があった。
「私にも理由はわからない。軍部の上層でも同じだ。ある日、流れが変わっていた。まるで、大陸中の国々を意のままに動かせる者がいたかのように」
世界の流れが変化している事は既に受け入れていた。軍縮自体は悪い変化じゃない。そう思いたい。
けれど、それが真っ当なものじゃないなら──その先にはきっと歪みが生まれるはずだ。
◇◆◇◆◇
受付には、いつもの落ち着いた顔でディーネが座っていた。
「依頼の報告ですね。……いかがでしたか?」
「依頼は失敗だ。依頼主がそう主張しているのでそれで処理してくれ」
「…承知しました。それでは依頼は失敗となり、報酬はありません。罰則もありません」
「あぁ、すまなかったな」
口には出さないけど、ある程度事情は把握していたのかもしれない。簡単な依頼なのに誰も受けずに残っていたのもそういう事だろう。B級でも達成できない村の仕事を受ける者はいなくなるかもな。
俺の横に立つセオに視線が向く。
けれど、紹介はしない。するつもりもない。
「そちらは問題ありません。それより、ガルドさんに調査依頼の指名が入っています」
「またか……」
討伐依頼しか受けない俺達に対し、護衛や採集の依頼を指名されることがある。全部断っているんだし、そろそろ諦めてもらいたいんだがな。
「こちらの依頼です。既に多数の被害が出ています。討伐のみでも構いません。強力な魔物が複数確認されていますので、追加戦力が派遣される可能性があります」
ざっと目を通す。
遠いな、ここから馬車で10日ほどか。過去に遺跡として記録された場所で、最近になって魔物の動きが活発化したという。周辺の村落が強力な魔物に襲われており、先の調査隊は壊滅。教会から派遣された治癒師は行方不明。中心には更に脅威となる個体が存在する可能性があるとのこと。目標は遺跡の調査、魔物の発生原因の究明だ。
「……調査というより、実質討伐じゃないか」
「ええ、本来はA級以上の案件です。ですが、人員不足で……」
ディーネの目が揺れる。俺は頷いた。
「明日1日準備に使ってから出る。それでいいな」
「はい。よろしくお願いいたします、ガルドさん」
フォルクが隣でそっと息を吸った。
少し緊張しているのが伝わってきた。
依頼を受けたその足で、俺たちは街に繰り出した。
出発は翌々日。時間はあるが、冬の遠征を往復十日間。向こうでの滞在がどれだけになるのかもわからない。入念に準備を行う必要がある。
まずは防寒具と保存食を買い揃える。馬車の手配、簡易だが地図の確認。雪は多くないが、スコップくらいは必要だろう。なるべく王都で揃えてしまいたい。
ストレージの中身もいっぱいに補充しておく。これはレベルが上がって手に入れた便利スキルだ。小さな棚が自由に出し入れ出来るような物で、料理に使う小物や調味料を仕舞うのに重宝しているのだ。
宿に戻る頃には日が沈んでいた。セオの為に追加で部屋を取り、相談の為に集まった。
「戻ったばかりだが、危険の高い仕事だ。本当に付いてくる気か?」
「当然だ。今更何を言う」
「そうは言ってもな」
「あんた死んじまうぜ?学者様は本物の魔物を見たことがあるのかよ」
「もちろん。戦場にも出たことがある」
「……そうかよ」
セオドリックの思惑は読めない。だが、裏は無いと判断した。
彼の方から付いてきたのは好機だ。このまま彼を取り込みたい。彼の魔導具は必ず助けになるはずだ。
「セオ。危険な依頼についてくるというなら、俺達は1つのパーティだ。行動中は俺の指示に従ってもらう」
「構わない。おかしな指示はしないでもらいたいね」
「それなら今から俺達はパーティだ。明日中に十分な準備をしておけ。フォルクもいいな」
「わかったよ。よろしくな学者さん」
「セオと呼ぶように。どれ、まずは備品に細工をしてやろう」
そう言ってカバンから取り出したのは針と糸、そして手のひら大の魔石が一つ。
魔石とは、魔物の体内から取れる魔力の塊だ。俺も普段はギルドに納品している。取り出すのが面倒で放置することも多いが、魔導具の素材や燃料として広く利用されているものだ。
魔石から小さな光が広がり、布に沿って淡く揺れる。
「防寒服の内側に魔力を通す。断熱処理だ。靴下と寝袋もだな。湿気を防ぐ処理も加える。今の手持ちだと大した効果は期待できないが、何もしないよりマシだろう」
布の裏に、薄く滑らかな膜のような魔力が染み込んでいく。手つきは流れるようで、表情は一切動かない。
「おぉ、ほんとかよ。変な武器ばっかり作ってるんじゃなかったのか」
「助かる」
セオはちらりと視線を向けたが、返事はなかった。
彼が戦闘をこなすのは厳しいだろう。だが、それぞれがそれぞれの出来ることをする。これもパーティの形だ。
戻ったら宿を出て家を借りてもいいかもな。実験できるスペースが必要なはずだ。
魔導兵器の開発者であり技師。戦場のために技術を積み上げてきた男の無駄のない手つき。それは確かな動きで仕事をこなしていた。
翌日には装備の点検と、出発準備の最終確認。
俺たちはそれぞれの持ち場で必要な動きをこなし、無駄なく二日を使い切った。
◇◆◇◆◇
出発の朝は冷え込んでいた。
まだ薄暗い街道沿いで、借りたばかりの馬車に荷を積み込む。食料、野営道具、工具。飼葉等は道中で買い足して行く予定だ。俺たちの生活と命を支える道具のすべてが、きちんと整って並べられていく。
「全部積んだな。最初は俺が御者をやるからな。魔馬を捌くのは初めてだぜ」
フォルクが御者台に登り、手綱を握る。預かり保証金だけで金貨100枚も取られた魔馬は、まだ眠たげに鼻を鳴らしている。
セオは何も言わず、荷物の最後の固定を確認すると、軽く頷いて馬車の中に入った。
俺も続いて乗り込み、扉を閉める。
車輪が軋み、馬がゆっくりと歩き出す。
王都の石畳を離れ、街道へと入っていく馬車の揺れに身を預けながら、俺は静かに目を閉じた。
──今回の旅は長い。
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名前:ガルドリック
年齢:15歳(23歳)
職業:勇者
レベル:18 → 29
HP: 6660 → 8640
MP:1770 → 1880
耐久:663 → 993
筋力:537 → 779
敏捷:360 → 525
知力:342 → 463
魔力:345 → 400
幸運:10
スキル習得:「抑制」「調理技術」「ストレージ」
スキル:「勇者の適応」「ステータスリード」「グローリアスタッチ」「導きの直感」
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名前:フォルクハルト
年齢:17歳
職業:村人
レベル:1→23
HP:130 → 2990
MP:30 → 690
耐久:21 → 483
筋力:18 → 414
敏捷:23 → 529
知力:10 → 230
魔力:5 → 115
幸運:28
スキル習得:「投擲術」「見切り」「仕掛け屋の直感」「斥候の足」
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名前:セオドリック・エヴァンシャー
年齢:31歳
職業:魔導技術者
レベル:1
HP:60
MP:80
耐久:8
筋力:12
敏捷:9
知力:48
魔力:10
幸運:10
スキル:〈魔導設計〉
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抑制:任意で力を抑える。対象に合わせられる。
調理技術:調理が上手くなる。食材を発見しやすくなる。
ストレージ:異空に収納する事が出来る。知力+魔力の合計値を高さ・幅・奥行きに割り振れる。(現在は、高さ163*幅500*奥行き200mmの棚)
投擲術:投擲武器の制度・軌道予測が向上する。
見切り;動きの初動を察知する。
仕掛け屋の直感;仕掛けを見抜く。
斥候の足:地形や障害物を活用した機動力が向上する。
魔導設計:魔を導き、設計する能力。※努力で磨いた素養。
ステータスは元の能力にかけられる係数。基準値は先天的な素質。
素養を磨けば出力は増す。
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彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
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【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
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ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
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ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
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