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変形は男のロマン

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「取った!」

 キィィィン!

「だ、だにぃ!?」
 いい感じの見応えのある攻防だったのだが、最終的にノアが槍を1/3程の所でぶった斬った。
 そのまま棒で殴ることも出来たと思うんだが、戦意喪失してしまったようだ。やはり突き一辺倒ではなぁ、あれは俺が悪いんじゃないただの修行不足だ。

「はぁっはぁっ、次は誰だい?」
「おおう!おいどんがいくばい!目覚めるんじゃ!マグニートータス」
 お前そんな喋り方してなかっただろ。斧戦士はたった一日で大食いキャラを確立してしまったようだ。

「ふふっ、力任せのままじゃ僕には勝てないよ」
「だらぁ!しゃーしいわ!くるぞ!」
 何言ってんのかわかんねぇよ、なんであんなに訛るんだよ。俺の知らない効果付けるのやめてくれる?

「でりゃぁぁぁ!!!」
 斧戦士の振り下ろし!以前と同じ力任せの単純な攻撃だが速度が違う、パワーが違う、何より俺謹製の斧がデカイ!

 ズドォォォン!!

 地面を割って粉塵と共に小さな石が凶器となって飛び散る範囲攻撃!しかしそこには既にノアの姿は無かった。

「それじゃ勝てないって言ったよね?」
 斧戦士の腹に突き刺さる膝。前回と同じ攻撃で動けなくなってしまった。
 あれは屈辱だな、腕しか強化してないから仕方ないんだが。


「ふふふ。力が上がっただけの様だね。今回も僕の勝ちかな」
「ヘヘッ!そう侮ってもらっちゃあ困るってもんさ。いくぜぇエリザベート!2人でぶっ飛ばすぜ!」
 短剣使いの脚が盛り上がりズボンが裂ける。あいつは毎回ズボンを駄目にするつもりなのか、そして謎のキャラ付けやめろ。

「しゃあ!!」
 ブシュゥゥ!!強大化した脚から蒸気が噴き出して一気に加速する!
 迎え撃つためにすぐさま構えるノアだが――!
「消えた!?」
「上から来るぞ!」
 俺の言葉に反応したノアが視線を上げる!馬鹿め!嘘に決まってんだろ!
「ここだぜ!」
 背後に回っていた短剣使いが見えた!
「くらいな!絶翔刃!」

 バシュゥゥゥ!噴出口から圧縮された蒸気が吹き出し、凄まじい反作用を生み出した!ノアの背中へと一直線に再加速する!
「はっ!」
 しかしノアは読んでいたかの様に垂直ジャンプ!

 ドガン!
 激しい音がして短剣使いが壁に埋まっていた。
「ぐぼっ……。ハニー、またやっちまったな」
 まぁ、いきなり脚だけ強化されてもな……。仕方ないさ。

「ははっ!君は前回も後ろを取りに来たからね。姿が見えなくなった時には後ろに回られると確信したよ」


 やばいぞ、思ったよりノアが強い。というか半日程度で使いこなせる訳がなかったんだ。これは不味い。

「ノア様がんばってー!」
「ありがとう!すぐに残りの2人もやっつけるよ」

 あぁっ!やめろ!そういうのやめろ!

「マリーネ!?」
「くそっ、僕が出る!もう我慢も限界さ!僕に力を!キャプテン・ガイスト!」

 次に弓兵が前に出て左手が変化する。いやお前遠距離型だろ、なんで前に出るんだよ。1:1にしてもせめて距離を取れよ。

「君は弓を使っていたね」
「ふん!これは裁きだ!セイクリッド・バレット!」
 左腕に仕込まれた発射装置を真っ直ぐ向けて矢が放たれる。通常の弓を遥かに上回る初速・高威力・長射程を誇る精密射撃だ。

「よっと」
 しかし簡単に回避されてしまう。そりゃあ真っ直ぐ飛ばすだけなんだから、ある程度のレベル相手に真正面からではそうなるだろ。

 弓兵は慌てて次の弓を用意するが圧倒的に遅い。ノアは悠々と首筋に剣を当てた。
「降参、でいいよね?」
「こんなのおかしい!僕の正義が敗れるなんて!あり得ない!アリエナァァイ!」
「しかたない」
 ノアは剣の腹でぶん殴って騒ぐ弓兵の意識を奪った。
 人は嫉妬でこんなに頭がおかしくなるのか。こわいなーとづまりすとこ。


「なんなんだよこいつ!俺達は力を手に入れたのに!」
「真打ち登場かな?がっかりさせないで欲しいね」

 やべぇな。剣使いは片手が剣になるだけの最弱キャラだ。このままでは不味い。
「ノア様~!あっとひっとり!あっとひっとり!」
「マリーネ!?がはぁっ!」
 マリーネの応援!効果は抜群だ!直接攻撃はやめろ!

「ふふふ。ポール、戦いは単純な力で決まるものじゃないんだよ。約束は守ってもらうからね」
「ぐぬぬぬぬぬ!おのれぇぇぇ!剣士風情が図に乗りおって!」

 ここまで四人抜きで余裕のノア、ビビってる上に心を砕かれた最弱の剣使い。もはやこれまでか。
 こうなったらあいつに賭けるしかない。ビビらず持てる力を振り絞れ!青春の炎を燃やすんだ!

「剣使い!マリーネはそいつと一緒に風呂に入ったらしいぞ!」
「は?……え?………」
「その後は部屋に泊まっていったんだ!そして、今マリーネはそいつを応援している!お前はもうお終りなんだよ!」
「え、え、えあ?」
「マリーネは奪われた!お前たちの青春は汚された!もうお前たちのヒロインはいないんだ!!」
「あ、あああああ!ああああああああ!!」
「復讐しろ!報いを与えるんだ!!」
「ちょっとポール!」
「ポールさん何を!?」

 剣使いは脳を破壊されてうずくまってしまった。おい馬鹿戦え、戦わなければ生き残れない!
「俺は…、俺達は……」
「もう終わらせよう、君たちはポールに利用されていたんだ」
「馬鹿なことを言うな!お前たちにどれだけ金をかけたと思っている!(かけてない)立て!立て立て!立つんだジョー!奪われたままでいいのか!」
「そうだ……、俺は………」
 ゆらりと立ち上がった剣使い。その目は嫉妬・絶望・憎悪、練り上げられた悪意に彩られ怪しく輝いていた。
「もうこれで終わってもいい。だから、」

 ズズ……ズズズ……!

 何かが蠢く音が聞こえた。いや、それだけじゃない。剣使いの肩が痙攣し、服の下を"何か"が這い回っている。
 まるで、見えない獣が身体の中を食い破ろうとしているかのように。
「馬鹿な!腕だけのはずだ!悪魔の細胞が侵食したとでもいうのか!」

「……クク、ハハ……ハハハハハ!!」
 狂気に満ちた哄笑とともに、異変は一気に加速した。
 バキィッ!
 何かが砕ける音がする。
 剣使いの右腕の付け根――肩が裂け、剣のような黒い刃が突き出た。
 裂けた傷口から黒い筋が広がり、まるで血管のように首、胸、背中へと這い進んでいく。
 皮膚が破れ、その下から覗くのは鈍く光る刃。
「やめろ!戻れなくなるぞ!」
 何も分からんがそんな気がする!たぶん!

 だが、男は止まらない。
 むしろ、自ら進んでその力に身を委ねている。
 バキィッ!
 重要な何かがまた壊れた。背中が裂け、そこから巨大な刃が突き出る。
 両腕は関節ごと変質し、巨大な刃と化した。
 胴体に走る無数の亀裂からは黒く硬質な装甲のようなものが現れ、足元には変質した肉の破片が転がる。
 それでも、剣使いはなお笑っていた。

「もう、いいんだ……」
 ジャキン……!
 最後の変化が起こる。
 顔が裂け、口が異様に広がる。牙が鋭く伸び、瞳は光を失い、刃のような冷たい輝きを宿していた。

「ポール!彼に何をしたの!?」
「そんなになるような事はしていない。そうなったのはそいつ自身の選択だ」
「煽ってたじゃないか!もう決闘なんかじゃないよ!彼を止めよう!」
「お前がパンイチ疾走すると誓うならいいぞ」
「絶対イヤ!」
「強情なやつだ、ヤレ!」
『ギィィィィアアア!!』
 まるで金属同士が擦れ合い軋むような絶叫!速い!強い!デカイ!これは勝ったなガハハ!

「その程度で!」
 それでも剣を合わせるノア。どこまでその威勢が続くかな?
『ギィィィィ!』
「仕方ない、本気で行くよ。サーブル・ドゥ・シュペール!」
 流れるような剣舞!美しささえ感じさせる剣技だが、その攻撃は獰猛な野獣のようだ!剣使いの装甲の隙間を縫って剣身が突き刺さる!

『ギギギ……、この程度のかすり傷で勝てると思っているのか』
 全身から血が噴き出すが剣使いに怯みはない。大丈夫だ、冷静に戦え、軽装のノアは一撃当たれば終わりなんだ。

「いいだろう、君の剣も斬り飛ばしてあげる。あの槍使いの様に」
『あの槍使いのように……?クマリンのことか…、クマリンのことか───────っ!!!!!』
 激昂した剣使いが両腕の剣を紅く輝かせて迫る!ヒートブレードだ!
 バシュゥゥゥ!!
 剣の付け根から激しく蒸気が噴き出す!鋼鉄すら溶ける超高温に達している!

『ギィィィィ!ツインレンド!』
 両腕が同時に振り抜かれ、左右の剣がまるで鏡のように対照的な弧を描く!
 真紅に輝く刃が軌跡を残し、残光がその鋭さを際立たせた!

「ヴィトレス・デュ・フラッシュ!」
 細剣白鷺が煌めく!神速の切り払い!両者必殺の一撃が交差する!

 キキィィン!!

『ば、馬鹿な……』
「ふぅ、今の攻撃は素晴らしかったよ。本当に素晴らしい一撃だった」
 巨大な二本の剣が切り落とされた。白鷺は無事だ。
 なぜこうなったのか?高温で脆くなってたからに決まってるだろ。ヒートブレードは無意味、はっきり分かんだよね。

「しばらく眠っていて」
 剣の腹で叩いて気を失わせた。戦いは終わりだ。





「途中でマリーネの声援が入って血を吐いてたから反則で無効試合な」
「そんなのってないよ!」
絶対に譲れない戦いが始まる。
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