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第1章
#4.白雪姫
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それから伯母は病院の簡易ベッドで寝泊まりをするようになり、わたしは迎えに来た母と共に伯父の家で過ごした。その間も琴子の容態は変わることなく、眠り続けたままだった。
そして事故から一週間後に、彼女は帰らぬ人となってしまった。
その晩、彼女の通夜が執り行われた。できるだけ小規模でという伯母の希望により、葬儀は自宅で行うことにした。葬儀中の張りつめた空気にわたしは耐えられなくなり、外へ飛び出した。
玄関先に近所の高校の制服を着て立ち尽くす青年を見つけた。それが彼、志乃だった。彼は立ち尽くしたまま、ぼうっと宙を見つめていた。
「あの、大丈夫ですか?」
思わず声を掛けてしまった。そうしなければいけないような気がしたから。
「大丈夫、ありがとう。君、近所の子?」
「いとこです。下野弥代って言います」
ああ、いとこか、とぽつりと呟いたまま彼は黙ってしまった。その時、玄関へ客人を見送りに来た伯父に声を掛けられ、わたしたちは家内へと上がった。
伯父は彼に力なく微笑むと、そのまま背を向け自室に籠ってしまった。
彼は棺桶の前に座ると、中に眠る琴子の顔をしばらく見つめていた。そして彼女の唇に触れるだけのキスを落として、ごめんと小さく零し立ち上がった。わたしはその背中に向かって独り言のように呟いた。
「白雪姫なら、生き返るのにね……」
その言葉に彼は一度驚いたような表情を浮かべた後、力なく笑ってこう言った。
「僕は王子様には、なれなかったな」
そして踵を返し廊下で伯母に一礼すると、足早に家を後にしてしまった。追いかけなくては、なぜだかそう思った。今追いかけなくては、彼とはもう二度と会えないような気がした。彼が消えてしまうのではないかと不安に思った。
彼の後を追うようにわたしも家を飛び出した。数十メートル先を歩く彼の後姿を視界に捉え、急いで駆け寄った。わたしの足音に気づいた彼は立ち止まりこちらを振り返る。わたしは夢中でその腕を掴んだ。彼は掴まれた腕を払いのけることもなく、ただ黙ってわたしを見ていた。そしてしばらくの沈黙があたりを包み込んだ。
無我夢中で追ってきてしまったせいで掛ける言葉も見当たらない。
突然、彼の暖かい手がわたしの頭へ乗せられる。ハッとして顔を上げた。視線の先の彼は今にも泣きだしそうな顔で、笑っていた。
「お前も、僕と同じなんだろう?」
その言葉に、わたしの心臓は一度大きくドクンと跳ねた。夕暮れを背に微笑む彼が儚く、とても美しかった。
思えばわたしは、この瞬間から彼に恋心を抱いていたのかもしれない。
それから伯母は病院の簡易ベッドで寝泊まりをするようになり、わたしは迎えに来た母と共に伯父の家で過ごした。その間も琴子の容態は変わることなく、眠り続けたままだった。
そして事故から一週間後に、彼女は帰らぬ人となってしまった。
その晩、彼女の通夜が執り行われた。できるだけ小規模でという伯母の希望により、葬儀は自宅で行うことにした。葬儀中の張りつめた空気にわたしは耐えられなくなり、外へ飛び出した。
玄関先に近所の高校の制服を着て立ち尽くす青年を見つけた。それが彼、志乃だった。彼は立ち尽くしたまま、ぼうっと宙を見つめていた。
「あの、大丈夫ですか?」
思わず声を掛けてしまった。そうしなければいけないような気がしたから。
「大丈夫、ありがとう。君、近所の子?」
「いとこです。下野弥代って言います」
ああ、いとこか、とぽつりと呟いたまま彼は黙ってしまった。その時、玄関へ客人を見送りに来た伯父に声を掛けられ、わたしたちは家内へと上がった。
伯父は彼に力なく微笑むと、そのまま背を向け自室に籠ってしまった。
彼は棺桶の前に座ると、中に眠る琴子の顔をしばらく見つめていた。そして彼女の唇に触れるだけのキスを落として、ごめんと小さく零し立ち上がった。わたしはその背中に向かって独り言のように呟いた。
「白雪姫なら、生き返るのにね……」
その言葉に彼は一度驚いたような表情を浮かべた後、力なく笑ってこう言った。
「僕は王子様には、なれなかったな」
そして踵を返し廊下で伯母に一礼すると、足早に家を後にしてしまった。追いかけなくては、なぜだかそう思った。今追いかけなくては、彼とはもう二度と会えないような気がした。彼が消えてしまうのではないかと不安に思った。
彼の後を追うようにわたしも家を飛び出した。数十メートル先を歩く彼の後姿を視界に捉え、急いで駆け寄った。わたしの足音に気づいた彼は立ち止まりこちらを振り返る。わたしは夢中でその腕を掴んだ。彼は掴まれた腕を払いのけることもなく、ただ黙ってわたしを見ていた。そしてしばらくの沈黙があたりを包み込んだ。
無我夢中で追ってきてしまったせいで掛ける言葉も見当たらない。
突然、彼の暖かい手がわたしの頭へ乗せられる。ハッとして顔を上げた。視線の先の彼は今にも泣きだしそうな顔で、笑っていた。
「お前も、僕と同じなんだろう?」
その言葉に、わたしの心臓は一度大きくドクンと跳ねた。夕暮れを背に微笑む彼が儚く、とても美しかった。
思えばわたしは、この瞬間から彼に恋心を抱いていたのかもしれない。
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