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第1章
#9.弥代二号
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お待たせとひとこと声をかけ、助手席へ乗り込む。おそらく十分は待たせただろうに、彼は怒ることもなく短い返事だけをすると、車を発車させた。
しばらく公道を走ったあたりで彼がわたしに声をかける。
「なんでメイクしてんの?」
その言葉に少しばかり肩がぴくりと震えた。あなたと二人で並んで歩くのなら、少しでも可愛くしなくてはという使命感に駆られただなんて、口が裂けても言えない。
「たまには悪くないかな、と……」
「ああ、そういうこと。デートだからってはしゃいじゃってるのかと思った」
そう言って笑う彼の顔を唖然として見つめた。その視線に気づいた彼は一度笑顔を強張らせたが、またすぐに笑顔に戻ると、似たようなもんだろと付け加えた。
「わたし、何も言ってないけど……」
「顔が言ってるんだって……」
そう言って彼は、からからと気持ちよく笑う。今日の彼はなんだかとても上機嫌だ。久しぶりの休日だからだろうか。なんにせよ、彼が楽しそうにしている姿を見るのは、わたしとしてもうれしい限りだった。
しばらく車を走らせ大通りに出た。この通りの先にある大型ショッピングセンターへ向かっているのだろう。そういえば先日、パソコンの調子が悪いとか何とか、そんなことを言っていたような気がする。どうやら本当に買い物に付き合わされているだけのようだ。
ショッピングセンターに到着すると、真っ先に家電量販店へと向かった。彼が店内でパソコンを物色している間、わたしはふらふらと隣のペットショップへ向かった。
入ってすぐにショーウィンドウ越しに一匹の子犬と目が合う。オスのミニチュアシュナウザーだった。表に貼られているネームプレートには、犬種と生年月日、そして大きく赤字で値引きの文字がある。
どうやら既に齢一才を超えているらしい。
よく見ると誕生日がわたしと同じだった。なんとなく同情にも似た感情が芽生えてしまい、目が離せずにいた。
「なに、飼いたいの?」
いつの間にか背後に立っていた志乃くんに声を掛けられた。
「ほら見て。誕生日がわたしと同じ」
「じゃあ、弥代二号だ」
彼は楽しそうにわたしの名を呼びながらガラス越しに子犬の体を撫でていた。そんな顔もするのか、などと考えながら見つめると、ぱっと振り返った彼が言う。
「売れ残って可哀相だし、連れて帰ろうか」
そしてひとつの迷いもなく、レジカウンターへと向かっていった。慌てて後を追う。彼は店員に話をつけると、着々と子犬を連れ帰る手続きを始めてしまった。
お待たせとひとこと声をかけ、助手席へ乗り込む。おそらく十分は待たせただろうに、彼は怒ることもなく短い返事だけをすると、車を発車させた。
しばらく公道を走ったあたりで彼がわたしに声をかける。
「なんでメイクしてんの?」
その言葉に少しばかり肩がぴくりと震えた。あなたと二人で並んで歩くのなら、少しでも可愛くしなくてはという使命感に駆られただなんて、口が裂けても言えない。
「たまには悪くないかな、と……」
「ああ、そういうこと。デートだからってはしゃいじゃってるのかと思った」
そう言って笑う彼の顔を唖然として見つめた。その視線に気づいた彼は一度笑顔を強張らせたが、またすぐに笑顔に戻ると、似たようなもんだろと付け加えた。
「わたし、何も言ってないけど……」
「顔が言ってるんだって……」
そう言って彼は、からからと気持ちよく笑う。今日の彼はなんだかとても上機嫌だ。久しぶりの休日だからだろうか。なんにせよ、彼が楽しそうにしている姿を見るのは、わたしとしてもうれしい限りだった。
しばらく車を走らせ大通りに出た。この通りの先にある大型ショッピングセンターへ向かっているのだろう。そういえば先日、パソコンの調子が悪いとか何とか、そんなことを言っていたような気がする。どうやら本当に買い物に付き合わされているだけのようだ。
ショッピングセンターに到着すると、真っ先に家電量販店へと向かった。彼が店内でパソコンを物色している間、わたしはふらふらと隣のペットショップへ向かった。
入ってすぐにショーウィンドウ越しに一匹の子犬と目が合う。オスのミニチュアシュナウザーだった。表に貼られているネームプレートには、犬種と生年月日、そして大きく赤字で値引きの文字がある。
どうやら既に齢一才を超えているらしい。
よく見ると誕生日がわたしと同じだった。なんとなく同情にも似た感情が芽生えてしまい、目が離せずにいた。
「なに、飼いたいの?」
いつの間にか背後に立っていた志乃くんに声を掛けられた。
「ほら見て。誕生日がわたしと同じ」
「じゃあ、弥代二号だ」
彼は楽しそうにわたしの名を呼びながらガラス越しに子犬の体を撫でていた。そんな顔もするのか、などと考えながら見つめると、ぱっと振り返った彼が言う。
「売れ残って可哀相だし、連れて帰ろうか」
そしてひとつの迷いもなく、レジカウンターへと向かっていった。慌てて後を追う。彼は店員に話をつけると、着々と子犬を連れ帰る手続きを始めてしまった。
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