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第1章
#10.新しい家族
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「悪いけど、餌とか首輪とか適当に選んできて。お前の好きなやつでいいからさ」
言うと彼はカウンターにある書類へ何かを書き始める。わたしは店員さんの案内で、飼育に必要な道具や餌、おやつなどをどんどんとカートへ詰め込んだ。
会計へ向かうと、子犬の代金も含め、学生のわたしにはとても手が出ないほどの料金が電子パネルに表示される。愕然としているわたしを後目に、彼はそれらをまとめてカードで支払い、子犬の入れられたショップの箱をわたしに持たせた。
箱の中では子犬がせわしなく動いている。時折、換気のために開けられた直径二センチほどの穴から小さな鼻を覗かせては、くんくんと外の匂いを嗅いだ。
「動物にも健康保険があるんだって。弥代、知ってた?」
「そうなんだ、知らなかった」
「さっき加入手続きしてきたけど、何日かしたら家に保険証届くってよ。すごいよな」
楽しそうに話す彼に、わたしも笑顔になった。
意外なことに、彼は動物が好きなようだ。こんなにもあっさり動物の飼育をはじめることになるとは夢にも思わなかったが、これからのことを考えると、楽しみで仕方がない。
子犬を連れ帰るため、それ以降の買い物を切り上げ自宅へ戻った。
帰宅すると、さっそく子犬のためのケージやトイレ、餌や水飲みなどを用意する。普段なら見向きもしない彼も、今日ばかりは率先して作業を進めてくれた。
ある程度の用意と片付けを済ませると、子犬を箱から出しリビングへ連れた。子犬は辺りを警戒しながら歩き回っている。
「名前、弥代がつけてよ」
そう言うと彼は子犬とじゃれつき始めた。わたしはその様子を見ながら不意に口に出す。
「よつば……」
その言葉に彼は、ちらりとこっちを見た。
「ああ、いいんじゃない?」
「じゃあ、四葉にする」
「はーい。よろしくな、四葉~」
すると、ポケットからスマートフォンを取り出し何かを打ち込み始める彼。不思議そうな顔をして見つめるわたしに気づいたようで、付け加えて説明をした。
「さっき保険がどうとか言ってただろ? あれに名前入れなきゃいけなくてさ。決まってなかったから空欄にしておいたんだよ」
そしてわたしに画面を見せた。画面には大きく“どうぶつのお名前【四葉】ちゃん”と記されていた。
「本当だ、すごい!」
「保険証、写真付きで送ってくるんだって」
「へえ、楽しみだね」
上機嫌で話すわたしに、彼もにこりと微笑んだ。
今日から一緒に住まう家族が増えるのだと考えると、とても不思議な気持ちになった。もう彼の遅い帰りをひとりぼっちで待つことも、ひとりの休日を虚無にまみれて過ごすこともないのだと思うと、なんだか心強くもあった。
「悪いけど、餌とか首輪とか適当に選んできて。お前の好きなやつでいいからさ」
言うと彼はカウンターにある書類へ何かを書き始める。わたしは店員さんの案内で、飼育に必要な道具や餌、おやつなどをどんどんとカートへ詰め込んだ。
会計へ向かうと、子犬の代金も含め、学生のわたしにはとても手が出ないほどの料金が電子パネルに表示される。愕然としているわたしを後目に、彼はそれらをまとめてカードで支払い、子犬の入れられたショップの箱をわたしに持たせた。
箱の中では子犬がせわしなく動いている。時折、換気のために開けられた直径二センチほどの穴から小さな鼻を覗かせては、くんくんと外の匂いを嗅いだ。
「動物にも健康保険があるんだって。弥代、知ってた?」
「そうなんだ、知らなかった」
「さっき加入手続きしてきたけど、何日かしたら家に保険証届くってよ。すごいよな」
楽しそうに話す彼に、わたしも笑顔になった。
意外なことに、彼は動物が好きなようだ。こんなにもあっさり動物の飼育をはじめることになるとは夢にも思わなかったが、これからのことを考えると、楽しみで仕方がない。
子犬を連れ帰るため、それ以降の買い物を切り上げ自宅へ戻った。
帰宅すると、さっそく子犬のためのケージやトイレ、餌や水飲みなどを用意する。普段なら見向きもしない彼も、今日ばかりは率先して作業を進めてくれた。
ある程度の用意と片付けを済ませると、子犬を箱から出しリビングへ連れた。子犬は辺りを警戒しながら歩き回っている。
「名前、弥代がつけてよ」
そう言うと彼は子犬とじゃれつき始めた。わたしはその様子を見ながら不意に口に出す。
「よつば……」
その言葉に彼は、ちらりとこっちを見た。
「ああ、いいんじゃない?」
「じゃあ、四葉にする」
「はーい。よろしくな、四葉~」
すると、ポケットからスマートフォンを取り出し何かを打ち込み始める彼。不思議そうな顔をして見つめるわたしに気づいたようで、付け加えて説明をした。
「さっき保険がどうとか言ってただろ? あれに名前入れなきゃいけなくてさ。決まってなかったから空欄にしておいたんだよ」
そしてわたしに画面を見せた。画面には大きく“どうぶつのお名前【四葉】ちゃん”と記されていた。
「本当だ、すごい!」
「保険証、写真付きで送ってくるんだって」
「へえ、楽しみだね」
上機嫌で話すわたしに、彼もにこりと微笑んだ。
今日から一緒に住まう家族が増えるのだと考えると、とても不思議な気持ちになった。もう彼の遅い帰りをひとりぼっちで待つことも、ひとりの休日を虚無にまみれて過ごすこともないのだと思うと、なんだか心強くもあった。
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