痛み。

相模とまこ

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第2章

#3.志乃の想い(3)

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仏間にはまだ彼女の遺体が眠っていた。棺桶に横たわる彼女は綺麗な花に囲まれ、まるで眠っているようだった。

僕は彼女の頬に手を添えた。

余りにも綺麗な顔をしているものだから、もしかしたらまだ生きているのかもしれないという錯覚に陥った。

しかし手のひらに伝わる温度が、それは夢だと教えてくれた。

不思議なことに涙も流れない。僕はこんなにも冷たい人間だったのだろうか。

そして僕は、彼女にそっと唇を重ねた。

やはり、唇に伝わる体温は人間のものとは到底思えないほど冷たいものだった。


「白雪姫なら、生き返るのにね……」


背後から小さな声がした。

驚き振り返ると、襖に背を預けて俯く少女が居た。

そのかわいらしい姿と子供ながらの発想に思わず笑みが零れた。


「僕は王子様には、なれなかったな」


彼女にしてしまったことは、どれだけ償っても許されることはないのだ。

もし少女の言うように、彼女が、僕が、この現実がおとぎ話の世界なら、どれだけ救われたことだろう。

表すことのできない憤りに悔しさが込み上げた。

これ以上ここにいては、心が壊れてしまうような気がした。

少女に背を向けると、一刻も早くこの場から立ち去りたい一心で足早に彼女の家を後にした。

今すぐ彼女のもとへ行けたなら、消えてしまえたなら、そんなことを考えながら行く宛てもなくひたすら俯いて歩いた。

ふと背後にもうひとつ足音があることに気が付き、くるりと後ろを振り返る。

先ほどの少女が立っていた。

少女は、困惑した様子できょろきょろと辺りを見回していた。

きっとこの子も不安なんだろう。

突然たいせつな人を亡くして、はじめて人の人生の終わりというものに直面して、どうしようもなく苦しいのだろう。

そしてはじめて自分の感情の正体に気づく。

そうか、僕は不安だったんだ。

気づけば少女の頭を撫でていた。驚いたように目を丸くしてこちらを見る少女に、僕は問いかける。


「お前も、僕と同じなんだろう?」


少女はさらに目を丸くした。

吸い込まれてしまいそうな程澄んだその瞳から、目を反らすことは出来なかった。

それから僕は少女を家の前まで見送ると、再び帰路に就いた。

今度はしっかりと前を向いて、一歩一歩、踏みしめて歩いた。










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