痛み。

相模とまこ

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第2章

#9.変化する(2)

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それから数か月経ったある日、僕の勤務先に何の前触れもなく弥代が現れた。

入口のほうからか細い声で、こんにちは、と聞こえる。振り返ると彼女がいた。

ドクリと跳ねる心臓をごまかすように僕は彼女を睨みつけた。


「なんだよ」


我ながら格好悪いと思った。

子供のような照れ隠しだ。

背後では上司や同僚らの野次が飛び交っていた。僕は彼らに簡単な挨拶をすると、足早に退社した。

こんな場面をいつまでも見せていられるかという気持ちが強かった。

小走りで僕の後を追う彼女。

出会ったあの頃を思い出す、懐かしい感覚に包まれた。

それから彼女の行きつけの喫茶店で食事を済ませ、帰宅した。

帰宅後、彼女はすぐに浴室へ向かうと入浴の準備を始めた。

いつ見ても家庭的で本当にできた子だと思う。

思えば、琴子にはこんな家庭的な一面は見られなかった。

弥代への思いを自覚してから、以前はどうして彼女を重ねていたのだろうと疑問にさえ思うほどだった。

彼女の気遣いで先に入浴を済ませた僕は、その足で彼女の部屋を訪れた。

下着一枚を身に纏ったその姿で彼女の前に現れるも、彼女は平然としている。

最初のうちはこんなことにもいちいち動揺していたのにと、少し微笑ましく思った。

入浴準備に忙しなく室内をうろつく彼女を始終眺めていた。

なぜだかとても愛しく思った。そしてそんな背中を見つめながら、いろんなことを思っていた。


「志乃くん……?」


気づけば彼女の顔が僕のすぐ目の前にあった。

考え事をしていたせいもあり思考が鈍っていた僕は、自分の感情にブレーキをかけることを忘れ、彼女の頬にそっと触れた。

彼女の表情が一瞬にして固まるのがわかった。

それと同時に我に返った僕は、咄嗟に下手な言い訳をした。


「ごめん。間違えた……」


弥代にだけは手を出してはいけないと硬く心に誓っていたのに、思考と現実の区別がつかず、彼女の表情を見るまでこれは僕の頭のなかでの出来事だと、とんでもない勘違いをしていた。

咄嗟に出たその言い訳に、彼女の瞳が曇ったのを感じた。

僕はいたたまれない気持ちに襲われ、その場を後にした。

リビングに着いた僕は棚からウイスキーのボトルとグラス、冷凍庫から球体の氷を出すと、先ほどのことを忘れようといわんばかりの勢いでそれらを飲み干した。

どうやって挽回しようか、どうやって彼女の機嫌を取り戻そうかと考えていると、冷凍庫に買い置きのカップアイスがあったことを思い出した。










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