痛み。

相模とまこ

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第2章

#8.変化する(1)

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本当にあいつにそっくりだ。

いつしか彼女と琴子を重ねては、心臓を掴まれたような感覚に襲われる。

何度間違いを犯そうとしたことか。何度彼女に触れてしまいそうになったことか。

そのたびに僕は、奥歯をぐっと噛み締めて感情を押し殺すのだった。

夜の世界で、遊ぶことさえも覚えた。

友人たちに誘われた食事会で僕に擦り寄る女性達に、適当にその晩だけの相手をしては連絡先も伝えずに別れていた。

そんなことを繰り返していても琴子を忘れることは叶わないと気づいてしまい、最近ではそんな遊びもしなくなった。

その代わりに僕には弥代がいる。

彼女にそっくりなこの子が僕のそばにいるだけで救われたような気がした。

また彼女との日々を取り戻せたのだと錯覚した。

琴子と弥代の違いといえば、趣味の面だけだった。

琴子は女性らしい趣味、おしゃれをしたり爪にマニキュアを塗ったり、そういうことが好きだった。

その点弥代はあまり積極的におしゃれをしない。

メイクもしなければ、マニキュアなんて持ってもいない。一言でいえば素朴な少女だった。

一度弥代に、おしゃれをしないのかと疑問を投げかけたことがある。

そのとき彼女は、地元の子はみんなこうだったからと答えたまま黙ってしまった。

そんなある春の日のこと。

この奇妙な共同生活が一年を迎えようとしていた頃、僕の言葉を気にしてか、弥代が突然ピアスを開けた。

最初のうちは両耳に一つずつ。

次第にそれは増えていき、今ではもう合計七つになっている。

そして、その頃から髪の色も、茶味がかった黒から鮮やかなミルクティー色へと変わった。

艶のある綺麗なストレートヘアも毛先がくるくると宙を舞うようなウェーブになり、とても以前までと同一人物だとは思えないほどだった。


「思い切ったな、急にどうしたんだ?」
「一緒にしないで欲しかったから」


そう呟くと彼女は俯いた。

言葉の意図が僕にはわからなかった。


「似合ってるよ」


そう笑いかけるが彼女からの返事はなかった。

それから彼女は少しずつ変わっていった。

おそらく、ようやく自分を出し始めたといったところだろう。

琴子が生きていたら……などと考えていた僕も、次第に弥代自身を見つめるようになっていた。

しかしそんな自分自身に戸惑いを隠せず、感情に蓋をするようになった。

認めたくない、認めてはいけない。

僕は彼女の死を一生背負っていかなければならないのだから。

そう言い聞かせ、自らを戒めた。










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