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第2章
#7.彼女
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弥代は日々の家事を淡々と熟しまじめで繊細で、とても不器用な性格だった。
芸術系のクラスに通っているらしく、時々塗料まみれになって帰宅することもあった。
どうやらアートやら手工芸とやらが好きらしい。
弥代の部屋には授業やコンクールに向けて描いた作品や、趣味で作ったアクセサリー、十センチくらいのミニチュアハウスなど、さまざまなもので溢れかえっていた。
僕は一度、彼女の作った作品を誤って踏んで壊してしまったことがある。
普段なら弥代の部屋に踏み入ったりはしないのだが、その日は何故だか作業に夢中になっている彼女の背中が気になって仕方がなかった。
こっそり覗いて満足したら帰ろうと、軽い気持ちで部屋に立ち入った。
そして棚に綺麗に並べてあったミニチュアの一部を床に落としたうえ、踏んでしまったのだ。
バキッという音に彼女はこちらを振り返る。
血の気が引くとはまさにこのことかというほど、自分が青ざめていくのを感じた。
急いでそれらを拾い上げるが、僕では手のつけようもない。
知識がないのは勿論だがパーツの一部が完全に折れてしまっていた。これでは修繕も不可能だろう。
僕は恐る恐る彼女に謝罪した。
しかし彼女は僕に対して怒りをぶつけるでもなく、悲しみを表すこともなく、あろうことか僕の心配をした。
「足ケガしなかった?」
「……へ? いや、してないけど……」
「ならよかった」
そう言って僕の手からそれらを受け取ると、机の上にそっと置いた。
僕にはなんとなくそれが怖かった。
彼女はこちらを振り返ると微笑みながら続けた。
「何か用事?」
「あー、弥代が何やってるのか気になって、覗きに来ただけ」
彼女は、そうなんだ、とだけ返すと再びキャンバスに向かった。
小さな背中越しに見える大きなキャンバスには夕日が描かれていた。
なんとなく見覚えのある風景だなと思いながら、僕は部屋を後にした。
その翌日、昼食を買いに立ち寄ったコンビニでプラスチック製のミニチュアハウスの入った食玩を見つけた。
罪滅ぼしのつもりで僕はそれを三つほど購入した。
帰宅後、リビングのテーブルの上にビニール袋に入れたままの食玩たちを無造作に置くと、弥代は興味深そうに袋を見つめた。
「なにこれ?」
「見たらわかるよ」
そしてごそごそと中身を引っ張り出す。
彼女はそれを見つめながらにこにことしていた。
それが子供用のおもちゃだということに気付いた彼女は、けらけらと笑いながらそれらすべてを受け取った。
「昨日のあれ、気にしてたんだ?」
「そんなんじゃないって……」
「ふふっ、ありがとう、志乃くん!」
大事そうにそれらを抱えたまま、彼女は部屋へと去っていった。
なんだか心が無図痒くなってしまった。
彼女はいつも見ていて気持ちのいいくらい綺麗な笑顔を僕に向ける。
その瞬間が僕は好きだった。
弥代は日々の家事を淡々と熟しまじめで繊細で、とても不器用な性格だった。
芸術系のクラスに通っているらしく、時々塗料まみれになって帰宅することもあった。
どうやらアートやら手工芸とやらが好きらしい。
弥代の部屋には授業やコンクールに向けて描いた作品や、趣味で作ったアクセサリー、十センチくらいのミニチュアハウスなど、さまざまなもので溢れかえっていた。
僕は一度、彼女の作った作品を誤って踏んで壊してしまったことがある。
普段なら弥代の部屋に踏み入ったりはしないのだが、その日は何故だか作業に夢中になっている彼女の背中が気になって仕方がなかった。
こっそり覗いて満足したら帰ろうと、軽い気持ちで部屋に立ち入った。
そして棚に綺麗に並べてあったミニチュアの一部を床に落としたうえ、踏んでしまったのだ。
バキッという音に彼女はこちらを振り返る。
血の気が引くとはまさにこのことかというほど、自分が青ざめていくのを感じた。
急いでそれらを拾い上げるが、僕では手のつけようもない。
知識がないのは勿論だがパーツの一部が完全に折れてしまっていた。これでは修繕も不可能だろう。
僕は恐る恐る彼女に謝罪した。
しかし彼女は僕に対して怒りをぶつけるでもなく、悲しみを表すこともなく、あろうことか僕の心配をした。
「足ケガしなかった?」
「……へ? いや、してないけど……」
「ならよかった」
そう言って僕の手からそれらを受け取ると、机の上にそっと置いた。
僕にはなんとなくそれが怖かった。
彼女はこちらを振り返ると微笑みながら続けた。
「何か用事?」
「あー、弥代が何やってるのか気になって、覗きに来ただけ」
彼女は、そうなんだ、とだけ返すと再びキャンバスに向かった。
小さな背中越しに見える大きなキャンバスには夕日が描かれていた。
なんとなく見覚えのある風景だなと思いながら、僕は部屋を後にした。
その翌日、昼食を買いに立ち寄ったコンビニでプラスチック製のミニチュアハウスの入った食玩を見つけた。
罪滅ぼしのつもりで僕はそれを三つほど購入した。
帰宅後、リビングのテーブルの上にビニール袋に入れたままの食玩たちを無造作に置くと、弥代は興味深そうに袋を見つめた。
「なにこれ?」
「見たらわかるよ」
そしてごそごそと中身を引っ張り出す。
彼女はそれを見つめながらにこにことしていた。
それが子供用のおもちゃだということに気付いた彼女は、けらけらと笑いながらそれらすべてを受け取った。
「昨日のあれ、気にしてたんだ?」
「そんなんじゃないって……」
「ふふっ、ありがとう、志乃くん!」
大事そうにそれらを抱えたまま、彼女は部屋へと去っていった。
なんだか心が無図痒くなってしまった。
彼女はいつも見ていて気持ちのいいくらい綺麗な笑顔を僕に向ける。
その瞬間が僕は好きだった。
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