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#07.憤り
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北海道。修学旅行の一日目は小樽市内の観光だった。とはいえ、空港からの移動時間がとても長かったため、自由行動として与えられた時間はわずか一時間半。
この旅行はスキー合宿がメインのため、四日間のうちに個人が自由に遊びに出られる時間はこの一時間半と、帰りの空港での一時間のみ。これほど制限の多い修学旅行があったものかと文句の一つでもぶつけてやりたいところではあったが、今の僕は柄にもなく浮かれていた。
生まれて初めての雪の大地、スキー、新鮮な空気、どれもが胸を弾ませた。加えて隣には親友がいる。心躍らないはずがなかった。
小樽市内では限られた時間で慌ただしく観光をした。僕がどうしても外せないと無理を言って親友を連れ出したのは、オルゴール堂。
そこは外とは切り離されたような幻想的な世界が広がっていた。様々な形を成したオルゴールたちは、どれひとつとして同じ音色を奏でない。とても興味深かった。
集合時間の二十分前になり、僕たちは土産物屋に向かった。ご当地のキーホルダーやティーシャツ、お菓子などを眺めながら二人で色々な話をした。
数分が経った頃ふと後ろを振り返るが、親友の姿が消えていた。すぐ近くから彼女の笑い声が聞こえる。僕は何気なくその声のする方へと歩き出した。
そこには親友と、その恋人の姿があった。
彼は何やら彼女に声を掛けながら、そっと彼女の頭に触れた。彼女もその手を受け入れたまま、少し紅潮した顔で彼を見つめていた。
胸が締め付けられるのを感じた。同時に僅かな苛立ちを覚えた。
感情を隠すように、僕は二人から出来るだけ離れた位置の陳列棚を見ていた。見ているはずなのに、視界が物を捉えてくれない。
彼が親友に想いを寄せていることは前から分かっていたことだし、親友がそれに対して満更でもないと思っていたことも分かっていた。
以前から二人の距離は近くにあったのに、どうして今更こんなことで傷ついてしまっているのだろう。
悶々としていると、背後から声を掛けられた。
「お土産、決まった?」
気付けば親友は僕のすぐ後ろに立っていた。
「愛羅ちゃんは買わないの?」
「うーん、まあ、空港で何か適当に買うかな」
「じゃあ僕もその時でいい」
「そう?」
先程のことが頭の中をぐるぐると駆け巡る。そのせいで親友の顔をまっすぐに見ることが出来ない。
時間もギリギリに押し迫っていたため、僕たちはバスへ戻ることにした。親友はその間もいつもと変わらず、冗談を織り交ぜながら楽しそうに話をしていた。
僕はそんな彼女に対し、自分の気持ちを誤魔化すように作り笑いを浮かべて相槌を打っていた。
ホテルに着くなり、学校指定のジャージへと着替えた。
何をしていても、あの光景が頭にこびり付いて離れない。そのせいで、夕食もろくに喉を通りはしなかった。食事も半ばに切り上げ部屋に戻り、さっさと入浴を済ませた。
親友が入浴を済ませている間、僕は自分のベッドに転がり、スマートフォンの液晶画面を眺めたりしていたが、何故だか急に心細くなり、親友のベッドに移った。
浴室からは、彼女がシャワーを流す音が聞こえる。
枕をぬいぐるみ代わりに抱いて、彼女の帰りを待っていた。一人になると考えてしまうのはやはり彼女のこと、そして、彼のこと。
やはり、僕の親友に対するこの感情は、恋心であり、あってはいけないものだったのだろう。二人の邪魔をしたい訳ではないし、僕にはまだ友達という立ち位置が残されている。
それでいい、それでいいんだと言い聞かせながら、遠のいていく意識の中重たい瞼を閉じた。
北海道。修学旅行の一日目は小樽市内の観光だった。とはいえ、空港からの移動時間がとても長かったため、自由行動として与えられた時間はわずか一時間半。
この旅行はスキー合宿がメインのため、四日間のうちに個人が自由に遊びに出られる時間はこの一時間半と、帰りの空港での一時間のみ。これほど制限の多い修学旅行があったものかと文句の一つでもぶつけてやりたいところではあったが、今の僕は柄にもなく浮かれていた。
生まれて初めての雪の大地、スキー、新鮮な空気、どれもが胸を弾ませた。加えて隣には親友がいる。心躍らないはずがなかった。
小樽市内では限られた時間で慌ただしく観光をした。僕がどうしても外せないと無理を言って親友を連れ出したのは、オルゴール堂。
そこは外とは切り離されたような幻想的な世界が広がっていた。様々な形を成したオルゴールたちは、どれひとつとして同じ音色を奏でない。とても興味深かった。
集合時間の二十分前になり、僕たちは土産物屋に向かった。ご当地のキーホルダーやティーシャツ、お菓子などを眺めながら二人で色々な話をした。
数分が経った頃ふと後ろを振り返るが、親友の姿が消えていた。すぐ近くから彼女の笑い声が聞こえる。僕は何気なくその声のする方へと歩き出した。
そこには親友と、その恋人の姿があった。
彼は何やら彼女に声を掛けながら、そっと彼女の頭に触れた。彼女もその手を受け入れたまま、少し紅潮した顔で彼を見つめていた。
胸が締め付けられるのを感じた。同時に僅かな苛立ちを覚えた。
感情を隠すように、僕は二人から出来るだけ離れた位置の陳列棚を見ていた。見ているはずなのに、視界が物を捉えてくれない。
彼が親友に想いを寄せていることは前から分かっていたことだし、親友がそれに対して満更でもないと思っていたことも分かっていた。
以前から二人の距離は近くにあったのに、どうして今更こんなことで傷ついてしまっているのだろう。
悶々としていると、背後から声を掛けられた。
「お土産、決まった?」
気付けば親友は僕のすぐ後ろに立っていた。
「愛羅ちゃんは買わないの?」
「うーん、まあ、空港で何か適当に買うかな」
「じゃあ僕もその時でいい」
「そう?」
先程のことが頭の中をぐるぐると駆け巡る。そのせいで親友の顔をまっすぐに見ることが出来ない。
時間もギリギリに押し迫っていたため、僕たちはバスへ戻ることにした。親友はその間もいつもと変わらず、冗談を織り交ぜながら楽しそうに話をしていた。
僕はそんな彼女に対し、自分の気持ちを誤魔化すように作り笑いを浮かべて相槌を打っていた。
ホテルに着くなり、学校指定のジャージへと着替えた。
何をしていても、あの光景が頭にこびり付いて離れない。そのせいで、夕食もろくに喉を通りはしなかった。食事も半ばに切り上げ部屋に戻り、さっさと入浴を済ませた。
親友が入浴を済ませている間、僕は自分のベッドに転がり、スマートフォンの液晶画面を眺めたりしていたが、何故だか急に心細くなり、親友のベッドに移った。
浴室からは、彼女がシャワーを流す音が聞こえる。
枕をぬいぐるみ代わりに抱いて、彼女の帰りを待っていた。一人になると考えてしまうのはやはり彼女のこと、そして、彼のこと。
やはり、僕の親友に対するこの感情は、恋心であり、あってはいけないものだったのだろう。二人の邪魔をしたい訳ではないし、僕にはまだ友達という立ち位置が残されている。
それでいい、それでいいんだと言い聞かせながら、遠のいていく意識の中重たい瞼を閉じた。
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