attract 番外編

相模とまこ

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「初めまして」(side:愛羅)

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4月9日午前8時、私は真新しい制服に身を包み、黒板に張り出された座席表と睨み合っていた。

今日から私は華の女子高生。憧れのセーラー服に胸を弾ませながらこれからの未来に希望を抱いていた……なんてことはなく、一刻も早く馴染めるように、溶け込めるようにと必死な思いで立っていた。

中学は転校ばかりで友達作りも満足にできず浮いていた。物覚えの悪い私は一年程度共に過ごしたクラスメイトの名前すらろくに覚えられなかったためか、好意的に接してくれていた子たちも次第に離れていってしまった。

このクラスは専門学科ということもあり、三年間クラス替えは行われない。

そう、だからこそ、絶対に間違ってはいけない。

1秒でも早く、1人でも多く名前を覚えられるよう、繰り返し座席表の名前を目で追った。

ぽつり、ぽつりと生徒が来る。その度にちらりと名札を盗み見ては、名簿の名前と顔を一致させていた。

始業のチャイムまであと5分、ぱたん、ぱたんと覇気の無い足音が耳に届いた。

ガラリと開け放たれた扉のそこには、黒髪の少女が立っていた。

彼女は黒板の座席表に気がつくと、邪魔だと言わんばかりの冷たい視線を私に向けた。名札には〝寿々宮〟と印字されている。

私はにっこりと笑みを浮かべて言った。


「寿々宮伊咲ちゃん、だよね!」
「は?」


彼女はより一層怪訝な顔をした。


「席、あそこだよ!」


そう伝えて指差すと、彼女はそちらをちらりと見やり、私に向き直った。


「どーも……」


心底面倒だという顔をして彼女は軽く会釈をした。彼女の見透かすような視線に、どくりと心臓が跳ねる。それを誤魔化すように私はもう一度笑みを浮かべた。


「これからよろしくね!」


何も言わずにじっとこちらを見つめる彼女。しかし、その顔は何故だかとても物言いたげだった。


「どうかした?」
「……作り笑いが気持ち悪い」


彼女は、はっきりと私にそう告げると、くるりと背を向け席を目指した。遠心力でふわりと靡く髪がとても艶やかで、目を奪われる。

彼女の言葉や行動に緊張感が突如として訪れ、ずきりと胸が痛む。しかし不思議と辛い、苦しいといった感情は生まれなかった。

声をかけたクラスメイトは皆、私と同様に貼り付けた笑顔を向けていたというのに、こうもはっきりと他人を傷つけかねない発言をするものだろうか。

不思議と興味が湧いた。今までに関わったことの無い性質を持つ彼女に、私の心は強く惹かれた。

席に着いた彼女は机上に置かれたプリントにさらりと目を通すと、背凭れに体重を預け、気怠そうに宙を仰いだ。

その飾り気のない様子がなんだかとても微笑ましく、そして羨ましく思えた。

思えばこれが、一目惚れというものだったのだろう。

彼女は私にとって、初恋だった。









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