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第3章 命を賭けた村の直訴 ーバイワン国ー
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ジョンが村長の屋敷の門をくぐった。
「あっ。ジョン殿。」「よく来られた。」「待っておりましたぞ。」屋敷の者がジョンを笑顔で出迎えた。彼は多くの者から慕われ好かれていた。
「みんな、元気なようだな。」ジョンは笑顔で答えた。そこに村長が出て来た。
「村長、今日もすまんが世話になる。」ジョンが言った。
「いえいえ、たいしてお構いもできませんが。それよりあなたに会っていただきたい方がいます。」村長は言った。
「ほう?それはどなたかな?」ジョンが尋ねた。
「方術師の方でございます。仔細は中で・・・」村長はジョンを老人のもとに案内した。
「さあ、こちらへ。」ジョンが部屋に入るとそこには一人の老人が座っていた。身なりはよくないが威厳に満ちており、ジョンは老人がただ者ではない印象を受けた。
「あなたがジョン殿ですか?」老人が尋ねた。老人はまるでジョンを以前から見知っているかのようにやさしく微笑んだ。
「はい。あなたが私に話があるという・・・」ジョンが言った。
「はい。私は旅の方術師、ライリーと申します。この村の作物の出来の悪さが気になりましてな。それに川の水も。」老人は言った。
「確かに作物の出来が悪いのは川の水が原因でしょう。」ジョンは言った。
「それをこの方に方術を使っていただいて、川の水を治していただこうというのです。それには川や上流の山のことがお知りになりたいということです。それでジョン殿をお引き合わせいたしたのです。ジョン殿はこの村だけではなく、国中を調べておいでとのことでしたので。どうかよろしくお願いします。」村長は言った。
「ええ、わかりました。」ジョンは応じた。
「あなたが知っていることを教えて下さらんか?」老人は言った。
「ええ、私が知っていることならなんでも。何についてお話ししましょうか?」ジョンは言った。
「では川の水の悪化の原因をどう考えておられる?」老人が訊いた。
「巷で言われている通り、上流の山の鉱物採掘が原因と思われます。それが川の水を汚し、この村の作物の出来を悪くしております。」ジョンははっきり答えた。
「そうか。それはわかっておられるのか・・・」老人はうなずいた。そして、
「もう少し、ジョン殿ともう少し突っ込んだ話がしたい。すまぬが2人だけにして下さらんか?」と村長に言った。
「ええ、いいですとも。村の者がいれば聞かせたくない話もありましょう。」村長は部屋から出て行った。
「さあ、これで腹を割って話せる。あなたはどうすればいいと思われますかな?」老人は言った。
「川の水を元の状態に戻すことです。村長はあなたが川の水を方術で治すと言われました。方術で川の水を元のいい状態に変えられますか?」ジョンが尋ねた。
「そんなことはできません。方術といえども自然の力の前では無力じゃ。」老人の答えは意外なものだった。
「ではなぜ、村長にあのようなことを。村の者を無駄に期待させてどうされます!」ジョンは少し怒ったように言った。
「川の水を変えるのは方術ではない。人の力じゃ。その原因を取り除くしかない。鉱物の採掘をな。」老人の目がキラリと光った。
「しかしその山の鉱物採掘はジャカン大臣が行っていること。誰も口を出すことはできませぬ。」ジョンは言った。
「果たしてそうかな?それができる者はたった一人だけおる。」老人はきっぱりと言った。
「それは?」ジョンの目が光った。
「王様じゃ。そうは思わぬか?ジェームズ王よ。」老人は言った。それを聞いてジョンは、
「え。」と目を見開いて狼狽した。しばらく迷った挙句、
「あなたには隠せないようです。言われる通り、私はジェームズ王です。」と告げた。そして、
「どうしてそれを?」ジョンは老人をじっと見た。この老人が何者かを見極めるために。
「それぐらいは人を見ればわかる。時に王よ。なぜ国中を調べておられるのか?」老人は尋ねた。
「それは民の暮らし、国の様子を自分の目で見るためです。大臣たちからの報告が正しいとは限らないからです。それにこの地に来てから、私は王城で民から直接、話を聞けていないのです。」ジョンは答えた。
「うむ。それは半分正しい。だが半分は間違いじゃ。」老人は言った。
「なぜです?」ジョンは尋ねた。
「あなたは元々、王子の身分ではなかった。だから今まではすべてを自分でする必要があった。しかしあなたはもう王だ。人の上に立つ者じゃ。もう一人ではない。それを支える多くの者がいる。それには優れた人材を使いこなさねばならぬ。それには人を見る目が肝要じゃ。この国にもあなたを助ける優れた人材が多くいよう。それらの者を登用してこそ、国は栄え、民は潤う。おわかりかな?」老人が言った。
「はい。それはよくわかりました。あなたのおっしゃるとおりです。」ジョンは深くうなずいた。
「そうか。わかっていただけたか。それでこそジェームズ王。私の目に狂いはなかった。」老人は言った。その威厳に満ちたその態度とその言葉から、ジョンにはこの老人がただの旅の方術師とは思えなかった。
「あなたは一体、どなたなのですか? お隠しにならずお教えください。」ジョンは言った。
「儂か? 儂はハークレイじゃ。」老人は静かに言った。
「ハークレイ法師様!」ジョンは慌てて片膝をついて頭を下げた。
「儂は以前、隠れてあなたのことを見ておった。王家の血を引きながらあなたは慢心することなく、苦労して学問に励んでそれを修めていった。あなたならこの国の王としてふさわしい。それであなたを推挙したのじゃ。」老人は言った。
「恐れ入ります。」ジョンは頭を下げた。
「悪い家臣を放逐し、良き者をそばに置かねばならぬ。まずはジャカン大臣じゃ。奴がこの国をむしばんでおる。それを退治しなければならん。たとえ絶大な権力を持っていたとしても。それがあなたにはできますかな?」老人が言った。
「はい。必ず。」ジョンはきっぱりと言った。
「では行動するのじゃ。ジョンとしては村人の話は聞けたであろう。今度は王として話を聞いてやるのじゃ。」老人は言った。
次の日、執行官がいきなり村に来た。そして
「この村の者でまだ鉱物採掘について異を唱える者がいると聞く。その者を差し出せ!」と村長に命じた。
「恐れながら、そのような者はこの村にはおりませぬ。何かのお間違いでは。」村長は言った。
「ふふふ。我らが何も知らぬというのか?ジャカン大臣はお怒りだ。かばうなら村人全員が罪に問われるぞ。」執行官が言った。
「そんな・・・ご無体な・・・」村長は青くなった。
「だが我らにも慈悲がある。そうだな。献上品を2倍にしたらどうじゃ。ジャカン大臣も喜ばれよう。ならばお許しいただけるはずだ。よい返事を待っておるぞ。ははは・・・」執行官は笑いながら行ってしまった。ついてきた下役人のジュドーはその後ろ姿を睨みつけるように見ていた。
「ここまでなさるのか・・・」ジュドーはつぶやいた。
「ジュドー様。この村は一体、どうなるのでしょう。」村長が言った。
「ジャカン大臣や執行官はこの村を目の仇にされておる。我ら下役人の中にはそれをよく思っていないものも多い。」ジュドーは言った。
「ジュドー様。我らをお助け下さい。このままでは村は全滅です。」村長がすがるように言った。
「助けてはやりたい・・・だがあのジャカン大臣や執行官に異を唱えるとなると・・・我ら下役人だけが集まっても何の力にもなれぬ。すまぬ。」ジュドーはそこから立ち去ろうとしていた。
「お待ちください!」あの老人が出て来た。その声でジュドーは立ち止まった。
「あなたはそれでいいのですか!自分の信じる正義のために動こうとは思わぬのかな。たとえそれが大臣たちに潰されようとも。天はそれを見ていますぞ。天は常に正しい者の味方じゃ。」老人は言った。ジュドーはその言葉に心打たれたようだが、何も言わずに行ってしまった。
「私たちはどうすればいいのか・・・」村長はつぶやいた。
「あの者の様に立ち上がりたくとも立ち上がれぬ者もいる。だが立ち上がるきっかけがあれば・・・」老人は言った。
「あっ。ジョン殿。」「よく来られた。」「待っておりましたぞ。」屋敷の者がジョンを笑顔で出迎えた。彼は多くの者から慕われ好かれていた。
「みんな、元気なようだな。」ジョンは笑顔で答えた。そこに村長が出て来た。
「村長、今日もすまんが世話になる。」ジョンが言った。
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「ほう?それはどなたかな?」ジョンが尋ねた。
「方術師の方でございます。仔細は中で・・・」村長はジョンを老人のもとに案内した。
「さあ、こちらへ。」ジョンが部屋に入るとそこには一人の老人が座っていた。身なりはよくないが威厳に満ちており、ジョンは老人がただ者ではない印象を受けた。
「あなたがジョン殿ですか?」老人が尋ねた。老人はまるでジョンを以前から見知っているかのようにやさしく微笑んだ。
「はい。あなたが私に話があるという・・・」ジョンが言った。
「はい。私は旅の方術師、ライリーと申します。この村の作物の出来の悪さが気になりましてな。それに川の水も。」老人は言った。
「確かに作物の出来が悪いのは川の水が原因でしょう。」ジョンは言った。
「それをこの方に方術を使っていただいて、川の水を治していただこうというのです。それには川や上流の山のことがお知りになりたいということです。それでジョン殿をお引き合わせいたしたのです。ジョン殿はこの村だけではなく、国中を調べておいでとのことでしたので。どうかよろしくお願いします。」村長は言った。
「ええ、わかりました。」ジョンは応じた。
「あなたが知っていることを教えて下さらんか?」老人は言った。
「ええ、私が知っていることならなんでも。何についてお話ししましょうか?」ジョンは言った。
「では川の水の悪化の原因をどう考えておられる?」老人が訊いた。
「巷で言われている通り、上流の山の鉱物採掘が原因と思われます。それが川の水を汚し、この村の作物の出来を悪くしております。」ジョンははっきり答えた。
「そうか。それはわかっておられるのか・・・」老人はうなずいた。そして、
「もう少し、ジョン殿ともう少し突っ込んだ話がしたい。すまぬが2人だけにして下さらんか?」と村長に言った。
「ええ、いいですとも。村の者がいれば聞かせたくない話もありましょう。」村長は部屋から出て行った。
「さあ、これで腹を割って話せる。あなたはどうすればいいと思われますかな?」老人は言った。
「川の水を元の状態に戻すことです。村長はあなたが川の水を方術で治すと言われました。方術で川の水を元のいい状態に変えられますか?」ジョンが尋ねた。
「そんなことはできません。方術といえども自然の力の前では無力じゃ。」老人の答えは意外なものだった。
「ではなぜ、村長にあのようなことを。村の者を無駄に期待させてどうされます!」ジョンは少し怒ったように言った。
「川の水を変えるのは方術ではない。人の力じゃ。その原因を取り除くしかない。鉱物の採掘をな。」老人の目がキラリと光った。
「しかしその山の鉱物採掘はジャカン大臣が行っていること。誰も口を出すことはできませぬ。」ジョンは言った。
「果たしてそうかな?それができる者はたった一人だけおる。」老人はきっぱりと言った。
「それは?」ジョンの目が光った。
「王様じゃ。そうは思わぬか?ジェームズ王よ。」老人は言った。それを聞いてジョンは、
「え。」と目を見開いて狼狽した。しばらく迷った挙句、
「あなたには隠せないようです。言われる通り、私はジェームズ王です。」と告げた。そして、
「どうしてそれを?」ジョンは老人をじっと見た。この老人が何者かを見極めるために。
「それぐらいは人を見ればわかる。時に王よ。なぜ国中を調べておられるのか?」老人は尋ねた。
「それは民の暮らし、国の様子を自分の目で見るためです。大臣たちからの報告が正しいとは限らないからです。それにこの地に来てから、私は王城で民から直接、話を聞けていないのです。」ジョンは答えた。
「うむ。それは半分正しい。だが半分は間違いじゃ。」老人は言った。
「なぜです?」ジョンは尋ねた。
「あなたは元々、王子の身分ではなかった。だから今まではすべてを自分でする必要があった。しかしあなたはもう王だ。人の上に立つ者じゃ。もう一人ではない。それを支える多くの者がいる。それには優れた人材を使いこなさねばならぬ。それには人を見る目が肝要じゃ。この国にもあなたを助ける優れた人材が多くいよう。それらの者を登用してこそ、国は栄え、民は潤う。おわかりかな?」老人が言った。
「はい。それはよくわかりました。あなたのおっしゃるとおりです。」ジョンは深くうなずいた。
「そうか。わかっていただけたか。それでこそジェームズ王。私の目に狂いはなかった。」老人は言った。その威厳に満ちたその態度とその言葉から、ジョンにはこの老人がただの旅の方術師とは思えなかった。
「あなたは一体、どなたなのですか? お隠しにならずお教えください。」ジョンは言った。
「儂か? 儂はハークレイじゃ。」老人は静かに言った。
「ハークレイ法師様!」ジョンは慌てて片膝をついて頭を下げた。
「儂は以前、隠れてあなたのことを見ておった。王家の血を引きながらあなたは慢心することなく、苦労して学問に励んでそれを修めていった。あなたならこの国の王としてふさわしい。それであなたを推挙したのじゃ。」老人は言った。
「恐れ入ります。」ジョンは頭を下げた。
「悪い家臣を放逐し、良き者をそばに置かねばならぬ。まずはジャカン大臣じゃ。奴がこの国をむしばんでおる。それを退治しなければならん。たとえ絶大な権力を持っていたとしても。それがあなたにはできますかな?」老人が言った。
「はい。必ず。」ジョンはきっぱりと言った。
「では行動するのじゃ。ジョンとしては村人の話は聞けたであろう。今度は王として話を聞いてやるのじゃ。」老人は言った。
次の日、執行官がいきなり村に来た。そして
「この村の者でまだ鉱物採掘について異を唱える者がいると聞く。その者を差し出せ!」と村長に命じた。
「恐れながら、そのような者はこの村にはおりませぬ。何かのお間違いでは。」村長は言った。
「ふふふ。我らが何も知らぬというのか?ジャカン大臣はお怒りだ。かばうなら村人全員が罪に問われるぞ。」執行官が言った。
「そんな・・・ご無体な・・・」村長は青くなった。
「だが我らにも慈悲がある。そうだな。献上品を2倍にしたらどうじゃ。ジャカン大臣も喜ばれよう。ならばお許しいただけるはずだ。よい返事を待っておるぞ。ははは・・・」執行官は笑いながら行ってしまった。ついてきた下役人のジュドーはその後ろ姿を睨みつけるように見ていた。
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「ジャカン大臣や執行官はこの村を目の仇にされておる。我ら下役人の中にはそれをよく思っていないものも多い。」ジュドーは言った。
「ジュドー様。我らをお助け下さい。このままでは村は全滅です。」村長がすがるように言った。
「助けてはやりたい・・・だがあのジャカン大臣や執行官に異を唱えるとなると・・・我ら下役人だけが集まっても何の力にもなれぬ。すまぬ。」ジュドーはそこから立ち去ろうとしていた。
「お待ちください!」あの老人が出て来た。その声でジュドーは立ち止まった。
「あなたはそれでいいのですか!自分の信じる正義のために動こうとは思わぬのかな。たとえそれが大臣たちに潰されようとも。天はそれを見ていますぞ。天は常に正しい者の味方じゃ。」老人は言った。ジュドーはその言葉に心打たれたようだが、何も言わずに行ってしまった。
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
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