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第1章 春
第2話 地侍 対 忍び
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椎谷に通じる道は百雲斎によって厳重な警戒が敷かれていた。そこには地侍が監視についていた。だが地侍と言っても彼らはただ者ではない。忍びの術も習得しているのだ。木の陰や草むらに身を隠し、じっと道を見張っていた。
葵姫が椎谷の里に来たとことは極秘だった。もし万代家の者に知られれば、必ず姫を奪おうと手の者が差し向けられるだろう。小勢なら椎谷にいる者たちで撃退できるが、大軍が差し向けられたらひとたまりもない。麻山城の御屋形様からの援軍も期待できない状況では里ごと焼き払われるのは確かだ。
実際、険しい山道を通る者は少ない。だが隣の国への抜け道として通る者がいる。今も背中に荷物を担いだ商人が地侍の監視の下、その道を通ろうとしていた。
「待て!」
一人の地侍が道に出てその商人を止めた。彼はその商人の様子を鋭い目でじっと観察していた。その商人は急なことに驚きながらも、穏やかな顔つきで丁寧な物腰で尋ねた。
「何でございましょうか?」
「どこへ行く?」
「隣の三伊の国でございます。どうか、お通しください。そこで商売をいたそうかと思いまして。」
「そうか。それは悪かった。」
「それでは失礼いたします。」
商人はホッとしたように道を進もうとしていた。それを見送る地侍は何気に懐に手をやって、いきなりさっと手裏剣を投げつけた。
「カキーン!」
手裏剣は音を立てて地面に落ちた。その後ろに短刀を握っている商人がいた。彼が後ろからの攻撃にいち早く気付いて、振り返って手裏剣と叩き落としたのだ。尋常の者の動きではない。
「やはり忍びか! 万代の手の者か!」
地侍は刀の柄に手をやってじりじりと商人の方に近づいた。商人はその穏やかな顔つきが変わって、厳しい顔になった。
「よくわかったな。だが知らぬ方がよかったのではないか。知ってしまったから、お前はここで死なねばならぬのだからな。」
商人は不気味な笑いを浮かべると、短刀を構えた。2人はにらみ合いながら、少しずつ間合いを詰めていった。先に動いた方が死に至る・・・そのような状況で商人の方がまず動いた。
左手で手裏剣を投げつけ、地侍に向かって来た。
(何のこれしき!)
地侍は手裏剣をはね返し、刀を横に払った。商人はそれを避けて飛び上がった。そして空中で大きく一回転して下りてきて、地侍の背後を取ろうとした。
(させるか!)
地侍は素早く振り返って大きく刀を振り下ろした。
「ぐっ!」
手ごたえはあった。しかしその刃は商人本体を捕らえていなかった。それは商人の荷物を斬っていた。背中の荷物を空中でとっさに前に回したのだ。真っ二つにされた荷物がガシャーンと地面に落ちた。しくじったと思った地侍が前を見ると、商人の姿が消えていた。
(どこへ行った?)
地侍は商人の姿を見失った。だがそれはほんの一瞬だった。死角になった上方に殺気を感じた。商人は飛び上がって今にも地侍に短刀を突き立てようとしていた。
「バン!」
突き刺さる音がした。商人はそのまま動きを止めて地面に落ちていった。その背中には棒手裏剣が深く突き刺さっていた。一撃で心の蔵を貫いたのだ。
「不覚だぞ! 小次郎!」
木の陰からもう一人地侍が出て来た。その男が棒手裏剣を放ったようだった。
「お頭。助かりました。しかしかなりの手練れでした。万代の奴め。有力な忍びの衆と手を組んだようです。」
小次郎と呼ばれた地侍が刀を収めながら言った。地侍たちは2人1組で監視していたのだ。
「この分では姫様がいることが早々に敵に知られるかもしれません。」
「うむ。とにかくここをしっかり守らねば。」
2人の地侍はまた道のわきの暗がりに消えていった。
この椎谷の里に近くではこのようなことはよくあった。万代家の者のみならず他からもこの地に探りを入れようとする者たちがあった。だがこの里の地侍たちは一人一人、武芸抜優れて強かった。だから里の様子を伺おうとする者たちはこのように討ち果たされた。こうすることで里のことは謎のまま、知られずに済んでいた。
葵姫が椎谷の里に来たとことは極秘だった。もし万代家の者に知られれば、必ず姫を奪おうと手の者が差し向けられるだろう。小勢なら椎谷にいる者たちで撃退できるが、大軍が差し向けられたらひとたまりもない。麻山城の御屋形様からの援軍も期待できない状況では里ごと焼き払われるのは確かだ。
実際、険しい山道を通る者は少ない。だが隣の国への抜け道として通る者がいる。今も背中に荷物を担いだ商人が地侍の監視の下、その道を通ろうとしていた。
「待て!」
一人の地侍が道に出てその商人を止めた。彼はその商人の様子を鋭い目でじっと観察していた。その商人は急なことに驚きながらも、穏やかな顔つきで丁寧な物腰で尋ねた。
「何でございましょうか?」
「どこへ行く?」
「隣の三伊の国でございます。どうか、お通しください。そこで商売をいたそうかと思いまして。」
「そうか。それは悪かった。」
「それでは失礼いたします。」
商人はホッとしたように道を進もうとしていた。それを見送る地侍は何気に懐に手をやって、いきなりさっと手裏剣を投げつけた。
「カキーン!」
手裏剣は音を立てて地面に落ちた。その後ろに短刀を握っている商人がいた。彼が後ろからの攻撃にいち早く気付いて、振り返って手裏剣と叩き落としたのだ。尋常の者の動きではない。
「やはり忍びか! 万代の手の者か!」
地侍は刀の柄に手をやってじりじりと商人の方に近づいた。商人はその穏やかな顔つきが変わって、厳しい顔になった。
「よくわかったな。だが知らぬ方がよかったのではないか。知ってしまったから、お前はここで死なねばならぬのだからな。」
商人は不気味な笑いを浮かべると、短刀を構えた。2人はにらみ合いながら、少しずつ間合いを詰めていった。先に動いた方が死に至る・・・そのような状況で商人の方がまず動いた。
左手で手裏剣を投げつけ、地侍に向かって来た。
(何のこれしき!)
地侍は手裏剣をはね返し、刀を横に払った。商人はそれを避けて飛び上がった。そして空中で大きく一回転して下りてきて、地侍の背後を取ろうとした。
(させるか!)
地侍は素早く振り返って大きく刀を振り下ろした。
「ぐっ!」
手ごたえはあった。しかしその刃は商人本体を捕らえていなかった。それは商人の荷物を斬っていた。背中の荷物を空中でとっさに前に回したのだ。真っ二つにされた荷物がガシャーンと地面に落ちた。しくじったと思った地侍が前を見ると、商人の姿が消えていた。
(どこへ行った?)
地侍は商人の姿を見失った。だがそれはほんの一瞬だった。死角になった上方に殺気を感じた。商人は飛び上がって今にも地侍に短刀を突き立てようとしていた。
「バン!」
突き刺さる音がした。商人はそのまま動きを止めて地面に落ちていった。その背中には棒手裏剣が深く突き刺さっていた。一撃で心の蔵を貫いたのだ。
「不覚だぞ! 小次郎!」
木の陰からもう一人地侍が出て来た。その男が棒手裏剣を放ったようだった。
「お頭。助かりました。しかしかなりの手練れでした。万代の奴め。有力な忍びの衆と手を組んだようです。」
小次郎と呼ばれた地侍が刀を収めながら言った。地侍たちは2人1組で監視していたのだ。
「この分では姫様がいることが早々に敵に知られるかもしれません。」
「うむ。とにかくここをしっかり守らねば。」
2人の地侍はまた道のわきの暗がりに消えていった。
この椎谷の里に近くではこのようなことはよくあった。万代家の者のみならず他からもこの地に探りを入れようとする者たちがあった。だがこの里の地侍たちは一人一人、武芸抜優れて強かった。だから里の様子を伺おうとする者たちはこのように討ち果たされた。こうすることで里のことは謎のまま、知られずに済んでいた。
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