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第3章
㉙ 脱出
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いづなは空間の切れ目を通って竜王城内部に来ていた。
「ここは、食糧庫?」
体育館くらいの大きさの部屋に無数の棚に食料と思しき干し肉などが置いてあるが、半分以上は何もない状態になっている。
そして、ズシンズシンと地響きがしてくる。
外で暴れまわる巨大化した将軍たちの地響きがここまで届いているというのだろうか。
その奥にある扉へ赴く。ファラナークがこの先にみーはんがいると言っていた。
近づくと、何やらドラゴンたちの慌ただしい叫び声が聞こえてくる。
外の状況を知って何千匹ものドラゴンたちがパニックになっているのかもしれない。
この中にみーはんがいるとするなら混乱の雑踏に踏みつぶされるなどの被害に遭っていやしないだろうか?
「みーはん様!」
扉を開けると、耳をつんざかんばかりの暴力的な音が襲ってきて、いづなは思わず目をつむって怯んでしまった。
破壊音?
違う、これは……楽器の音だった。
エレキギターにベース、ドラム、シンセサイザーの音だった。
そしてそれらの音に負けない怒号が鳴り響く。
「「「「「タイガー! ファイヤー! サイバー! ファイバー! ダイバー! バイバー! ジャージャー!」」」」」
「じゃあ、二番いっくよー!」
エコーのかかった声はみーはんの声だった。
だけど、いつもの棘のあるダミ声ではなく、高く裏返してアニメチックにしたどこか媚びるような、それでいて溌剌とした声だった。
ほとんど明かりがない中、蛍光のサイリウムがリズミカルにたなびく草原をつくり、天井で回転するミラーボールがステージのスポットライトを反射していた。
そして、ステージ中央で最も明るいスポットライトに照らされているのは、痩せたみーはんだった。
彼女が痩せた数分後に魂を抜かれたいづなが、そうだと理解するまでにかなりの時間を要した。
壁などの周囲にある者から類推するに、どうやらここは食堂のようで、テーブルを一ヶ所に集めてステージをつくり、空いた空間がそのまま観客席になっているのだ。
そうだ、これはコンサートだ!
いづな自身、それほど興味があったわけではないのでこのような会場に足を運んだことはない。
だけど、笑顔でくるくると華麗にダンスしながら踊るみーはんに合わせて熱狂するドラゴンたちを見ていると、胸の鼓動が高鳴るのを感じる。
無愛想で陰険で醜悪で強欲で下品で自己中心的だったみーはんがとてもキラキラ輝いて見える。
バックで演奏するドラゴンもノリノリのみーはんに合わせてリズムを刻んでいる。
そして何より、この空間を埋め尽くす数千の観客ドラゴンは、みーはんという象徴をもとにして心を一つにしていた。
「じーぶーんのステーキぃに、お熱ぅなのぉー♪」
「「「「「エル・オー・ヴイ・イー! ラヴリー、みーはん!!」」」」」
そして情熱的でキレッキレのヲタ芸が繰り広げられる。
それはまさに異世界ファンタジーであった。
いづなはその圧倒的なエネルギーにときめいている自分に気づいてしまっていた。
「は!」
だけど今はこの光景に見惚れている場合ではないのだ。
「よぉーし、次は『肉肉カーニバル』いっちゃうぞー!」
「「「「「おー!」」」」」
スキルを利用してマイクを持っていない右手に、いわゆるマンガ肉を華麗につくり出すと、がぶりと食いつく。
「「「「「いえー!」」」」」
それを見てドラゴンたちが沸騰する。
「「「「「にくにくにくにくにくにく、ハイハイ! にくにくにくにくにくにく、ハイハイ! 今日のお肉は何の肉!」」」」」
観衆のドラゴンの掛け声が終わるとともにドラムがリズムを刻み、続いてベースのブンブン音、さらにエレキギターのキュリキュリ音が新しいメロディを奏で始める。
いけない、みーはんを始めとしてここにいるドラゴンたちを避難させなくては。
自分の使命を思い出したいづなはふわりとジャンプして、観衆の人だかり(ドラゴンだかり)を飛び越え、ステージに降り立った。
「みーはん様!」
こんなことをしている暇はない。すぐにでも止めさせて場所を移動しなければならないのだ。
あまりに熱中しているのか、自分に気づくこともなく歌い続けるみーはんに後ろから手を伸ばそうとしたとき、いづなは驚愕を隠せなかった。
――以前見たときより、綺麗になっている……!??
ステージに立っているからそれなりにメイクはしているし、華やかに着飾っている。
だけど、本質的に何かが違う。
にじみ出る美のオーラとでもいうのだろうか?
健康的でさわやかであることは当然のことながら、何というか生命の肯定的な部分をすべて身にまとってしまっているかのような、神聖さがそこにあるのだ。
湧き上がる嫉妬心に頭が真っ白になる。
いづなは思わずみーはんのステータスを調べていた。
【名前】 福澤 美春みーはん
【職業】 美食研究家 兼 アイドル
【レベル】 (美)356 (ア)324
【HP】 35696
【MP】 784056
【攻撃力】 28640
【守備力】 45696
【素早さ】 63794
【賢さ】 296584
【運の良さ】 47896
【美しさ】7454762
『なに、この異常なステータスは!?』
いづなは見た瞬間に鼻血が噴き出た。
仙崎ほどではないが、自分のステータスは完全に追い越されてしまっている。
いつの間にかレベルが異常に上がっていて、どこでどうやって魔物たちをやっつけたというのだろうか。
そもそも普通の人間はレベル99が上限ではなかっただろうか?
何かの条件をクリアすることで上限突破することができると聞いたことはあるが。
自分が眠らされている間に、彼女に何があったというのか?
いづなは火になってステータスの履歴を調べる。
『≪永遠のアイドル≫のスキルを獲得しました。このスキルにより、いかなることがあろうとも【美しさ】のステータスが下がることはなくなりました』
『≪食の経験≫のスキルを獲得しました。このスキルにより、食べるという経験によって、経験値が上昇するようになりました』
何ということだ。
つまり、この二つのスキルによってどれだけ食べても決して太って醜くなることはなく、なおかつ食べた分だけそれが経験値となってレベルアップにつながったのだ。
『おめでとうございます! ≪シェフへのアドバイス≫のスキルを使って、1024種類の料理がおいしくなりました。あなたは≪一流美食研究家≫の称号を獲得しました』
称号を獲得しましたって……その称号は誰が送ったものだろうか?
『BONUS! あなたは限界突破しました! レベル上限が199になりました』
なんと! 称号をもらったボーナスによってレベル上限が上がるのだ!
『おめでとうございます! あなたへの熱狂的なファンが三日間で4096人を越えました。あなたは≪最も神に近いアイドル≫の称号を獲得しました。BONUS! あなたは限界突破しました! レベル上限が299になりました』
『おめでとうございます! 熱狂的なファンがあなたへ捧げた祈りの回数が一日間でのべ65536回を越えました。あなたは≪信仰の対象≫の称号を獲得しました。BONUS! あなたは限界突破しました! レベル上限が399になりました』
こういうのを社会貢献というのだろうか?
どうやらパーティとは別の一般人たちに何らかの変化をもたらすことで称号が得られるらしい。それによってレベル上限が限界突破できたようだ。
みーはんはこの竜王城で短期間にファンを獲得し、ドラゴンたちに神のように信仰されるまでになったようだ。
『こ、こんなことがあるなんて!』
ぶっちゃけ、いづなにとってみーはんは自分たちの旅を邪魔するお荷物という認識でしかなかったのだが、彼女は自分の知らない間にとんでもない人物へと変貌してしまっていたのだ。
自分の複雑な心境はさておき、破壊の危機にある竜王城からみーはん及びその他ドラゴンたちを避難させるという使命を果たさなければならない。
「みーはん様!!」
いづなはもはや強引に歌っているみーはんを押しとどめた。
「あら、おねえちゃんじゃない。目が覚めたのね。歌ってたら全然気づかなかったわ」
みーはんはいづなを「おねえちゃん」と呼ぶが、圧倒的にいづなのほうが若い。
人間関係をうまく構築できなかった彼女に「いづなちゃん」とか親しみを込めた呼び方などできず、こうすることでなんとなくの距離感を保とうとしていたのである。
「みーはん様。外で魔王の将軍たちが巨大化して暴れまわっております。その影響でこの竜王城が破壊されてしまうかもしれません。みーはん様もここにおられるドラゴンの兵士たちも避難していただきます」
直後に激しい地響きが起こり、天井がわずかに崩れ始めた。
「いつの間にそんなことに?」
「ほんの一分ほど前のことです。仙崎様が将軍たちを討ち果たす直前だったのですが、最後の手段を使ってきた模様です」
あのおっさん勇者を崇拝して疑わないいづなの言うことをすべて信じようとは思えなかったが、嘘を言う人物でもないことはすでにわかっている。
「敵は見境がありません。ここは危険です」
「わかったわ」
みーはんは食堂を埋め尽くすドラゴンたちにマイクを通して声をかけた。
「みんなー、ちょっと危ないみたいだから、コンサートはここで中止にしまーす!」
「「「「「えええええー!!!???」」」」」
観衆のドラゴンたちは驚いていた。
ずずずずずずずずず…………
同時に再び地響きが起こる。
「外でとんでもないことが起こってるみたいなのー! 私はみんなが元気でいてくれることが何より大事なの。だから、みんなですぐにこの竜王城を出て避難しましょー!」
ドラゴンたちは一瞬困惑した。
「おい、みーはんが避難しろってよ」
「コンサートはどうなるんだよ!」
「バカ野郎! みーはんが俺たちの無事を考えて避難しろって言ってるんだ! みーはんと俺たちが無事なら、その後でもコンサートはできるだろ!」
「みーはんを困らせるな!」
「みーはんの言う通りにしよう!」
だが、すぐさまにみーはんの立場を理解し、その指示に従うことに満場一致した。
「じゃあ、これだけの人数が同じルートで避難するとパンクしちゃうわ。いくつかのグループに分かれて速やかに移動しましょう。それと、この会場にいない人もいるわ。その人たちにも声をかけてほしいの」
「わかったぜ。じゃあ、俺は北の通路からの避難を誘導するぜ!」
「ならば私は西からの脱出を指示しよう」
「俺っちはすばしっこいから、居残りがいないか場内を確認して回るよ」
「しんがりは僕が引き受けよう」
みーはんの呼びかけに次々と役割分担が決まってゆく。
「みーはん様、急ぎましょう」
「そうね」
いづなとみーはんと、ドラゴンたちの脱出劇が始まった。
「ここは、食糧庫?」
体育館くらいの大きさの部屋に無数の棚に食料と思しき干し肉などが置いてあるが、半分以上は何もない状態になっている。
そして、ズシンズシンと地響きがしてくる。
外で暴れまわる巨大化した将軍たちの地響きがここまで届いているというのだろうか。
その奥にある扉へ赴く。ファラナークがこの先にみーはんがいると言っていた。
近づくと、何やらドラゴンたちの慌ただしい叫び声が聞こえてくる。
外の状況を知って何千匹ものドラゴンたちがパニックになっているのかもしれない。
この中にみーはんがいるとするなら混乱の雑踏に踏みつぶされるなどの被害に遭っていやしないだろうか?
「みーはん様!」
扉を開けると、耳をつんざかんばかりの暴力的な音が襲ってきて、いづなは思わず目をつむって怯んでしまった。
破壊音?
違う、これは……楽器の音だった。
エレキギターにベース、ドラム、シンセサイザーの音だった。
そしてそれらの音に負けない怒号が鳴り響く。
「「「「「タイガー! ファイヤー! サイバー! ファイバー! ダイバー! バイバー! ジャージャー!」」」」」
「じゃあ、二番いっくよー!」
エコーのかかった声はみーはんの声だった。
だけど、いつもの棘のあるダミ声ではなく、高く裏返してアニメチックにしたどこか媚びるような、それでいて溌剌とした声だった。
ほとんど明かりがない中、蛍光のサイリウムがリズミカルにたなびく草原をつくり、天井で回転するミラーボールがステージのスポットライトを反射していた。
そして、ステージ中央で最も明るいスポットライトに照らされているのは、痩せたみーはんだった。
彼女が痩せた数分後に魂を抜かれたいづなが、そうだと理解するまでにかなりの時間を要した。
壁などの周囲にある者から類推するに、どうやらここは食堂のようで、テーブルを一ヶ所に集めてステージをつくり、空いた空間がそのまま観客席になっているのだ。
そうだ、これはコンサートだ!
いづな自身、それほど興味があったわけではないのでこのような会場に足を運んだことはない。
だけど、笑顔でくるくると華麗にダンスしながら踊るみーはんに合わせて熱狂するドラゴンたちを見ていると、胸の鼓動が高鳴るのを感じる。
無愛想で陰険で醜悪で強欲で下品で自己中心的だったみーはんがとてもキラキラ輝いて見える。
バックで演奏するドラゴンもノリノリのみーはんに合わせてリズムを刻んでいる。
そして何より、この空間を埋め尽くす数千の観客ドラゴンは、みーはんという象徴をもとにして心を一つにしていた。
「じーぶーんのステーキぃに、お熱ぅなのぉー♪」
「「「「「エル・オー・ヴイ・イー! ラヴリー、みーはん!!」」」」」
そして情熱的でキレッキレのヲタ芸が繰り広げられる。
それはまさに異世界ファンタジーであった。
いづなはその圧倒的なエネルギーにときめいている自分に気づいてしまっていた。
「は!」
だけど今はこの光景に見惚れている場合ではないのだ。
「よぉーし、次は『肉肉カーニバル』いっちゃうぞー!」
「「「「「おー!」」」」」
スキルを利用してマイクを持っていない右手に、いわゆるマンガ肉を華麗につくり出すと、がぶりと食いつく。
「「「「「いえー!」」」」」
それを見てドラゴンたちが沸騰する。
「「「「「にくにくにくにくにくにく、ハイハイ! にくにくにくにくにくにく、ハイハイ! 今日のお肉は何の肉!」」」」」
観衆のドラゴンの掛け声が終わるとともにドラムがリズムを刻み、続いてベースのブンブン音、さらにエレキギターのキュリキュリ音が新しいメロディを奏で始める。
いけない、みーはんを始めとしてここにいるドラゴンたちを避難させなくては。
自分の使命を思い出したいづなはふわりとジャンプして、観衆の人だかり(ドラゴンだかり)を飛び越え、ステージに降り立った。
「みーはん様!」
こんなことをしている暇はない。すぐにでも止めさせて場所を移動しなければならないのだ。
あまりに熱中しているのか、自分に気づくこともなく歌い続けるみーはんに後ろから手を伸ばそうとしたとき、いづなは驚愕を隠せなかった。
――以前見たときより、綺麗になっている……!??
ステージに立っているからそれなりにメイクはしているし、華やかに着飾っている。
だけど、本質的に何かが違う。
にじみ出る美のオーラとでもいうのだろうか?
健康的でさわやかであることは当然のことながら、何というか生命の肯定的な部分をすべて身にまとってしまっているかのような、神聖さがそこにあるのだ。
湧き上がる嫉妬心に頭が真っ白になる。
いづなは思わずみーはんのステータスを調べていた。
【名前】 福澤 美春みーはん
【職業】 美食研究家 兼 アイドル
【レベル】 (美)356 (ア)324
【HP】 35696
【MP】 784056
【攻撃力】 28640
【守備力】 45696
【素早さ】 63794
【賢さ】 296584
【運の良さ】 47896
【美しさ】7454762
『なに、この異常なステータスは!?』
いづなは見た瞬間に鼻血が噴き出た。
仙崎ほどではないが、自分のステータスは完全に追い越されてしまっている。
いつの間にかレベルが異常に上がっていて、どこでどうやって魔物たちをやっつけたというのだろうか。
そもそも普通の人間はレベル99が上限ではなかっただろうか?
何かの条件をクリアすることで上限突破することができると聞いたことはあるが。
自分が眠らされている間に、彼女に何があったというのか?
いづなは火になってステータスの履歴を調べる。
『≪永遠のアイドル≫のスキルを獲得しました。このスキルにより、いかなることがあろうとも【美しさ】のステータスが下がることはなくなりました』
『≪食の経験≫のスキルを獲得しました。このスキルにより、食べるという経験によって、経験値が上昇するようになりました』
何ということだ。
つまり、この二つのスキルによってどれだけ食べても決して太って醜くなることはなく、なおかつ食べた分だけそれが経験値となってレベルアップにつながったのだ。
『おめでとうございます! ≪シェフへのアドバイス≫のスキルを使って、1024種類の料理がおいしくなりました。あなたは≪一流美食研究家≫の称号を獲得しました』
称号を獲得しましたって……その称号は誰が送ったものだろうか?
『BONUS! あなたは限界突破しました! レベル上限が199になりました』
なんと! 称号をもらったボーナスによってレベル上限が上がるのだ!
『おめでとうございます! あなたへの熱狂的なファンが三日間で4096人を越えました。あなたは≪最も神に近いアイドル≫の称号を獲得しました。BONUS! あなたは限界突破しました! レベル上限が299になりました』
『おめでとうございます! 熱狂的なファンがあなたへ捧げた祈りの回数が一日間でのべ65536回を越えました。あなたは≪信仰の対象≫の称号を獲得しました。BONUS! あなたは限界突破しました! レベル上限が399になりました』
こういうのを社会貢献というのだろうか?
どうやらパーティとは別の一般人たちに何らかの変化をもたらすことで称号が得られるらしい。それによってレベル上限が限界突破できたようだ。
みーはんはこの竜王城で短期間にファンを獲得し、ドラゴンたちに神のように信仰されるまでになったようだ。
『こ、こんなことがあるなんて!』
ぶっちゃけ、いづなにとってみーはんは自分たちの旅を邪魔するお荷物という認識でしかなかったのだが、彼女は自分の知らない間にとんでもない人物へと変貌してしまっていたのだ。
自分の複雑な心境はさておき、破壊の危機にある竜王城からみーはん及びその他ドラゴンたちを避難させるという使命を果たさなければならない。
「みーはん様!!」
いづなはもはや強引に歌っているみーはんを押しとどめた。
「あら、おねえちゃんじゃない。目が覚めたのね。歌ってたら全然気づかなかったわ」
みーはんはいづなを「おねえちゃん」と呼ぶが、圧倒的にいづなのほうが若い。
人間関係をうまく構築できなかった彼女に「いづなちゃん」とか親しみを込めた呼び方などできず、こうすることでなんとなくの距離感を保とうとしていたのである。
「みーはん様。外で魔王の将軍たちが巨大化して暴れまわっております。その影響でこの竜王城が破壊されてしまうかもしれません。みーはん様もここにおられるドラゴンの兵士たちも避難していただきます」
直後に激しい地響きが起こり、天井がわずかに崩れ始めた。
「いつの間にそんなことに?」
「ほんの一分ほど前のことです。仙崎様が将軍たちを討ち果たす直前だったのですが、最後の手段を使ってきた模様です」
あのおっさん勇者を崇拝して疑わないいづなの言うことをすべて信じようとは思えなかったが、嘘を言う人物でもないことはすでにわかっている。
「敵は見境がありません。ここは危険です」
「わかったわ」
みーはんは食堂を埋め尽くすドラゴンたちにマイクを通して声をかけた。
「みんなー、ちょっと危ないみたいだから、コンサートはここで中止にしまーす!」
「「「「「えええええー!!!???」」」」」
観衆のドラゴンたちは驚いていた。
ずずずずずずずずず…………
同時に再び地響きが起こる。
「外でとんでもないことが起こってるみたいなのー! 私はみんなが元気でいてくれることが何より大事なの。だから、みんなですぐにこの竜王城を出て避難しましょー!」
ドラゴンたちは一瞬困惑した。
「おい、みーはんが避難しろってよ」
「コンサートはどうなるんだよ!」
「バカ野郎! みーはんが俺たちの無事を考えて避難しろって言ってるんだ! みーはんと俺たちが無事なら、その後でもコンサートはできるだろ!」
「みーはんを困らせるな!」
「みーはんの言う通りにしよう!」
だが、すぐさまにみーはんの立場を理解し、その指示に従うことに満場一致した。
「じゃあ、これだけの人数が同じルートで避難するとパンクしちゃうわ。いくつかのグループに分かれて速やかに移動しましょう。それと、この会場にいない人もいるわ。その人たちにも声をかけてほしいの」
「わかったぜ。じゃあ、俺は北の通路からの避難を誘導するぜ!」
「ならば私は西からの脱出を指示しよう」
「俺っちはすばしっこいから、居残りがいないか場内を確認して回るよ」
「しんがりは僕が引き受けよう」
みーはんの呼びかけに次々と役割分担が決まってゆく。
「みーはん様、急ぎましょう」
「そうね」
いづなとみーはんと、ドラゴンたちの脱出劇が始まった。
応援ありがとうございます!
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