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絶対手に入れる③ side エゼルバート
しおりを挟む結果から言うと、俺が書いた魔法陣を組み込んだ『照明』という魔道具は、国中で前代未聞の大ヒットとなり、王宮にまで取り入れられるほどの魔道具となった。
今となっては他国にも輸出され、国に莫大な利益をもたらしている。
あれから俺を取り囲む環境は変わった。
俺が落書きのノリで書いた魔法陣が、今まで医療にしか使われなかった光魔法を、生活魔法に転換した新しい魔法だとして賞賛された。
そして、光魔法しか扱えない魔術師からも感謝された。
昔のように戦が頻繁に起こっていた時代と違って、今は文明の栄えと共に国は平和になり、光魔法の需要が減ってしまったのだ。
昔は重宝されていた魔力が、今となっては特別視される事もなくなった。
光魔法は傷ついた体を癒やすことは出来ても病気は治せない。だから医療施設で働いていても、そんなに沢山怪我人が運ばれてくるわけでもないので力を持て余していたそうだ。
それが照明の魔道具の出現によって自分の魔力の新しい使い道が出来たと喜ばれた。
当時子供だった俺は、家族にも『エゼルは天才だ!』と褒め称えられ、ずっと引き篭もりだった俺の功績を涙を流して喜んでくれた。
魔法陣を組み替えて書き直しただけだから、俺じゃなくても出来ると思うと答えたら、それは絶対に違うと父に力説された。
両親曰く、新しい魔法が誕生したのは100年ぶりの快挙なのだそうだ。
今いる魔術師は魔術書の魔法や魔法陣を暗記するだけで、その魔法陣の成り立ちや魔法陣に使用される古代文字の意味などを理解している者は少ないらしい。
魔法や魔道具の研究施設は存在しているが、それは元々ある魔法陣を用いての研究であって、新しい魔法を開発したり、ましてや魔法陣を簡単に書き換えて実用化させるなど、誰でも出来る事ではないと言われた。
まず新しい魔法の発想が浮かばない。少なくとも国内トップクラスの高魔力保持者である両親や兄達にはできないと言われた。
それくらい照明という魔道具は魔術師達にとって驚きの商品で、しかも元となる魔法陣が見たこともない術式で、10にも満たない子供が書いた事にも度肝をぬかれたらしい。
でもそもそも、あの魔道具は俺の発想で生まれたものじゃない。
ブリジットの注文で書いただけで、その魔道具はブリジットが発明したものだ。だからそう言おうとしたのに、ブリジットが俺の手を握って首を横に振り、それを止めた。
二人になった時に、何で止めたのか。皆を騙しているようで心苦しいと言った俺に、
「なんで?嘘ついてないから騙してないじゃない。私はエゼルに魔法陣を作ってとお願いして、光属性の魔力を埋め込む器を作っただけ。魔道具の核となる魔法陣を作ったのはエゼルよ?照明はエゼルが新しく作った術式がなければこの世に誕生していない。エゼルが今まで勉強した魔術の知識や、お絵描きがわりに魔法陣を書いて遊んでいた経験がなければ、生まれてこなかったのよ?」
ブリジットの言葉が一つ一つ心に刺さって、泣きそうになる。
「言ったでしょ?生まれ持ったスペックは変えられない。変えられるのは知識と体で覚えて身に着けたスキルだけって。誰もが苦手な魔術書を苦なく読める事と、それを理解し覚える事、魔法陣をお絵描き感覚で構築できる事、それらのスキルはエゼルだけの才能なのよ。エゼルが魔法大好きだから成し得たことなの。魔力量が中の上でも、ドレイク家の誰も出来なかった事をエゼルはやってみせたんだから、自慢するならまだしも心苦しくなることなんてないわ。胸を張りなさい」
「……うっ、…ふ…っく」
我慢ができなくて、嗚咽をこぼす。
家族の中で自分だけ違うという孤独感にずっと押しつぶされそうだった。「なんで自分だけ?」と、こんな自分に産んだ母を恨めしく思ったこともある。その度に自分を嫌いになっていった。
家族は決して俺を蔑ろにしなかったのに。
両親も兄達も俺を愛してくれたのに、一人で殻に閉じこもって家族を拒絶していた。
そんな弱い自分が、ブリジットの言葉に救い上げられる。
「ね?エゼルの得意なことあったでしょ?だから貴方は出来損ないなんかじゃないのよ。むしろ天才なのよ!」
そう言って屈託のない笑みを浮かべるブリジットに、恋をするなという方が無理だろう。
ブリジットへの恋心を自覚した途端、既に政略でブリジットとイアンとの婚約が決まっていて速攻で失恋したけど───。
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