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前世の記憶① *微R18
しおりを挟む*少し内容を修正したのでブリジットの前世の年齢の記述を消しました。
それから前世の記憶持ちの記述を登場人物紹介に書いて、1話に書いていないという痛恨のミスをやらかしたので、1話を改稿しております。申し訳ありませぬ(泣)
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私の前世は、一宮香澄という商社の社長令嬢だった。
一人娘だったから、跡取りとして厳しく育てられて、交友関係も親に管理されるような箱入り娘。
私は父のように商才があるわけじゃなかったから、期待に応えるには寝る間も惜しんで学ばないといけなくて、息がつまる毎日を過ごしていた。
大学も経済学を学んで少しでも会社に貢献出来るよう、勉強ばかりしていたと思う。
私はとても疲れていた。でも努力を辞めたら期待に応えられない。そしたら皆に幻滅されてしまう。そんな強迫観念に苛まれて、どんどん自分の首が絞まっていく。
そんな時に、前世の夫である朝倉亮介に出会ったのだ。
図書館で論文の調べ物をしてる時に、彼も同じデスクで学んでいたのがきっかけだった。
『あ…それ……』
『……?』
『あ……ごめん。その著者の本、いつ頃返却されるかな?俺もレポートにその経済学者の本を参考にしたくて、返却されるの待ってたんだ』
『えっ、そうだったんですか!すみませんっ、今調べてるのが終わったら返すつもりです。もうすぐ終わるんで今日返しますね』
『いや、こちらこそ急かしてごめん。じゃあこの時間だけ、今読んでない方の本を借りれないかな?』
『どうぞ』
『ありがとう』
彼の素朴な笑顔に好感を持った。
社長令嬢の私に近づいてくる男の人は、下心が透けて見える人ばかりで、怖くていつも図書館に逃げ込んで勉強していた。
でも彼からはそういった欲は一切感じられなくて、とても話しやすかった。
その会話がきっかけで、図書館で会うたびに話すようになり、同じ経済学部だったので一緒に勉強もするようになって、2人の距離は次第に近づいていった。
彼はとても優秀で、努力家で、いつか起業するのが夢だとキラキラした笑顔で私に語った。
そんな彼に、私は恋をしてしまった。
そして彼も、私を好きになってくれた。
嬉しくて、幸せで、
彼の夢は、いつしか2人の夢へと変化した。
でも、私達の事を両親は認めてくれなかった。
取引会社の息子との縁談を進めていたからだ。
私と彼は必死に両親を説得した。
母はだんだん話を聞いてくれるようになったけど、父は取り付く島もなくて、許してくれないなら私を勘当してくれと詰め寄ってしまった事もある。
私達と父の攻防がしばらく続き、ついに父は折れた。
でも、結婚までは許してもらえなかった。
結婚を許す条件は一つだけ。
彼が父の会社に入り、お見合い結婚で得られるはずだった利益と同等のものを会社に残す事──。
それが私と彼に課せられた試練。
私は彼に夢を諦めさせてしまった事が申し訳なくて、辛くて、何度も彼に謝った。でも彼は責める事なく私を抱き締めて、
『いいんだ。香澄と別れる事の方が俺は耐えられない。それに君のお父さんの会社は業界大手の商社だ。そこでしか得られないノウハウを身につけられるチャンスだと俺は思ってるよ』
彼はまた、あのキラキラした笑顔で未来を語った。
夢はまだ諦めていないと。
夢の形は変わってしまったけど、父の会社で経験を積んで、起業したらやりたかった事をやる。そして結果を出して、2人の結婚を認めてもらえるように頑張ろうと言ってくれた。
『愛してるよ、香澄』
『私も亮介を愛してる』
こんなに素敵な人、この先きっと出会えない。
あの頃は本気でそう思っていた。
彼はやはり優秀で、入社後に着々と結果を出して出世していった。私も違う部署で働き、2人で支え合って名実ともに父に認めてもらう事ができた。
そして30歳になった時に私達は結婚した。
仕事も結婚生活も順調で、とても幸せだった。
この人と生涯添い遂げる。
そう思っていたのに、その幸せは長くは続かなかった。
ある日突然、終わりを告げた────。
『あっ、あっ、ああっ……亮っ、気持ちいい!すごくイイ!もうイキそう……っ、もっと奥突いて!』
『はあっ、いいよ。突いてやるからイッて。ほらっ、イけよ!……イけ!』
リビングから激しく肉を打つ音と女の嬌声、そして夫の艶めいた吐息が聞こえ、私は玄関で立ち尽くした。
『ああーっ、気持ちいいっ。ああっ、あんっ、激し…っ、すごくイイ! あああーっ、もうダメ!イク!イクー!』
『あー、締まる…っ!イく…っ、俺もイク……っ』
2人の嬌声が重なり、同時に果てたのか、激しい息づかいがこちらまで聞こえてきた。
喉が渇いて、声が出ない。
膝が震えて、動かせない。
足の裏が地面に張り付いてしまったように、私はその場から一歩も動けなくなった。
そして信じられない言葉を耳にする。
『ねえ、奥さん出張で帰るの明日なんでしょ?今日泊まっていってもいい?久しぶりに亮とゆっくり過ごしたい。それに、まだ亮が足りないの。奥さんが帰るまでいっぱいシよ?……ねえ、いいでしょ?』
『……ああ。いいよ』
『嬉しい亮介!愛してる!ねえ、亮介は?』
『俺も愛してるよ』
そしてまた、2人の睦み会う音が聞こえてきた。
そこからはもう、よく覚えていない。
気づいたら、会社にいた。
当時も覚えていなかったのだから、生まれ変わった今も思い出すわけがない。
ただ、出張帰りの荷物を玄関に置いたまま家を出たので、私がその現場に居たことはすぐに亮介の知るところとなった。
私はその日から、亮介に会わなかった。
携帯はブロックし、社内電話の時は仕事以外の話をしたら即切って、社内メールは業務連絡以外は無視した。
彼に居場所を突き止められないようにビジネスホテルを転々として、2人の家にも帰らなかった。
お互い管理職で多忙だったのが幸いして、亮介のスケジュールを流してもらい、徹底的に避けたのだ。
まさか、こんな事で社長令嬢の権力を使うとは思わず、情けなくて泣いたのを覚えている。
亮介に会うのが怖い。
これからどうするのか決めるのも怖い。
身動きが取れなくておかしくなりそうな私に、更なる仕打ちが待っていた。
激務とストレスで荒れた生活が続いたせいか、体調が悪くなり、不正出血が続いた。
会社の産業医にすぐに検査に行く事を勧められ、病院に行ったその日、私の生活が一転する。
『一宮さん、検査結果が出ました。……貴女の体調不良の原因は、子宮頚がんによるものです』
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