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結婚式 

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そして時は流れ────



「ブリジット様!おめでとう!」

「エゼルバート、幸せにな!」



親しい仲間や家族たちに祝福され、私とエゼルバートは今日、結婚式を迎えた。


カーライル侯爵家とドレイク公爵家の結婚式とあって、招待客の多さに眩暈がしたけれど、皆に楽しんでもらえるようにいろいろ趣向を凝らしたつもり。

というのも、この世界には披露宴なるものがないのよ。

教会で厳かに誓いの言葉を述べたあとは、皆で立食パーティーで自由に楽しむのが主流なんだけど、今回わたくし、国で初の披露宴をやります!


今後カーライル商会の新たな事業でブライダル関連の商売を始めようと思っているので、自分たちの披露宴はその宣伝も兼ねている。


立食ではなく、レストラン形式で丸テーブルを置いて座食形式にし、今回エゼルと二人で照明にもこだわった。

スポットライトやシャンデリア、各テーブルにはそれぞれデザイン違いのステンドグラスで作ったテーブルランプが置いてある。


これらを作るのに平民街で新たに職人探しから始めて、エゼルには新デザインに見合った明るさの照明魔道具を作ってもらい、劇団員を一定期間雇って舞台演出と、余興の練習を念入りに行なった。

ちなみに余興は歌劇で歌う愛歌をショートバージョンで歌ってもらう予定。

招待客に評判が良ければ、正式に劇団と契約を結んでブライダル事業に協力してもらうつもりでいる。



準備期間は一年かかった。

エゼルと二人で作り上げていく作業は大変だったけど、とても楽しかった。


他にもウェディングケーキ入刀やファーストバイト、花嫁から両親への手紙。そして映像記憶装置で撮り溜めた家族や友達の写真、映像を編集してスクリーンで上映した。

前世の日本ではよくある演出だけど、この世界の人たちにはやっぱり衝撃だったみたい。


本来の映像記憶装置の使い方ができて大満足。決して人の情事を盗み撮りするための道具ではないからね!



そんなこんなで、結果で言えば初めての披露宴は大成功を収め、笑いあり、涙ありの感動的な結婚披露宴となった。

特に女性陣に好評で、ぜひ自分や娘の結婚式をプロデュースしてほしいと依頼が殺到し、新事業も幸先の良いスタートを切れそうだ。



そして私の控室には、イアンからお祝いの花束と電報が贈られていた。



『幸せになれ ブリジット』



彼は前世の亮介の記憶を頼りに新事業を展開し、パトロンを見つけて自動車の開発に取り組んでいる。

おそらくハネス家の物流会社で宅配サービス事業を展開させたいのだろう。もしそれが実現すれば、ハネス伯爵家は将来莫大な利益を得られるでしょうね。



頑張ってね、イアン──。



かつての元婚約者に心の中でエールを送りながら、私は侍女たちに連れられて次の準備に向かう。



披露宴のあとは、初夜が待っている。










◇◇◇◇




侍女に全身磨かれて、自分でデザインしたレースの夜着を身に纏い、ベッドに腰掛けてエゼルの訪れを待った。

今着ているのは、一般的な閨に着る透け透けベビードールではなく、谷間が見えるくらいの深いVネックのロングワンピースだ。

素材はシースルーのシルクと総レースで、全体的に肌が透けているけれど、胸と腰回りだけレースを重ねて見えそうで見えないという、絶妙なバランスのデザインになっている。


初夜という特別な夜に着る純白のレースを基調とした、貞淑さと妖艶さを両方備えた我ながら渾身の力作だ。



そして湯浴み後に夫婦の寝室に入ってきたエゼルは、私を視界に入れた途端、硬直した。


「…………」

「…………?」

「…………」

「エゼル?」


私が名を呼んだ瞬間、エゼルの顔が沸騰したように真っ赤に染まった。


「お前……っ、なんつーエロい格好してんだよ!」

「……エロい?下品てこと? 透け透けの娼婦みたいなのはイヤだから、ウェディングドレスのレースに合わせて上品なデザインにしたつもりだけど……」


やっぱりちょっとあざとすぎた?


褒めるどころか、怒ったようなエゼルの反応に、何だか居たたまれなくなってシーツを纏い、夜着を隠した。

どうやらエゼルはお気に召さなかったようだ。



「ああ、違うんだブリジット。ごめん。間違えた」

「何がよ」


エゼルが慌てて私に近づき、シーツを剥ぎ取った。そして私の体をギュッと抱きしめる。


「ごめん、違うんだ。俺の奥さんがあまりにも綺麗で色っぽいから、理性が吹き飛びそうになった……っ。それくらい、俺には刺激的なんだよ」

「エゼル……」

「初夜だから優しくしたいのに、初っ端から俺を煽るなよ。今すぐめちゃくちゃに食ってやりたくなる」


いつもの幼馴染ではなく、男の顔をしたエゼルの金の瞳が獰猛に光る。そして私の体を食い入るように見つめた。


そのまま顔が近づき、口付けしそうな至近距離でエゼルが甘く囁く。


「綺麗だよ、ブリジット。ホント、たまんない」


そう言うと、エゼルの名を呼ぼうとした私の唇を噛みつくように塞ぎ、激しい口付けを受けた。

本当に食べられるのではないかいうくらい、口内を蹂躙し、舌を貪られる。

卑猥な水音が部屋に響いて、私の羞恥心を煽った。



「はあ……っ、愛してるブリジット……っ」

「んんっ、ふっ……エゼル……私も」


エゼルの深い口付けが私を翻弄し、体の熱がたまっていく。

彼の骨ばった大きな手が、総レースの夜着の表面を撫で、その緩やかな快感に、私の口から勝手に甘い吐息が漏れた。


「やっと……やっと俺だけのものになった」


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