【完結】惚れ薬の調合に失敗したので、何故か花嫁のフリして白銀王子に溺愛された魔女の話。

ゆいレギナ

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主人のいない間の出来事⑤

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 ……その後、私は連行されるように自室に戻された。

「あなたは何をしたか、わかっているんですか? 無資格の素人が無断でプロの仕事場を荒らし、挙げ句に患者に投薬だ? 王族になったと気が大きくなっているのかもしれませんが、医療者には医療者の不可侵領域というものがあります。越権も甚だしいのでは?」

 椅子に座らされ、立ったままのクルトさんに説教されている。私を見下ろすその煤色の瞳はより冷たい。仰ることはごもっともです。私はドレスの刺繍と膝の上に重ねた己の手を見つめることしかできない。

 ちなみにスカーレット様は隙を突いて、ベッドの下へと逃げたようだ。何かでこの場にいるのがバレて、本当にネズミとして処分されてしまうことを危惧したのだろう。だから……この場は、私がひとりでどうにかしなきゃ。

 そう覚悟を決めた途端、ドタンとした大きな音に私の肩が跳ねる。クルトさんが手近な机を叩いたようだった。

「ずっとだんまりで、何か言うことはないのですか?」

 無理やり促され、私はおずおずと口を開く。

「あの……どうしてクルトさんがいらっしゃるのですか?」
「少なくとも、このような事態を想定したものではないですね」
「ですよね……」

 ため息は胸の中だけに留める。
 あれは、薬師さんが足りない資料を借りに司書室に言っている間の出来事だったらしい。不在の看板を掛け忘れてしまったとのこと。今日はルーファス殿下の出張に同行している薬師さんもいるようで、いつもより人手が少なかったらしい。

 だから私は悪くない――と言うつもりはないけども。正直な所……浅はかさは認めるけど、後悔はしてない。何度あの場面をやり直したとしても、私は同じことをする。今苦しんでいる人を助けられる手段があるのに、見捨てるなんて出来ない。

 ――魔女の力のほとんどは、他人のために。
 おばあちゃんから引き継いだ矜持を支えに、私はクルトさんを見上げた。
 クルトさんが中指でメガネを上げる。

「それで? あなたが治療してあげようとしたと」
「はい」
「スカーレットが?」

 ――呼び捨て?

 一瞬驚くものの、そういやスカーレット様とクルトさんは幼馴染だったよね、と思い出す。ふと部屋には二人きり(当然私のドレスの中には本物のスカーレット様がいらっしゃるけれど)なのだ。敬称が抜けることもあるだろう。

 私が頷くと、クルトさんは嘆息する。

「薬師に確認したが、治療手順や処方、調剤は文句なしに完璧だったらしい。兵士の経過も良好。まだ完治とは言えないまでも、出すもの出して、動けるようにはなったらしい。兵士から感謝の言葉を預かっている」

 その報告に、私はほっと胸を撫で下ろした。良かった……ちゃんとお役に立てたみたい。
 だけど、頬を緩めた私に対して、クルトさんの表情は険しくなる。

「聞かせてもらう――王室薬師を唸らせるほどの完璧な調合知識を、どこで身につけたんだ?」
「……一通りのことは嗜んでおりますので」
「その『一通り』の範疇を超えているから聞いている」

 スカーレット様から教わった躱し方を披露するも、やっぱりクルトさんには通じないらしい。
 どうしよう……困ったな。今この場でスカーレット様に助言を求めるわけにもいかないし。もちろん『私は偽物です』『正体はしがない魔女です!』なんて言えるわけがない。私はともかく……スカーレット様が打ち首になろうもんなら大変だもの。

 だから、私は何も言葉を返すことができない。だけど顔をそらせば、片手で顎を掴まれ、無理やり目を合わせられる。
 その近い顔は、ルーファス殿下ほどではないが綺麗に整っていた。だけど圧倒的に違うのは、掴まれた顔が痛いこと。そして“スカーレット様”を映す瞳に、敵意があること。

「――おまえは、誰だ?」
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